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実は断然お得! 外国客船クルーズは人生の晴れ舞台

客船クルーズのススメ(1)

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NIKKEI STYLE

旅、といえばどこへ行くにしても必ず交通手段を乗り継いで移動し、ホテルにチェックインし、荷物を気にかけながら、時間に振りまわされがちだ。目的地が複数になれば、その分移動やパッキング、支払いのわずらわしさも倍増する。これらの労力をなくし、しかも格段に安く、そして一緒に旅する仲間全員が、自由気ままに思い思いの時間を過ごせる旅のスタイルがある。外国客船クルーズだ。ここ十数年人気が上がり続け、世界各地に波紋を生んでいる。そしてその波は日本にも押し寄せている――。

世界で注目される日本・アジア海域

クルーズ船は、毎年次々と斬新な発想で造り出され、世界中の海に300隻を超える客船が浮かんでいる。海外で人気の海域は、夏場の北欧フィヨルドやアラスカ、地中海、秋はカリブ海やパナマ運河、冬には南米やオセアニアと、船の行き先はいつもハイシーズンだ。乗船客はリピーターが多く、常に新しい寄港地を目指している。

最近開拓されているのが日本をはじめとするアジアの港だ。日本に配船する船会社も増え、日本寄港や日本発着で気軽に楽しめるルートが増えてきた。これまで、低価格で航海期間が短い外国客船は、飛行機に乗って海外へ渡らなければ楽しめなかったのと比べると、隔世の感がある。

陸路や空路とまったく異なる旅が展開

外国客船の中でいち早く本格的に日本に進出したのは、カーニバル・コーポレーション傘下のプリンセス・クルーズだ。海から日本を再発見するさまざまな船旅を2013年から毎年展開している。2017年には、横浜と神戸を母港とする日本発着のクルーズを年間28本(4チャータークルーズ含む)予定する。例えば同社の客船「ダイヤモンド・プリンセス」のルートには、横浜から青森、秋田、富山、釜山(韓国)、鹿児島の港を10日間でめぐるルートがある。もし、これらが空路と陸路だったらどうだろう?

空港へ行きチェックイン、到着後に荷物をピックアップして乗り継ぎ、ようやくホテルにチェックイン。少し休んだら食事を済ませ、パッキングをして翌朝あわただしくチェックアウト。同行者に合わせての買い物などで、行きたい場所への時間も限られる。食事や移動、宿泊のたびに幾度となくやってくる支払いの数々……。とても1回の旅で各地をめぐりたいと思う人はいないだろう。

ショーも食事も込みで1日1万円ほど

クルーズの旅行代金には、ショーも食事も移動も宿泊もすべて含まれる(エステや有料ダイニングルームなどの一部有料サービスは除く)ので、乗船時にクレジットカードを登録すれば、あとは下船する際に自動で引き落とされる仕組み。航海中は炊事、そうじ、支払い、パッキングといったわずらわしさから解放され、食べて、飲んで、楽しんで、寝ている間に、新しい街が歓迎してくれるという寸法だ。自宅にいる延長のような気楽さがありながら、なんとも贅沢(ぜいたく)な時間が約束されている。

クルーズは、昔ながらの移動手段でありながら、旅のデスティネーション(目的地)そのものでもある。「ちょっとそこまで行ってくる」というような服装で家を出て、5日間でも2週間以上でも、帰宅までスーツケースを持つ必要はない。1人でも、誰とでも参加でき、おのおのが自由に過ごせるのも魅力の一つ。舞台鑑賞やダンスレッスン、映画鑑賞、落語など毎日変わるプログラムに参加するもよし、自分だけのスペースで読書するもよし、カジノで一獲千金の夢を見るもよし。各自思い思いの時間を過ごし、食事の時間だけ一緒に楽しむこともできる。

食事はフルコースメニューが楽しめるダイニング(食堂)のほか、イタリアンなどのスペシャリティーレストラン、ビュッフェ形式のカジュアルダイニングなどが多数あり、好きな時間に、好きな場所で、好きなものをいただくことができる。寄港地でも手ぶらで過ごすことができるのも魅力だ。荷物制限がないので、重量を気にすることもない。

しかも、外国客船クルーズであれば圧倒的にリーズナブルな価格で楽しめるのがうれしい。6日間のショートクルーズであれば7万円台からあり、1日1万円程度の料金にこれらがすべて含まれているのだ。

外国客船に対する不安を解消

客船というと、よく心配される事項として病気や食事、服装、船内ならではのルールなどが挙げられる。外国客船であれば、言葉が通じるかどうか、不安を覚える人も少なくないだろう。しかし、これらも十分に配慮してくれている。例えばダイヤモンド・プリンセスは日本人スタッフや日本語対応スタッフを100人規模で配置しており、すしレストラン、大浴場のほか、簡単な手術ができる医務室まで完備している。乗客約2700人、スタッフ約1100人を乗せる大型船であっても、テーマごとに空間が区切られているため、プライバシーも配慮されている。

船旅では、客船や日数によって異なるが、ドレスコード(服装規定)で「フォーマルデー」という日が設けられており、夕方以降の服装は、基本的に正装となっている。この日の夜は、ふだんなかなか出番のないとっておきの服装や、ここぞというときに使いたいアクセサリーなどを身に着け、めいっぱいおしゃれを楽しむ人も多い。その一方で、堅苦しい装いが苦手なら、ダイニングルームを避ければ気楽な格好で食事することもできる。

船内の支払いなどに関する手続きの簡単さも魅力だ。乗船時に受け取ったクルーズカードが、ルームキーのほか、食事や船内ショッピングのカードとして、また国内乗下船時のIDとして機能する。

船はまるで人生の晴れ舞台

クルーズは、舞台(船)、シナリオ(旅程)、キャスト(主人公)、共演者(スタッフと乗船客)がそろわなければ成立しない。

高層ビルに匹敵する巨大な舞台はキャストの活躍、共演者の動線、テーマごとのシナリオを想定してデザイン、建造される。スタッフは本番を迎える前に徹底してトレーニングを受け、シナリオに合わせ常時台本をたたき込む。主人公はその舞台に驚き、共演者と語らい、初めて見るシナリオに心躍らせ、感動する。幕が下りると自分に拍手を送りたくなるだろう。そして「アンコール!」の声が心の内から聞こえてくるのである。

船で生活するなんて……と思いながら足を踏み入れるのが大半であろう初クルーズ。しかし一方で、クルーズのリピート率は9割ともいわれる。フレンドシップの語源とされるように、新しい場所や新しい人との出会い、その距離が縮まっていく独特の雰囲気が船旅にはある。

船旅の最終夜になると数日間生活をともにしたスタッフや顔見知りになった乗船客たちとの別れがつらくなる人も少なくない。最後の晩餐(ばんさん)がやってくると、もの悲しい気持ちになるものだ。「あすから、タオルを投げっぱなしにしたり、食卓や部屋を散らかしっぱなしにしたりしたらどうなるだろう?」という思いが頭をよぎる。下船当日、船から一歩踏み出すその時、心はすでに次のクルーズに向かっているかもしれない。

(エフジー武蔵)

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