いくらためても安心できない お金の不安をなくすには

日経ウーマンオンライン

2017/1/24
(イラスト:梶塚美帆)
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お金をためることが最大の目的になって、「貯蓄疲れ」していませんか? 働く女性の相談を受けることが多いファイナンシャル・プランナー(FP)の加藤梨里さんが、これまで受けた相談を紹介しながら、お金やライフプランの課題を解決します。

貯金の目標額を達成したら、心配はなくなるの?

こんにちは。ファイナンシャルプランナーの加藤梨里です。新しい年を迎えて1年の目標を立て、張り切っている人もいるのではないでしょうか? 1年の目標には、「貯金」を掲げる人も多いもの。「今年こそお金をためる!」と意気込む人をよく見かけます。

計画的にお金をためるのは、いうまでもなく良いことです。ファイナンシャルプランナーとして、お金のため方を具体的に指南することもたびたびあります。

でも、おそらくこれまで数百人にお金の話をしてきたにもかかわらず、不思議なことに「もう目標額を達成したから、貯金の心配はなくなりました!」という報告は一度も聞いたことがありません。なぜでしょう?

私のアドバイスが悪かったのか……? と悩んだこともありましたが、どうやらそればかりではないようです。先日、あるエピソードを通して、その答えがわかりました。

それは、「いつになっても、お金の不安は消えない」ということです。

答えにたどり着くきっかけになったエピソードとともに、そのワケをお話します。

おばあちゃんになってもお金の不安は尽きない

今年のお正月休みのこと。レストランで食事をしていると、隣に10人ほどで食事をしているグループがいました。80代くらいの老夫婦に、60代くらいの夫婦、子供を連れた30代くらいの夫婦と、独身と思われる30歳くらいの女性が円卓を囲んでいました。会話の様子から、おじいちゃんおばあちゃんを囲む親族の集まりのようでした。

わいわいとはしゃぐ2、3歳の子どもたちに目を細めながら、大人たちは久々に集まったことを喜び、会話に花を咲かせていました。お酒も入ってしだいに大きくなる声のせいか、聞くともなく話の内容が聞こえてきました。

すると、60代くらいの夫婦が、30代の夫婦に「その後、家は決まりそう?」と聞きました。息子と思われる30代夫婦の夫は「いや、良いところはたくさんあるんだけど、どこも高くて。これから子どもにお金がかかることを考えるとあまり無理もできないし、なかなか決まらないんだよね」と答えました。

よくあるパターンだな、と思っていると、今度は親世代である60代夫婦の妻が言いました。「住宅ローンは無理しない方がいいわね。うちは子どもも独立したし住宅ローンももうすぐ完済だし、もうお金の心配はないと思っていたのに、お父さんが60代になってお給料は半分くらいになっちゃって大変よ。なのに年金はほとんどもらえないし……」と、かなり不満な様子です。確かに、これから年金暮らしを迎える世代も、お金の不安は避けて通れません。

やがて「今、年金もらっている人はたくさんもらえていいよね」と、話は80代夫婦に向けられました。すると、おばあちゃんが言うのです。「そうはいっても、ぜいたくはできないわよ。今は暮らせているけれど、100歳まで生きたらもうお金が足りなくなるもの」と。年金だけでは生活費が足りず、貯蓄を取り崩しているため、長生きをすると底をついてしまうようです。総務省の家計調査でも、年金世代の家計は毎月約6万円の赤字という数字が出ていますが、実際に年金暮らしをしているおばあちゃん世代は、リアルにお金の不安に直面しているわけです。

そんな様子を眺めている30歳くらいの(推定)独身女性はというと、黙って皆の話に聞き入っています。その面持ちは神妙で、他人事とは思えない様子です。あるいは、同世代の多くの女性が感じるように、もしこの先一人で暮らしていったら、親や祖父母とは違ったお金の苦労をするのではないかとの不安もよぎったかもしれません。いずれにしても、楽観的ではなさそうでした。

