下手を打ったバレンタインデー大作戦
立川笑二
師匠と兄弟子の吉笑とともにリレー形式で連載させていただいているまくら投げ企画、15周目。今回の師匠からのお題は「バレンタインデー」。
中学2年生のころ、私はバレンタインデーに同じクラスのすべての男子20人の机の中に差出人の名前が書かれていないラブレターを添えてチョコレートを入れてみようと思い立った。
それまでバレンタインになると浮かれながら登校し、うなだれながら下校するのが恒例だった私はひねくれていたのだと思う。
差出人の名前が書かれていないチョコをもらったクラスの男子たちが浮かれている姿を思い浮かべ、ニヤニヤしながら計画を立てた。
まず普通の板チョコを渡すのでは面白くないからと、近所のスーパーでバレンタイン仕様に包装された500円ほどのチョコを20個購入した。
お年玉からの出費は痛かったが、友人たちが浮き足立つ姿を思い浮かべれば苦にはならなかった。
それらを自宅に持ち帰り、次にメッセージの作成にとりかかったのだがこの作業がなかなか難しかった。
同性に対して20通のラブレターを書くのだから簡単なわけがない。
頭を悩ませながらも、比嘉くんへのラブレターの書き出しは「いつも、ソフトボール部の練習みてます!」
すでに彼女のいる松田くんには「○○ちゃんと付き合ってるの知ってるけど、実は私も好きでした」
あまりしゃべったことのない大城くんには「給食、いっぱい食べてるね! そんなあなたが……」
と書いて書いて書きまくった。
そのうちに段々と調子が出てきて最後に残された自分自身へ宛てたラブレターはポムポムプリンの便箋を3枚も使った超大作が出来上がった。
この作業は深夜まで続いたが、これまで味わったことのない幸福感あふれるバレンタインデー前夜だった。
そしてその翌日、案の定、私は寝坊した。
あわてて家を飛び出して学校に着いたのが朝のホームルーム開始の30分前。
幸い誰も教室にはいなかったため早速作業にとりかかろうと、まず自分宛てのバレンタインチョコを机のなかに入れようとした時、ありえない物を見つけてしまった。
私の机の中に既にチョコレートが1つ入っているではないか!
そんなバカな!
真夜中に同性へのラブレターを20通も書いて幸福感に包まれているようなやつにチョコをくれる人がいるわけがない!
きっと誰かのワナに違いないと、包装をバリバリ破いてみると入っていたのは明らかに手作りのチョコレートと1枚のラブレター。
差出人は小学校からの幼なじみの玉城さんだった。
それから1カ月後のホワイトデーの放課後。
私は付き合うことになった玉城さんと二人っきりで下校していた。
彼女の家の前に着いたとき、私はバレンタイン仕様に包装された大量のチョコレートと、自分で作った1つのチョコレートを渡して、バレンタインデーに失敗した計画のことを一生懸命面白おかしくしゃべった。
玉城さんが思っていたよりも笑ってくれたので、調子に乗った私は「後でこれも読んでみてよ! 最高だから!」と、これまた大量のラブレターを渡した。
その翌日、私達は別れることになった。
玉城さんから「ごめんなさい。さすがにこれはちょっと無理だった」と言われて渡されたポムポムプリンの便箋には
「弘之くんへ。私はイケメンで優しくて勉強も出来るあなたのことがずっと好きでした……」
から始まる3枚の熱い熱いラブレターだった。
(次回1月29日は立川吉笑さんの予定です)
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