アップルの無線イヤホン、AirPods 音質は「大味」
iPhone 7と共に発表されたアップル初の完全ワイヤレスイヤホン「AirPods」(1万6800円)が、2016年12月19日に発売された。すでに出荷日が6週間後になるなど大人気になっているが、実際の使い勝手はどうなのか。機能性や装着感、そして音質をレビューしていこう。
ケースに入れて1週間使える
AirPodsは、充電器を兼ねたポータブルの充電ケースと、そこに収まるイヤホンがセットになっている洗練されたスタイルだ。
iPhoneとの接続は一般的なワイヤレスイヤホンと同じBluetoothだが、iPhoneの近くでAirPodsのケースを開けると数秒間で存在を認識し、自動的にiPhoneの画面が現れてペアリングを促される。あとは画面の指示どおりに接続するとペアリングが完了する。
AirPodsの認識からペアリングまで簡単に完了するのは、さすがはアップル製品と思わず感心してしまった。
音楽の再生にも工夫がある。ケースからAirPodsのイヤホンを取り出し、耳に入れるとイヤホンが作動する。何もせずに取り出し耳に付けた時だけイヤホンから音楽が流れるスタイルは実にスマートだ。しかも耳からイヤホンを外すだけで、音楽が止まる仕組みになっている。
音楽再生時間は、AirPodsのイヤホン部のみでは5時間だが、複数回充電できるケースに入れるとイヤホン部に充電され、再生時間は合計24時間に伸びる。毎日3時間使った場合でも、1週間以上はバッテリーが持つ計算だ。
AirPodsを持ち歩くときは、紛失を避けるために充電ケース内に入れる必要がある。だが、この充電ケースがあれば、平日はかばんに入れっぱなしで充電しなくていいなど、実用性は高い。
完全ワイヤレスだから気持ちいい
装着感は「完全ワイヤレス」ならではの気持ちよさがある。例えば、パソコンに向かってキーボードやマウス操作をするときでもケーブルの邪魔がないし、外に出かけて斜め掛けのバッグをかける、伸びをして上体をぐるりと回すなんて動きもできる。自分の姿勢に対するストレスがまったくないことに気づく。
完全ワイヤレスのため「激しく動いたら落下しないか」という疑問がつきまとうが、イヤホンが耳の形状にスムーズにフィットするため、通常の歩行や、階段を駆け上がる程度では心配ない。
ただしAirPodsは、耳の溝のあたりにかかる構造になっている。もし外部の障害物にAirPodsの下から触れたりすると話は別だ。例えば、極端に襟元が立っているミリタリー系のアウターを着て顔をひねると、AirPodsが襟に振れて向きが変わることがあった。すぐ落下はしなかったが、屋外で身につけていると心配だ。
また少々行儀は悪いが、カレーを食べながらAirPodsで音楽を聴いていたら(ケーブルレスなので、食べる動作をしていてもストレスがないのだ)、もしカレーの中に純白のAirPodsを落としたらどうしようと心配してしまった。
2日間の装着でこれだけヒヤリとすることがあったと思うと、続けて使っていくとより心配なシチェーションもあるかもしれない。
Siriを使って音楽を流す
AirPodsならではの機能を、もう少し語っておこう。
まず、AirPodsは「耳からうどん」とネット上で揶揄されるような耳元から飛び出すデザインだが、実はマイクを内蔵しており通話もできる。
実際に屋外で音楽を聴いている最中に電話がかかってきて戸惑ったが、相手の声がクリアに聴けるのはもちろん、自分の音声も支障なく伝わった。ただ……日本人の感覚として、ハンズフリー通話を使う人がそこまで多くないので、どこか気恥ずかしい気もした。
もう一つ、AirPodsを装着中にイヤホン部をダブルタップすると、iPhoneの音声アシスタント「Siri」を呼び出せ、そのまま音声で操作できる。
音楽に直結したSiriの使い方としては、例えば「スキップして」と声をかければ曲送りになり、「○○(アーティスト名)を流して」と言えば選曲できる。完全ワイヤレスらしく、iPhone本体に触れずに操作できるのが売りだ。
ただし、標準のミュージックアプリはSiriで操作できるが、筆者が利用している音楽アプリ「HF Player」では操作に対応していないので今ひとつ活用できなかった。
イヤホンとしての音質は……
今回レビューの最大のテーマは、AirPodsの「イヤホン音質」はどれだけの実力を持っているのか調べること。オーディオ評論家である筆者が、じっくり聴き込んだ。
主に聴いた音源は、ロックバンド「RADWIMPS」の『前前前世(movie ver.)』のハイレゾ版。ハイレゾ音源で聴いているためオンキョーのアプリ「HF Player」を利用しているが、ワイヤレスで再生する際には48kHzの標準音源へとコンバートされる。
