睡眠研究の「異時間空間」 隔離実験室に潜入する

日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/2/21

スマホとパソコンはダメ

隔離実験室の外部には、実験室内で収集した脳波、心電図、筋電図、活動量、認知機能などの生体データをリアルタイムでモニターするコントロールルームがあり、実験期間中は研究スタッフが常駐している。

いったん隔離実験が始まり、2カ所の分厚いドアを通って実験室に入ると基本的に緊急時以外は実験終了まで外に出ることはできない。したがって長期隔離実験ともなれば仕事や学校も休まなければならないため、参加できる人(被験者)はごく限られてくる。参加していただく謝金はかなりの額だが、被験者を見つけるのは一苦労である。

こちらは個室。眠の深さや異常の有無を調べる「睡眠ポリグラフ検査」はこんなふうに行われる。(イラスト:三島由美子)
スタッフが常駐し、隔離実験室の外部からリアルタイムでモニターできるようになっている。(写真:三島和夫)

実験のセットアップやデータの監視、被験者サポートなどのため、被験者1人につき2、3人のスタッフが交代で24時間張り付く必要がある。実験が長期間続くとスタッフの負担はかなり大きくなる。実験をする側が睡眠不足や不眠になっては笑い事ではないので、スタッフの体調管理にも気をつかっている。

このような特殊な実験施設があるのは、国内ではほかに札幌(北海道大学の教授が私的に保有)とつくば学園都市(JAXA=宇宙航空研究開発機構が保有)の合わせて3カ所。海外でもドイツのマックス・プランク研究所、米国のハーバード大学など限られた場所にしかない。もっとも軍関係の研究所など外部に公開されていない施設もあるだろうが。

ちなみにJAXAの隔離実験室はISS(国際宇宙ステーション)を模した間取りになっており、長期にわたる宇宙滞在が心身に与える影響を研究している。漫画「宇宙兄弟」でもその様子が描かれている。

研究目的によっても異なるが、基本的に実験期間中は被験者や患者さんの時計やスマホ、パソコンなどの私物を預かる。時刻情報や外部との通信を完全に遮断するためである。後で説明する試験内容よりも、被験者にとってはスマホを取り上げられるのがかなり辛いようだ。そもそも隔離実験室の壁は磁気シールドされていて、スマホの電波は届かないのだが。

スマホを禁止するのには理由があって、現在時刻が分かると睡眠・覚醒状態や体内時計に影響を与えるから。今が真昼だと分かるとそれだけで覚醒度が高まるし、たとえ体内時計的には昼でも今は深夜だと言われれば不思議なことに眠気が強まる。自覚的にだけではなく、脳波で測定した客観的な眠気も影響を受ける。心理的な影響(暗示)は侮れないのである。

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