吉本ばななさんが好きなハワイ いるだけで幸せな場所
2016年12月21日、ハワイアン航空(HA)は東京・羽田とハワイ島(コナ)の直行便の運航(週3便)を開始しました。ハワイ島はオアフ島に次ぐ人気の島でありながら、2010年秋に日本航空が運航していた直行便が突如廃止に。以降、ハワイ島への直行便の復活が期待されていました。
ハワイ島(ビッグ・アイランド)はハワイ諸島の中でも最も新しく、広大な島。今もなお火山の噴火が活発に続いており、流れ出す溶岩を見たことがある人も多いでしょう。そんなハワイ島の最南端にあるのがカ・ラエ(Ka Lae)岬、通称サウスポイント。米国最南端にある岬です。この場所を舞台にした小説『サウスポイント』(中央公論新社)などの著書がある作家、吉本ばななさんに、ハワイ渡航歴の長いライター・大崎百紀さんが改めてハワイの魅力について伺いました。
――ばななさんは、ハワイのイメージが強いです。
ばななさん ハワイについて小説を2つ書きたいと思い、フラも習い始めました。フラを踊っているとハワイの言葉や文化に自然に入っていけるようになるのです。それでハワイ島が大好きで何回か訪れたのですが、どこか懐かしい日本のような雰囲気のヒロ(Hilo)や、イメージの中のハワイそのものであるコナ(Kona)も大好きになりました。
――ハワイ島といえば、人気の観光地は南西部に位置するリゾートタウン、カイルア・コナ(Kailua Kona)か、東部のヒロ。今回のHAの直行便はコナ国際空港ですが、ヒロのエリアもファンが多いですね。世界各国の天文台が設置されているマウナケア(Mauna Kea)やハワイ火山国立公園(Hawaii Volcanoes National Park)への入り口でもあり、島の行政の中心にもなっています。
ばななさん 友だちの車でヒロからコナに移動した、景色の変化の思い出も、ますますハワイを好きになる要因のひとつでした。ハワイという場所に行くのは、初めは取材のためと割り切っていたのですが、次第にあのたくさん名前のあるあらゆる風や雨の感じや、夜に星がたくさん見えるようすや、植物の勢いあるようすやハワイにしかない花など、どんどん好きになる要素が増えていきました。
世界の果てのようなサウスポイント
――小説「サウスポイント」を書いたきっかけは。
ばななさん サウスポイントにはこれまで2回行きましたが、行くまでの道がすごく長く、そして不思議な感じでした。馬がたくさんいて、風車が回っていて、どこまでも静かな草原が広がっていて。その後に崖にたどり着くのですが、急に開ける感じと海の感じになるのも、映画のシーンのように思えました。あの不思議な場所ではいろいろなことが起こりうると思って、小説にしました。
――小説の中で、"ハワイの人たちは恋の歌に必ず風景を入れる。自然に心が映るところをしっかりと描き込む。確かにウクレレはそれを表すのに一番適した楽器" "生まれる前に決めてきた大事な約束を今にも思い出しそう、そんな気持ちになってしまうような、あまりにもきれいな音、楽器が出しているのではないみたいな、自然の中で聴こえる鳥や虫や波の音みたいな。神様の歌声だとか、天使の羽ばたきだとか"(抜粋)などとあります。主人公はウクレレ奏者ですね。
ばななさん この小説で一番言いたかったことは、ウクレレの音って天国的だなということでした。
ハワイの魅力は、オアフ島以外に
――著書には『まぼろしハワイ』『ゆめみるハワイ』(幻冬舎)もありますね。ハワイの自然の描写や写真に接するとすぐにでもハワイに行きたくなります。ばななさんの本を読んでいると、大自然に触れるネイバーアイランド(ハワイ島、マウイ島、カウアイ島、ラナイ島、モロカイ島)へ旅したくなります。
ばななさん 日程が限られているときは私もオアフ島、ワイキキについ行ってしまうのですが、ハワイの醍醐味はやはり田舎の方にあるように思います。例えばマウイ島を、端から端まで移動するだけでもかなり大変ですが、町によって全く雰囲気が違うので面白かったです。それはハワイ島のヒロとコナにも言えること。できれば時間をたっぷりとって、ワイキキ以外のハワイに出てみるといいと思うのです。
――これまでに訪れたハワイ諸島の中で、心が動いた場所は?
