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介護に備える

AIロボと高齢者、進む「心」の交流 介護現場で活躍思いやりの気持ち、刺激

2017/1/25

介護に備える

ペッパーとの交流を楽しむ越田昌子さん(東京・荒川の「ライフ&シニアハウス日暮里)
ペッパーとの交流を楽しむ越田昌子さん(東京・荒川の「ライフ&シニアハウス日暮里)
ロボットが介護の現場で活躍している。人工知能(AI)を搭載したヒト型ロボは、お年寄りの間で人気。ロボの音頭に合わせてイキイキと体操し、会話を楽しむ。ロボと接していると気持ちが楽になり、人間に対するときよりも思いやりの気持ちが強くなるという。高齢者のこころの健康に機械が役立っている。

1月中旬の午後3時すぎ、神奈川県二宮町にある特別養護老人ホーム「メゾン・二宮」でレクリエーションが始まった。お年寄り30人ほどの体操の手ほどきをするのは、身長120センチのAIロボ「ペッパー」。「両腕を上げて右に左に動かしてください」。ペッパーの動きに応じて、みな笑顔で体を動かす。

体操が終わり、「今日の気分はいかがですか」とペッパーが全員に問いかけると、80歳代の男性が「まあまあだね。今日もご苦労さん」と答える。するとロボが「ありがとうございます」。やりとりに満足そうなこの男性、「ロボットは感情がないのがいい」と話す。人間は表情と心の内が一致しない時があるが、ロボの言葉は額面通りに受け取れるので、会話で心が穏やかになるそうだ。

施設を営む社会福祉法人一燈会(神奈川県開成町)が、ペッパーを入所者らとのコミュニケーションロボとして導入したのは昨年2月。ペッパーには介護用の体操メニューや昭和歌謡がプログラミングされている。常務理事の山室淳さんは「おおむね好評」と手応えを感じる。その上で「物珍しさだけではなく、お年寄りはロボに心を通わせている」と分析する。

高齢者とロボットは相性がいいのではないか――。有料老人ホームなどを首都圏を中心に展開する長谷工シニアホールディングス(東京・港)は、一燈会と同様にこう考える。国の介護ロボ機器開発に関する実証試験に認可されたのを受け、昨年8月から27施設でAIのコミュニケーションロボ57台を取り入れた。

ペッパー5台のほか、運動が得意でフラメンコもお手のものの「ナオ」(身長60センチ)が26台、顔認証ができる「パルロ」(同40センチ)が26台だ。いずれもレクリエーションのスタッフとして働き、介護職員の負担軽減にも貢献する。

同社が東京都荒川区に構える施設で暮らす越田昌子さん(84)は、ロボを「この子」と呼び交流を楽しむ。東京・神田で生まれ、浅草で育った江戸っ子気質の越田さんは体が衰えたとはいえ、誇りを失わず日々を過ごす。そんな越田さんはこう話す。「この子から体操であれこれ指示されてもなぜか腹が立たない」

若い介護職員から同じようなことを言われると、「細かいことを言わなくても私はできる。そのくらいの気づかいをしてほしい、私の好きにさせてほしいと思うことがある」。ロボはそんな配慮ができないから仕方がないか、といった気持ちになるという。心の動きが越田さんとは異なるかもしれないが、体操に見向きもしなかった入居者がペッパー相手だと参加するケースは多いそうだ。

都内の施設でロボと体操する男性(76)は「楽しいからやっているわけではない」と打ち明ける。「(ロボが)一生懸命やっているので、無視すると悪いから」。男性は機械に対して思いやりの気持ちを抱く。

精神科医で認知症をはじめとする高齢者医療に詳しい一般社団法人認知行動療法研修開発センター(東京・新宿)の大野裕理事長は言う。「思いやりの気持ちは人間が本来持っているもので、人間の心を元気にする。相手が機械とはいえ、そうした心の動きが生じるとすれば、心の健康を保つ上で結構なこと」

大野理事長によると、介護の現場にコミュニケーションロボが普及し始めたのはここ1、2年。ペッパーやパルロの声色がだれに対しても高音のため、不快に思う高齢者もいるなど、まだまだ改善の余地はあるのも事実だ。だが「今後、高齢者のケアで重要な戦力の一つに育つ」と断言する。

◇   ◇

合掌苑が導入した介護職員の腰の負担を和らげる「ハイテクウエア」

ロボットは高齢者をケアする介護職員の働き方にも役立っている。東京都町田市と横浜市に介護施設を展開する社会福祉法人合掌苑(東京都町田市)は昨年末、ロボの制御技術を活用して介護職員の腰痛を防止するという「ハイテクウエア」を導入した。

北海道大学のベンチャー企業から120着購入。背中から腰にかけて装着するゴム材が腰にかかる負担と疲労を軽減する。ゴム材はロボによる制御技術をもとに設計された。ウエア全体で600グラムほどと軽いため、合掌苑の職員は勤務中付けたまま。男性職員は「働いた後、腰の疲労度が少ない」と話している。

ヘルパーをはじめとする介護職員は入浴や排せつのケアで長時間、中腰になったり、不自然な姿勢を強いられたりして腰痛を患う人が多い。介護現場の働き方改革でロボの役割は高まりそうだ。

介護ロボット モーターなどで介護作業を支援するロボット。要介護者や介護者が使用することで、身体的もしくは精神的な負担軽減につなげる。要介護者を目的地まで運んでくれる移乗ロボや、歩行リハビリを支援するロボの開発が盛ん。ペッパーなどコミュニケーションロボは介護ロボとみなさない場合が多い。

(保田井建)

[日本経済新聞夕刊2017年1月25日付」

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