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高齢ドライバー、認知機能に不安なら 免許更新前でもチェック

2017/1/17 日本経済新聞 夕刊

高齢者安全運転支援研究会の実車講習を受ける中村茂男さん(神奈川県座間市の都南自動車教習所)

 高齢ドライバーが引き起こす交通事故が連日のように報道されている。実は不安に感じている高齢者自身やその家族も多いだろう。認知症になると事故の危険性は増大することも知られるだけに、そうなる前に免許返納を真剣に考える必要がある。どのような行動が表れたら危ないのか。見極め方を専門家に聞いた。

 昨年末、NPO法人高齢者安全運転支援研究会(東京・千代田)は認知機能の低下が運転に与える影響を調べた。参加したのは70代の男女5人。都南自動車教習所(神奈川県座間市)で講習と認知症診断を受けてもらった。停止線違反や急ブレーキ、急発進などの荒い運転をする人もいた。

 参加者の一人、座間市の中村茂男さん(77)はブレーキが遅れ、停止線を越えた。「改めて気をつけようと思った」と頭をかく。車の運転は週2回、近所へ買い物に行く程度。速度を落として安全運転を心がける。「自信がなくなったら返納するつもり」と話す。

 改正道路交通法で、75歳以上に免許更新時の認知機能検査が義務付けられている。3月から検査で認知症の疑いがあると判定されたら、違反の有無にかかわらず医療機関を受診しなければならなくなった。そこで認知症と診断されたら免許取り消しか停止になる。

 厚生労働省は2025年に認知症患者は700万人になると推計する。ただ、それ以上に問題なのが認知症一歩手前の軽度認知障害(MCI)だ。MCIの人は認知症以上にいるといわれ、今は運転できても認知機能の低下が進めば運転が難しくなる恐れもある。

 高齢者安全運転支援研究会によれば、MCIが認知症に進行する確率は1年後に13%、3年後には約半分。中村拓司事務局次長は「認知症になる前に手を打つべきだ」と指摘する。

 慶応大医学部の三村将教授は「運転に不安を覚えたら更新を待たず免許センターや自動車教習所に相談を。心配なら専門医にみてもらうように」と話す。「何歳になっても運転する権利はあるが、安全に運転する義務もあることを忘れないでほしい」と訴える。

 とはいえ、自分の運転能力を自身で判断するのは難しい。そんな場合に使えるのが、高齢者安全運転支援研究会の「運転時認知障害早期発見チェックリスト30」だ。車庫入れミスや道順の失念など、運転時の異変の有無を尋ねる30問から成り、頻繁に起きるようなら「○」をつける。5問以上該当すれば要注意だ。

 監修した鳥取大医学部の浦上克哉教授は「5問以上当てはまるなら、かなりの確率で認知症の疑いがある。医療機関などに相談したほうがいい」と話す。老親と遠く離れて暮らす人なら「帰省時、車に同乗して意識的に運転を見てほしい。1泊して日常の様子を見れば、言ったばかりのことを忘れるなどの異変に気づくだろう」(同教授)。

 ただ「危ない運転をしていても本人の自覚がないこともある。家族が返納を求めても本人が納得しないと難しい」と武蔵境自動車教習所(東京都武蔵野市)で指導員を務める三好義彦さん。三好さんは、ドライブレコーダーの活用を勧める。「録画した画像を一緒に見れば、本人が危険運転を自覚し説得に応じやすくなる」。レコーダーはカー用品店などで1万円程度で買える。

 地方などでは、免許を返納すれば日々の買い物にも困る人も多い。代替交通機関の整備を急ぐ自治体もあるが、追いついていない。認知機能を低下させないための運動や脳のトレーニングに取り組むことも大切だ。ただ、事故を起こしてからでは手遅れになることをよく考え、早めの決断も必要だろう。

(高橋敬治)

[日本経済新聞夕刊2017年1月17日付]

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