ばななさん マウイ島の内陸部にあるマカワオ(Makawao)とクラ(Kula)、パイア(Pa'ia)は私にとって特別に好きな場所です。マカワオは、パイナップルプランテーションとパニオロ(ハワイアンカウボーイ)の町として知られるところ。なんてことない田舎の町なのですが、いるだけでなぜか幸せだったのです。パイアはプランテーション時代をほうふつさせるところで、個性豊かなお店が多く立ち並ぶのどかな町なのです。ヒッピータウンなので自然食のスーパーもあり、そういう雰囲気を楽しんでいたのですが、カウボーイの町というので興味がなかったはずのマカワオののんびりした感じや良いレストラン、そしてクラの小高い景色は最高でした。あんなにもいいところだとは思っていなかったです。
――ばななさんの小説やエッセーを読んでいても、多くのアーティストが集う町がよく登場するという印象です。手付かずの自然が残るハナ(Hana)へのドライブもいいですよね。マウイ島といえば、北西部のラハイナ(Lahaina)や、カアナパリ(Kaanapali)、コンドミニアムの連なるキヘイ(Kihei)からワイレア(Wailea)などへの旅行者が多いと思います。オアフ島へは?
ばななさん 私はハワイ島から入り、その後オアフ島にもたびたび行くようになったのですが、ワイキキだけでなく、ノースショアも行きましたし、いろいろまわりました。ワイキキシェルで私のフラの教室の記念公演もあり、その時も訪ねました。ホテルというよりは、長期滞在用のコンドミニアムや友だちのうちに滞在することもが多いので、意外と外食はしないのですが、その分スーパーに行く楽しみがたくさんありました。
――オアフ島には、観光客の多いホノルルにもカイルアにも、オーガニックスーパーのダウン・トゥ・アース(Down to Earth)やホールフーズマーケット(Whole Foods Market)があり、確かにスーパー巡りが楽しいですよね。
オアフ島のカイムキはグルメタウン
――外食するとしたら、どのようなところで?
ばななさん 変わらずずっと大好きなのは、オアフ島カイムキにある「12thAVE GRILL(アベニューグリル)」です。何を食べてもおいしくて、いつでも行きたいくらいです。
――カイムキは、ワイキキからはちょっと離れているけれど、グルメスポットが多くてロコにも人気です。「ハレ・ベトナム・レストラン」みたいなカジュアルなベトナム料理があると思えば、「カフェ・ミロ(Cafe Miro)」みたいな本格フレンチのお店もある。「カフェ・ミロ」のオーナーは日本人です。
ばななさん 12AVE GRILLが特に好きなのは、働いている人も食事している人も楽しそうなところ。良いお肉をカジュアルな値段でいただくことができます。あと、私は甘いものがあまり好きではないんだけれど、ここのデザートは安定のおいしさですから、つい注文してしまいます。
――なんだかおなかがすいてきました。ばななさんのお好きなマウイ島のクラは、ハワイを代表する新鮮な食材の多くが育てられている場所なのですよね。地元の食材をふんだんに使った愛とエネルギーにあふれたお料理を自然の中でいただいて、優しい風と波音、そしてウクレレを耳にしながら、五感をフルに使って癒やされるハワイ旅、いいですね。ありがとうございました。
◇ ◇ ◇
ばななさんの小説「サウスポイント」を読んで以来、ハワイ島とばななさんの関係についてや、ハワイに対してどんな思いがあるのかをずっと伺いたいと思っていました。ばななさんはハワイの自然だけでなく、クムフラ(フラの師匠)やロコの人々に強い敬意をはらい、真にハワイを愛している方なのだと感じました。
近年は多くの人がハワイ島をはじめとする離島に魅せられ、訪れるようになりました。最後に筆者(ライター大崎百紀)がおすすめの「ハワイ島のみどころ」を5つに絞ってお伝えします。観光地化されていないからこそゆっくりと過ごせる場所を選びました。
・ケアラケクア湾(Kealakekua Bay)
海洋生物保護地区。ダイビングやシュノーケリング、カヤックも楽しめます。湾の北端にキャプテン・クックの記念碑も。コナ国際空港からサウスポイントへ南下する途中にあります。
・プナルウ黒砂海岸(Punalu'u Black Sand Beach)
黒い砂のビーチで、ウミガメの姿を見ることもできます。
・パハラ(Pahala)
サウスポイントからハワイ火山国立公園へ向かうルートの途中にある町。地域に密着したコーヒー農園(Ka'u Coffee Mill)もあり、コナルートで火山に行く時はぜひ訪れてみては。
・コハラ(Kohala)
北部の町。高級リゾートホテルや、ヘイアウ(神殿)も牧場もあり、コナのにぎわいとは違った雰囲気。
・ワイメア(Waimea)
内陸部の町。雨が多く、美しい虹が見られることで知られています。日本映画「ホノカアボーイ」の舞台となったレトロタウン、ホノカア(Honokaa)の町は、ワイメアからヒロに行く途中で通ります。
(構成・文・写真 大崎百紀)
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