『鶴瓶の家族に乾杯』 本当のぶっつけ本番にこだわり
笑福亭鶴瓶とゲストが、素敵な家族を求めて日本各地を"ぶっつけ本番"で旅する「鶴瓶の家族に乾杯」。月1回の放送で1995年から始まり、2005年から毎週のレギュラーになった。20年以上続く番組だが、基本コンセプトは変わっていない。「本当にぶっつけ本番なんですよ」と、制作統括の杉山賢治氏は語る。
訪れる場所は、ゲストとの打ち合わせでヒントを得て決める。「例えば漁師飯を食べてみたいとか、農作業を手伝ってみたいとか、ゲストさんの興味のあることを聞いて、それが達成できそうな町を選んでいます。よく知っている土地では意味がないので、行ったことがないところをベースに考えます」。これまでに同じ町を訪れたことは数回程度。鶴瓶にとっても毎回が新鮮な旅になるようにとの配慮からだ。
スタート地点から先は2人の思うがまま。途中で二手に分かれて個人行動の時間を設けているが、どこで分かれるかも鶴瓶のタイミングに任せている。重視しているのは、当初の目的を達成することより、1日を楽しんでもらうこと。「出会った方が面白かったりして、目当てにしていたことから全く違った方向に転がっても、それはそれでいいかなと。家族をテーマにしていますが、決まり事は特にはありません」
一般の人との出会いを楽しむ番組は他にもあるが、差別化できているのは鶴瓶によるところが大きい。「最初は距離感があるけれど、鶴瓶さんがあの笑顔で近付いて声をかけているうちに、いつの間にか隣に座って、ご夫婦の間でも話したことがないことまでしゃべってしまう、というようなことがよくあります」
単独行動のときに、ゲストの個性が見えるのも見どころの1つ。控えめだったが、1人になったらどんどん自分から話しかけて積極的になる人もいれば、鶴瓶と別れた途端に不安そうになる人もいる。ゲストは俳優など普段はあまりバラエティーには出ない人が多く、そこで見える素の部分や人間味が、新たな魅力として映る。
ロケでは、出会ったときの町の人の身構えていない反応や、テレビだと知って日常が"非日常"に切り替わる瞬間のリアリティーを大切にしている。長く続く番組のため、『家族に乾杯』だと明かしてからは、率先して撮影に協力してくれる人も多いとのこと。「ありがたいことに、説明しなくても番組のコンセプトをよくお分かりで、『お父さんは畑にいるから呼びましょうか』と提案してくださる方もいらっしゃいます(笑)」
制作面で苦労しているのは、事前に取材があまりできないこと。番組の性質上、町の人たちにロケをすることが分かってしまってはいけないので、下見はするが、隠密行動になる。そのため、出会った人たちへの挨拶と追加取材のために、ロケ後にスタッフは3日間残るのだそうだ。「家までついていくだけでなく、上がり込むこともありますし、当日は次から次へと移動してしまうので、翌日に改めてお礼にうかがいます。メッセージをいただいたり、町の紹介映像を撮ったりと、そこでやっと公に取材ができるんです」
05年からは編成の都合上、1回の旅を前編・後編の2週に分けて放送してきたが、16年4月の改編で初期の頃と同じ73分の枠に戻った。1回の放送で完結できるようになったことがプラスに働き、16年の年間の平均視聴率は12.2%と15年より上昇、好調だ。「鶴瓶さんも先日"ライフワーク"だとおっしゃってくれて。今後も長く続けていきたいです」
(「日経エンタテインメント!」1月号の記事を再構成。敬称略、文・内藤悦子)
[日経MJ2017年1月20日付]
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