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メルマガ発行で部下のワークライフバランスへの理解を促した損害保険ジャパン日本興亜の沖井さん(左から2人目、東京都新宿区)

メルマガ発行で部下のワークライフバランスへの理解を促した損害保険ジャパン日本興亜の沖井さん(左から2人目、東京都新宿区)

管理職が企業の枠を超えて職場の課題を話し合い、解決に取り組む「イクボスアクション&ネットワーキング」。昨年末に東京都内で開かれた取組共有会でベスト・プラクティス賞に選ばれたのが、ワークライフバランスを職場に浸透させるための「作戦TKH」だ。業種も職種も異なる5人がそれぞれの職場で成果を出した作戦の中身とは。

「ワークライフバランス(WLB)への理解を深めるにはどうしたらいいか」。同じ問題意識を持つ管理職5人が昨年10月、自社の状況や悩みを語り合った。

メンバーの一人、日立ソリューションズ拡販支援部部長の増井章二さん(57)は、事業部内のダイバーシティ担当を務める中で「啓蒙活動をしても、古くからの価値観はなかなか変わらない」と感じていた。「頭では分かっていても働き方を変えられなかったり、すごく働いている人が評価されたりと業務優先。個人の心が変わらないと定着しない」。心から納得してもらうには何をすべきか模索していた。

有給休暇の取得が進まないことに頭を痛めていたのはビル管理システムなどを手掛けるジョンソンコントロールズ(東京・渋谷)で12人の部下を率いる藤本雅樹さん(44)。「休まないのが美徳という古い考え方を変えなくては」と思っていた。損害保険ジャパン日本興亜の事務企画部門でリーダーを務める沖井和幸さん(47)は、「WLBは一部の人だけでなく全員に関係することなのに、それが伝わっていないと感じていた」。

実情を共有し合う中で、必要なのは上からの押しつけではなく一人ひとりの意識改革を促すことだと一致。そこで取り組んだのが、管理職自身が「手本を示し(T)」、部下に「考え方を伝え(K)」、「話し合う(H)」という3つのアプローチ、名付けて「作戦TKH」だ。

 ◇   ◇

だらだら残業をしないという「手本」を示すことに取り組んだのは、チューリッヒ保険の業務部門で課長を務める野山祐一さん(47)。以前から「仕事が終わっても、周囲の目を気にして定時に帰るのをためらっている自分に釈然としない思いがあった」という。

定時退社への心理的ハードルを自ら取り払うため、業務に支障がない日はスケジュール表の午後5時以降の予定をブロック。打ち合わせが入らないようにして定時退社を実践した。早く家に帰り3人の子どもとの時間を持てるようになった、と社内SNS(交流サイト)で発信すると、多くの「いいね」が寄せられた。

テレワークを自ら実践することで、部下にも活用を促した日本たばこ産業の小松さん(右から2人目、東京都中央区)

テレワークを自ら実践することで、部下にも活用を促した日本たばこ産業の小松さん(右から2人目、東京都中央区)

日本たばこ産業の医薬情報部次長、小松文美さん(47)は、自宅でのテレワークやフレックスタイムを積極的に活用することで、部下にも利用を促した。いつでもテレワークができるよう、部内の会議をテレビ会議に切り替える工夫も。意識的に働き方を変えたことで「時間管理を徹底するようになり、業務の効率化にもつながった」。テレワーク中は部下の状況を確認しながら明確な指示を心がけるなど、マネジメントにも好影響があったという。

週1回、WLBについてつづったメールマガジンを部下に送ることで「考え方を伝える」を実践したのは沖井さんだ。「自分自身の考え方を知ってもらい、他社のイクボスの知見も共有することで、部署全体に理解を促したかった」

「WLBは人それぞれ」「支え合いが大事」など、メッセージを明確に打ち出したメルマガを5回発行。後日部内で実施した無記名式アンケートでは「WLB充実に取り組みたい」との回答が100%に達した。

定期的にWLBについて「話し合う」時間を設けたのは増井さん。毎週月曜に1時間実施している定例会議の最後の10分を「WLBタイム」と名付け、趣味や家族などプライベートについて自由に話し合う時間にした。「むりやり聞かない」がルール。「たった10分でも話題が広がり、相互理解やコミュニケーションが深まった。仕事を効率化してライフも充実させようという意識を醸成するきっかけになったと思う」

藤本さんは有休を取得しない部下と個別面談を実施。仕事やプライベートの予定を聞き取ったうえで、有休の取得計画を話し合った。結果、年度末までに部下全員が5日間の有休を取得する予定が立ったという。

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それぞれの職場で成果を出した作戦TKH。「皆が一歩を踏み出せた」と野山さんは振り返る。他社の管理職と一緒に取り組むことで「他の人がやっていることを参考にできたし、励まし合えた」(小松さん)、「会社の中だけでは得られない新しい発見がたくさんあった」(増井さん)という利点もあった。

WLBに詳しい法政大学の武石恵美子教授は「管理職の役割負担が増す中、様々な企業の人と意見交換をして気づきを得られる意味は大きい」と指摘。「制度や仕組みをつくっても、WLBを実現できるかは現場の管理職次第。管理職自らWLBを実践し、かつ仕事でしっかり成果をあげていくことが重要だ」と話す。

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イクボスアクション&ネットワーキング

部下のワークライフバランスに配慮しつつ成果を上げる「イクボス」。この育成に取り組む企業のネットワーク「イクボス企業同盟」(1月19日現在124社)が東京と大阪で昨年10月から実施。25社から約200人の管理職が参加し、「部下の育成」や「多様な価値観を認め合う組織づくり」などのテーマごとに4~5人の班に分かれて議論。班ごとに決めた具体的な行動計画を1カ月間実践し、12月に成果を発表した。

(女性面編集長 佐藤珠希)

[日本経済新聞夕刊2017年1月23日付]

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