新年を祝って集う老若男女にも、それぞれにお金の不安があるのだなと、しみじみ感じました。お金の不安は「いつになってもゼロになることはない」ともいえるのです。さらにいえば、その後、上述の一家の小さな子どもが「ガチャガチャ買ってよ!」と駄々をこねはじめたのですが、まさに私たちは年齢にかかわらず、生きている限りお金の問題と向き合い続けるのかもしれません。

お金の不安をなくすには、不安と向き合うこと

お金をためるとき「5年後までに500万円をためて、5000万円の家を買う」のような具体的な目標があれば、計画を立てるのは比較的簡単です。でもそれさえできれば、お金の不安がすべて消えるわけではありません。人生にはあまりにも多くの変動要因があって、ひとつの目標をクリアしても、次から次へと不安要素が現れるからです。「いつまで生きるかわからない」と、人生のゴールまでもが不確定なわけですから、生きている限り、お金の問題はつきまといます。

では、どうすればよいのでしょうか?

残念ながら、不安要素そのものを消し去ることはできません。お金のアドバイスをする仕事をしている私自身も、いつもお金の心配は尽きません。いくらきちんと計画をしても、思い通りにお金の出入りが動くわけではありませんし、いくらためたとしても、それでこの先が絶対に安泰とはいえないからです。

でも、お金の不安をコントロールすることはできます。そのひとつが、不安と向き合うことです。どうせ消えないのなら、「将来の不安は消えないものだ」と自覚してしまうのです。誰にでもつきまとう不安なら、いっそのこと「そんなものなのだ」と諦めてしまう。そのうえで、何ができるかを改めて考えてみると、すっきりした気持ちで対策を考えられます。

たとえば、まずは少しでもお金をためてみる、投資にチャレンジする、収入を増やすべく副業や転職をする、自分に投資するなど……。どれをやっても結局は不安ゼロにはならないわけですから、思い切りやりたいことをやるほうがずっと悔いなく生きられます。それが、経済的なゆとりになる可能性も十分にあります。

不安をかき消すほど没頭できるものを見つける

もうひとつは、わき目もふらず没頭できるものを見つけることです。思い切りやりたいことをやる、と先ほど述べたこととも通じます。「自分はこれがやりたい」と思って前に進んでいるときには、人は不安を感じません。感じたとしても、それ以上に進む力が大きければ、不安に沈む心を持ち上げることができます。

とはいえ、「私には打ち込めるものなんてない」という人もいるはずです。そんなときは、ささいなことでも良いので集中するトレーニングをしてみましょう。あるダンサーの方が、とても簡単にできるトレーニングを教えてくださいました。

それは、足の指を1本ずつ動かしてみること。これはダンサーが全身を美しく見せるために、体のすべてのパーツをコントロールするトレーニングのひとつとして行っているそうですが、このトレーニングに集中している間は、絶対に不安を感じないといいます。それ以外のことはすべて忘れるほど、足の指先に全神経を集中しないと、指が思うように動かないからです。確かに、不器用な私が試してみても、足の指を動かすことに一生懸命になり、仕事のこともお金のこともすっかり考えられなくなります。とても小さなことですが、やってみると、そういえば、最近こんなにひとつのことに集中したことはほとんどなかったことに気づきます。ほんの1、2分でも試してみると、物事に集中する精神力も鍛えられるような気がします。

もちろん、問題から目を背け、解決の努力をしないのはよくありません。でも、私たちの人生にはあまりにも問題やしがらみがありすぎて、自分の心の声に真正面から向き合うことを忘れがちにもなります。それが、かえって不安を大きくしてしまうこともあります。現実を直視し、不安と向き合うこと、そして、不安を自覚したうえで、それをも超えるものに集中すること。そんなスタンスが、お金の面でも、人生の面でも、不安をうまくコントロールしながら進むカギではないでしょうか。

加藤梨里(かとう・りり)
ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)。マネーステップオフィス株式会社代表。保険会社、銀行、FP会社を経て独立開業。家計、保険などお金のセミナー、執筆、相談を行う。働く女性のライフプランと健康にも関心があり、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科特任助教も務める。監修を担当した最新刊は『ガッツリ貯まる貯金レシピ』、『年金世代のしあわせ家計簿』。

[nikkei WOMAN Online 2017年1月18日付記事を再構成]