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カリスマの直言

暴落かバブル再来か 「強い米国」の行方(澤上篤人) さわかみ投信会長

日経マネー

2017/2/27

日経マネー

澤上篤人氏(撮影:大沼正彦)

澤上篤人(以下、澤):2017年の投資環境は、トランプ米国大統領の言動に振り回される展開となるだろう。株式市場も幾度となく暴落に襲われるのを覚悟しておこう。

 個人投資家のみならず機関投資家も、ちょっと付いていけない相場展開となるのではないだろうか。派手な乱高下を繰り返しながらも、1年を通してみると上昇していたといった流れで、一般的な投資スタイルでは太刀打ちできないことになると思う。そうなると、いよいよわれわれのような本格派の長期投資家の出番である。今月は、そのあたりを草刈と話し合ってみよう。

■強い米国の復活というが

澤:トランプ氏は選挙戦中に幾度となく、産業保護を訴える発言をしている。いくら選挙公約といえども、ここまでグローバル経済の恩恵をたっぷり享受してきた米国経済で、果たしてどこまで海外製品の流入を抑え込めるか甚だ疑問である。

草刈貴弘(以下、草):メキシコとの国境に壁を作るというのが印象的でしたので、NAFTA(北米自由貿易協定)を今後どうするかについて注目が集まっています。メキシコへ工場を移転する予定だった企業に待ったをかけて、企業の行動を制約しています。彼の属する共和党は、自由な経済活動で小さな政府を目指すはずなのに、全く逆のことをやっている。

澤:そもそも競争力を失ってしまっている米国内産業を下手に保護しようとすると、米国内の物価は急上昇し国民生活に大きなダメージを及ぼすことになる。インフレも起こしかねない。つまり、そう簡単に国内産業保護の政策を進められるはずがない。

草:なぜ物価が上がる可能性があるのかは、メキシコの例が分かりやすいかもしれませんね。既にメキシコには米国企業の工場が進出していて、輸出されている額は10兆円レベルだそうです。そこにもしメキシコから米国に輸出されるものに関税がかかれば、それだけ価格が上がるのは簡単に分かります。加えて、そもそもメキシコから輸出される製品の3割以上は米国製のものだそうです。つまり、米国からメキシコに運んで、最終的に米国に行くわけです。そのたびに関税がかかったら価格は跳ね上がるかもしれません。

澤:そうなると、次の手は中国製品に高率の輸入関税を課すとか、日本の対米輸出に有利となっている円安傾向は無視できないといった対外的な強硬発言だろう。これも米国民からすると、米国産業を守るというポピュリズム政策の一環として受け入れやすい。

さわかみファンドCIOの草刈貴弘氏(左)

草:為替への発言は、ドル・円に大きく影響する可能性がありますよね。ただでさえ為替の動きは激しいのに、そこに投機が入ってくるでしょうから、めちゃくちゃな動きもあるかもしれません。

澤:そうなると、日本株市場にとっては強烈なパンチとなる。日本では円安イコール日本経済にプラス、そして株高になるから歓迎とする経営者や投資家が多い。それが、米国から「円安はケシカラン」と怒鳴られたら、だらしなくマット上に崩れ落ちてしまうのは目に見えている。トランプ大統領が「円安は米国の国益に反する」と発言した瞬間に、日本株式市場は大暴落となろう。何しろ彼は政治や外交の経験はないが、不動産上がりの事業家だ。交渉相手に脅しをかけるようなことはお手のもの。絶妙のタイミングを狙って円安阻止の政策発言をしてくるはずだ。

 多くの投資家が右往左往する中、われわれ長期投資家はごきげんの安値拾いを進めることになる。

草:2010年からアベノミクスが始まるまで円高だった時は、本当に日本の企業も株式市場も割安で仕込めましたからね。

■金融バブルの再来も

澤:トランプ政権の中枢にゴールドマン・サックス社の幹部が次々と登用されている。リーマン・ショックで金融バブルが崩壊した後、米国政府と米連邦準備理事会(FRB)は金融の暴走に厳しい歯止めをかけ、不良債権の処理を急がせた。それが奏功して、米国の銀行では経営の健全化が進んだ。しかし、ゴールドマン・サックス出身者が新政権の金融経済政策に深く関与するとなると、またぞろ金融の横暴を許すことになるのかもしれない。「マーケットで何をやっても、お金を儲けるのが勝ち」といった論理が暴走を始めると、2000年代の金融バブルに近い状況の再来も想定しておこう。

草:今回の大統領選では格差をどうするかも大きなポイントでした。ウォール街の人は格差の象徴のような扱いだったので、それに近いとされたヒラリー氏は予備選でも苦戦していました。トランプ氏はそれらに影響されないと豪語していたはずなのに、結局はウォール街の論理が強くなるのかもしれないですね。

 以前、私が米国に出張した際、空港で米国の白人男性に話しかけられました。彼の仕事は建設機械のオペレーターだったのですが、優れた技能を持っているようで米国中を飛び回っているそうです。「ところで、君の仕事は?」と聞かれ、「ファンドマネジャーだよ」と答えた瞬間、表情が硬くなり背を向けられてしまいました。後日現地のウォール街に勤める日本人男性に聞くと、金融業界に対して不快感を持っている人もいるようで、彼自身も職業を聞かれた時は、メッセンジャーと答えると言っていました。それほどまでに金融業界の影響力は強いのだと感じました。

澤:一つだけ違うのは、今回は金利の上昇を伴ったバブル展開となることだろう。前回のように、世界中のあり余った資金が金融商品への投機に流れ込んだのとは、かなり様相が違う。ヘッジファンドなどの売り買い両建てディーリングも、金利上昇でどんどんコスト高となっていく。もちろん債券などの確定利付物は、金利上昇で上値が抑えられるどころか値下がりリスクも高まるから、値動きは荒くなる。

 そんな中、株式などの実物投資は、より脚光を浴びるようになるだろう。債券から株式への歴史的な資金シフト、グレートローテーション(大転換)がジリジリと進んでいることもあって、今回は株式を中心としたバブル投機が膨らむ可能性が高い。

草:市場が過熱している時は何でも上がるからインデックスでもいい。でもそれが崩れた後に大きな差が出てくる。良い企業ほど株価は戻るけれど、玉石混交のインデックスが戻りにくくなるのは当然。地に足着けて個別株にじっくり投資するのが一番だと思いますね。

澤上篤人(さわかみあつと)
 1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年あえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。

草刈貴弘(くさかりまさひろ)
 2008年入社。ファンドマネジャーを経て13年から最高投資責任者(CIO)。

[日経マネー2017年3月号の記事を再構成]

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