その完璧主義は誰のため? 今すぐハッピーになる秘訣“もったいない”脱出の仕事術

2017/1/24
(写真:Tia Haygood)
(写真:Tia Haygood)

コミュニケーションコーチの岩田ヘレンです。今年は年末年始にめずらしく長い休みをとったので、1月の仕事始めは「やることリスト」が積み重なって大変な状況でした。以前の私だったら「やることがありすぎ!」とパニックになって重いストレスを感じていたに違いありません。でも今では考え方が変わりました。パニックになっても状況は変わらないのだから、できる範囲で1つずつやればいいと思えるようになったのです。これも、日々学んでいることの成果の一つです。

よく「忙しくてバタバタしていまして……」と言う人がいますね。私もそうでした。その「バタバタする状況」というのは誰がつくったのでしょうか。おそらくその人自身ですね。自分自身とコミュニケーションをする際に、自分のニーズよりも常に他人のニーズを優先してイエスと言ってしまう。他人の期待にこたえることを優先してしまう。そうしたクセによって自ら厳しい状況を招いてしまうという問題については、この連載の第1回「仕事の成功と幸せのために、もっと『No』を言おう」、第2回「『忙しくてつらい』を解消 メモ1つだけで日々が充実」でも触れました。

今回は、自分自身とのコミュニケーションにおけるもう一つの問題である「完璧主義」について考えてみましょう。

ハッピーになれない原因は「自分の中にいる完璧主義者」

私は毎週、日本人の先生にヨガを習っています。ヨガのクラスの後で、よく一緒にランチをするのですが、あるときその席でヨガの先生はこんなことを言いました。

「もっと英語が使えるようになりたいけど、英会話のレッスンを受けることがだんだん苦痛に感じてきたの」

理由を聞くと、ボキャブラリーが少なくて思うことがうまく話せない。でもボキャブラリーを増やそうとしてもなかなかできなくて、自分の上達の遅さが嫌になるというのです。

「英語で話すのは難しい」と彼女は言うのですが、では相手に通じていないのかというとそんなことはありません。十分に英語でコミュニケーションできているのです。けれども「もっと複雑なことを英語で話したい」のだそうです。

そこで私は「自分自身にプレッシャーを与えてしまっているのではないですか」と言いました。今のままでも全く問題はないのに、英語が楽しくない、上達できないと思って苦しくなるのは、自分自身に対して無意識に完璧主義(ちゃんとできなきゃダメ、もっとできなきゃダメ)を押し付けているからです。

何かが「できる」ことよりも、「上手にできる」ことのほうが重要なのでしょうか。自分だけが自分に押し付けている要求レベルを少し下げたところで、誰も困りません。

彼女は私の言葉で、自分自身にプレッシャーを与え、責めていることに気づきました。英語でコミュニケーションをとるのにそうしたプレッシャーは必要なく、もっと楽しくできればいいと気づいたのです。

「完璧なレベル」なんて存在しない

「やるなら完璧にできなきゃダメ」という完璧主義は、実際には「幻想」にすぎません。それについて説明しましょう。

Noel Birchは1970年代に「Four Stages for Learning Any New Skill(新しいスキルを学習する4つの段階)」理論を提唱しました。現在はそれに最上位の段階を付け加えて「学習の5段階モデル」とされることが多いです。

第1段階:無意識的な無能(知らないし、できない)
第2段階:意識的な無能(知っているけど、できない)
第3段階:意識的な有能(考えればできる)
第4段階:無意識的な有能(考えなくてもできる)
第5段階:達人

例えば、私は長年「空手」を練習しています。初めて出合ったのは15歳のころ、英国のスポーツ施設で空手教室の様子を目にしたときでした。それ以前に空手という概念を確かに聞いたことはあったのですが、美しくて格好いい空手の「形」の練習を見たことはありませんでした。それまでは「第1段階」(無意識的な無能)の状態でした。

そして、「形」の練習を見たら、空手を意識はしたけれど、もちろんまだできない「第2段階」(意識的な無能)の状態でした。

その後、英国の大学で空手部に入り、本格的に練習を始めました。動作をひとつひとつ考えて、意識してだんだんできるようになる「第3段階」(意識的な有能)の状態ですね。

そして2009年、マレーシアでの世界大会。決勝戦の入場の際、クイーンの「We will rock you」のBGMが鳴り響いていたのを覚えています。試合の最中は、空手の「形」をやっているという意識は全くありませんでした。体が自然に動き、そして優勝することができたのです! 世界チャンピオンになりました! これが第4段階の「無意識的な有能」といっていいと思います。

そこに至るまでには毎週数回の道場での練習に加えて、マンションの自転車置き場や公園での練習、通勤時間中のイメージトレーニングなど一生懸命、意識的に能力を高めようとしました。そういう意味では第3段階にかなり長くいる必要がありましたが、やっと第4段階までたどり着きました。

そして第5段階の「達人(Mastery)」のレベルに達したら「完璧」と言えるのでしょうか。そんな「完璧」など、実は存在しないのです。Masteryのレベルにあるような人たちは皆、とても謙虚ですよね。「とても完璧ではない、まだまだ」と必ず言います。であれば、自分が思っているような「完璧なレベル」などどこにも存在せず、重要なのは今の状況をできるだけ楽しむということではないでしょうか。「次ができたら」とか「何々が手に入ったら」ハッピーになれる、と思っても、それが実現すればまた次のことを目指してしまい、永遠にハッピーにはなれないでしょう。自分の中の完璧主義を追い出し、今の段階を精いっぱい楽しむこと、それが今すぐハッピーになる秘訣なのです。

ちなみにヨガの先生はその後どうなったのでしょうか。この間、もう一度ランチをしたときに、彼女はこんなふうに話してくれました。

「自分への完璧主義のプレッシャーをなくしたら英語が楽しくなりました。ボキャブラリーのリストを完璧に覚えようとするより、完璧な単語や文法ではなくても、とにかく英語で会話することにフォーカスしたら、簡単な会話、より難しい会話など、会話にさまざまなレベルがあることに気づきました。以前は分からないことがあっても分かっているふりをしていましたが、今は分からないときは相手に確認するようになりました。そうすると相手との信頼関係もつくりやすくなったような気がします。やはりいきなり完璧さを期待しないで、少しずつ学びながら楽しむのがベストですね」

岩田ヘレン(いわた・へれん)
グローバル・コミュニケーション・コーチ。英国ヨークシャー出身、さすがコミュニケーションズ代表。ウイズ株式会社 アドバイザー。日本翻訳者協会理事長、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社コミュニケーション・マネージャーなどを経て2013年にさすがコミュニケーションズを設立。グローバル・ビジネスを想定した企業向けのコミュニケーション・スキル研修などを実施している。著書に『英語の仕事術 グローバル・ビジネスのコミュニケーション』(小学館)。
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