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都会に残る庶民の足 大阪渡し船巡り 日伊協会常務理事 二村高史

2017/1/24

■壮大なループ橋のたもと、生活者に愛される――千本松渡船場

 千本松渡船場は、落合下渡船場から工業地帯を徒歩で20分ほど南下したところにある。やはり木津川を渡る船ではあるが、落合上渡船場や落合下渡船場とはかなり趣が異なる。川幅が広く、頭上には桁下33メートルの立派な千本松大橋が架かっているので、ちょっとした絶景が味わえる。

ループを描く千本松大橋をバックに進む千本松渡船。航行距離は230メートル

 この橋は、岸辺からループを2周して高度をかせいで対岸に渡るもので、開通は1973年。橋には歩道も付いているのだが、「徒歩や自転車でここを越えるのはつらいので渡し船を残してほしい」という住民からの強い要望によって千本松渡船場が残されたと聞いた。

 最初に紹介した天保山渡船場でも、この後に紹介する木津川渡船場や千歳渡船場でも、やはり並行して橋が架けられているものの、歩行者や自転車には利用しづらいことから、渡し船が残されている。

 大阪の渡し船で興味深いのは、利用者のほとんどが自転車に乗っているという点である。最初は不思議に思ったのだが、理由はごく単純。実際に渡し船の乗り場まで歩いてみてわかった。乗り場まで歩いて行くのが不便だからだ。どこも周囲に鉄道の駅はなく、バスもあまり近くを通っていない。通っていても1時間に1~2本程度。さすがに歩いて乗るのは、私みたいな物好きを除けば、少数派なのだろう。

 大正区側に渡った帰りには、千本松大橋を通る1時間に1本ほどのバスを利用した。橋の上からは、あべのハルカスや梅田の高層ビルはもちろん、遠く生駒山まで見渡せて、気持ちがよかった。

■ここだけ赤と白の船体、市港湾局の管轄――木津川渡船場

 8カ所の渡し船で、最も不便な場所にあるのが、木津川渡船場だ。南側(平林北)の乗り場までは、大阪市営地下鉄四つ橋線の北加賀屋駅から2キロメートルほど。近くまで行くバスはあるが、1時間に1本しかなく、バス停からも10分ほど歩かなければならない。また、木津川の渡し船自体も日中は45分に1本の運航なので、時間には余裕をもって行ってほしい。

 待合所付近には飲み物の自動販売機があるのみで、商店はない。前回の訪問では空腹で倒れそうになったので、今回はバス停前に1軒だけあるコンビニでパンとおにぎりを買い込み、待合所でパクつきながら出航を待った。

 日中の利用客は少ないものの、朝夕は10分ごとの運航だ。これは、付近の工場に通勤する人が利用するためだろう。周囲は純然たる工業地帯である。

木津川渡船場の南側(平林北側)に船が到着。写真の左下には、カーフェリー時代の車道の跡が見られる

 ところで、8カ所ある渡船場のうち、7カ所は大阪市建設局が管理しているが、ここ木津川渡船場だけは大阪市港湾局の管理だ。そのことを強調しているのかどうか定かではないが、船体の色がほかの渡船場が水色と白の塗り分けなのに対して、ここだけは赤と白である。そういえば、10年前は天保山渡船場を除いてほかの渡船場でも赤と白の塗り分けだったので、単にこれが昔のままの色ということなのかもしれない。

 上流に千本松大橋が開通した1973年の翌年までは、車を積める船が両岸を結んでいたとのことで、南側の乗り場にはそれらしき跡が残っていた。

■泳いでも渡れそう。航路が最も短い――船町渡船場

 木津川渡船場の北側(船町側)から工業地帯を15分ほど歩くと、狭い木津川運河を渡る船町渡船場の乗り場に着く。日中20分おきに運航されているが、この航路は75メートルと8カ所の渡し船でもっとも短いため、航行し出すとあっというまに対岸に着いてしまう。水泳が苦手な私でも、泳いで渡れそうだ。

 乗り場に着いたのが出航直後だったので、結果的に20分近く待ったにもかかわらず、30秒ほどの短い乗船時間で、ちょっと悔しい気もした。でも、そんな時間を楽しむことこそが、渡し船巡りの醍醐味である。

 乗船した南の船町側が純然たる工業地帯だったのに対し、北の鶴町側に渡ってみると住宅や商店が立ち並ぶ生活者の息づかいが感じられる街が広がっていた。近くの大正通りには、ひっきりなしに市バスが走っている。北端にJR大阪環状線がかすめて大正駅があるだけで、地下鉄も私鉄も走っていない大正区にあって、バスは欠かせない公共交通機関。この街は渡し船とバスが暮らしを支えているのだ。

船町渡船の北側(鶴町側)から南側(船町側)を望む
ここの渡船場だけは、10年前も今回も徒歩での利用客ばかりだった。2006年5月撮影

 ちなみに、大阪の市営バスは後ろ乗り、前下り、後払いである。東京の都バスが前乗り、後ろ降り、先払いなのと正反対。エスカレーターの右空け左空けと同様、東京と正反対なのが面白い。「均一料金なんだから、先払いでいいんじゃないのか」と思ったが、大阪の方式は意外に利点がある。お金やカードを用意していないために乗車に手間どって遅れるということがなく、下りるときに乗務員にあいさつもできる。デメリットは、うっかり財布やICカードを忘れて乗ってしまったときに困ることくらいだろう。

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