まず、AirPodsの音質の第一印象は「中域に厚みを振ってパワーを出したサウンド」といったところだ。
例えば『前前前世(movie ver.)』のエレキギターのメロディーラインはクリアだし、低音にも心地よい厚みがある。男性ボーカルの声も埋もれず、声の表現力も文句なし。ただし、ドラムの音が加わるところでセパレーションが雑になり、サビの「君の前前前世から僕は…」の下りに入るとバンド演奏も潰れ気味と、万能ではない。
他のジャンルの音楽でも、メロディーラインはくっきりと聴きやすいのだが、クラシック、ジャズなどのアコースティックな音源の表現力は大味だ。
しかし、J-POPをはじめとしたボーカル曲を聴くなら「この音がしっかり聞こえて欲しい」というツボを押さえているので、音楽を聴いた際の印象はすこぶるよい。
さて、このAirPodsのサウンド、基本的な音質のチューニングはiPhoneに付属しているイヤホン「EarPods」と同じだ。
AirPodsとEarPods(iPhone 7付属の「EarPods with Lightning Connector」)で聴き比べてみると、AirPodsのほうが声の質感・鮮明さで劣ったり、エレキギターの鮮鋭感ある音が少し丸まっていたりという形で、バンド演奏の再現力が落ちている印象があった。
それでも、気軽に音楽を聴くスタイルでは「AirPodsの音質は付属イヤホンと同じくらい」という評価に落ち着くだろう。
他のイヤホンと比べると?
それではAirPodsは、他のイヤホンと比べて、どの程度の実力なのだろうか。筆者が所有している有線タイプのイヤホンと聴き比べてみた。なおiPhone 7と有線イヤホンとの接続は、iPhone 7付属の変換アダプター「Lightning to 3.5mm Headphone Jack Adapter」を利用している。
比較したイヤホンは、写真左から順にSkullCanyd「INK'D」、MUIX「IX3000」、ソフトバンクセレクション「SE-5000HR」、SHURE「SE215」+SAEC製ケーブル、BOSE「SoundTrue Ultra in-ear headphones」、オーディオテクニカ「ATH-CKR10」だ。
さまざまなイヤホンと聴き比べていくと、安価なモデルと比べてみてもAirPodsのサウンドには足りない箇所があるのが分かった。
例えば、SkullCanyd「INK'D」(約2000円)ほどの低音再現性はないし、MUIXの「IX3000」(約4000円)と比べても、エレキギターの音のキレや、高域のシンバルの金属音の情報量で負ける。より高価な製品であるソフトバンクセレクション「SE-5000HR」(約8000円)、SHUREの「SE215」(約1万円)は、AirPodsの弱点だったドラムの音や演奏の情報量までも巧みに鳴らす。
こうした有線イヤホンと比べても、AirPodsの音質はやはり付属イヤホンのEarPods(イヤホンのみの価格は3200円)相当と呼ぶのが妥当だろう。
どう評価すべき?
AirPodsの問題点は、構造的に、耳穴を密閉する一般的なカナル型イヤホンよりも音漏れしやすいこと。混み合う場所で大音量で聞くと、他人にも聞こえる可能性があるし、カナル型に比べて遮音性が低いため、電車の中などでは外の音も聞こえやすい。ただ、自宅・室内などで使うならば問題になりにくく、紛失の心配も少ない。
一方、AirPodsの心地よい厚みのある音質は、意外にも、似通った音質を持つイヤホンは少ない。また「歌声やメロディがハッキリと聞き取れる」「きつい音や嫌な音が聞こえない」という面でよくできている。
筆者の評価は別にして、音質は好みの要素が大きいこともあり、1万円クラスの有線イヤホンと比べても「AirPodsのほうがいい」と思う人もいるはずだ。ワイヤレスのため音質が損なわれがちな同価格帯のワイヤレスイヤホンと比べると、さらに有利だろう。
一般的に、iPhoneの付属イヤホン(EarPods)に「高音質」を求める人は少ない。だが付属イヤホンも、価格の割には音質面で非常に良くできたイヤホンだった。それが完全ワイヤレスになって装着感や機能性が大きく高まったと考えると、音質を評価した後でも「1万6800円という価格は、かなりお買い得なのでは」と評価している。
(ライター 折原一也)
[日経トレンディネット 2016年12月22日付の記事を再構成]
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