ベントレーもついにSUV プレミアム化の潮流を読む

ベントレー初のSUV「ベンテイガ」
ベントレー初のSUV「ベンテイガ」

SUV(多目的スポーツ車)のプレミアム化が止まらない。2002年のポルシェ「カイエン」デビュー以降、数々のプレミアムブランドが参入してきているが、英国のプレミアムブランド、ベントレーもついに初のSUVを誕生させた。街中を走るとこれまでになく注目されるという「ベンテイガ」、より“味付けが濃い”理由とは。

ポルシェが先べんを付けた稼げるプレミアムSUV

今、世界の自動車マーケットで伸びまくっているSUV。英語でスポーツ・ユーティリティー・ビークル(Sport Utility Vehicle)と呼ばれるカテゴリーで、かつて日本ではクロカン(クロスカントリー4WD)やRVなどと呼ばれていたが、北米ではピックアップトラックと合わせて乗用車の5割以上を占める人気となり、今や世界第1位の巨大自動車マーケットとなった中国でも3割強がコレ。

まさしく最も勢いに乗るカテゴリーだが、こうなると高級化が止まらない。世界的プレミアムブランドのSUV参戦は、1998年ごろのレクサス「RX」やメルセデス・ベンツ「ML」に始まるが、その後2000年にBMW「X5」、2002年にポルシェ「カイエン」がデビューしてから流れは決定的になった。

なかでもすごかったのはポルシェだ。爆発的に販売を伸ばし、2016年の世界販売はついに23万台を超えて6年連続で記録更新。今やそのうちの7割強をSUVのカイエンとその弟分マカンが占めており、プレミアム系としてはダントツ。雨後の竹の子のごとくハイブランドSUVが登場するきっかけにもなっている。

実際にカイエン登場後、アウディなどの定番ドイツ系プレミアムはもちろんジャガー、マセラティ、アルファロメオと今までSUVに縁のなかった欧州系プレミアムブランドの参戦が続き、なかでも2016年後半に日本に上陸し、圧倒的存在感を振りまいているのが今回ご紹介するベントレー「ベンテイガ」なのだ。

プレミアムブランドのベントレーがついにSUV参入!

全長5150×全幅1995×全高1755mmでホイールベースは2995mm。間近で見ると「走るお城」のような風情を醸し出している

ベントレーはそもそも1919年に始まった由緒ある英国の高級車ブランド。一時は同じ英国のロールス・ロイスと姉妹関係になっていて、英国王室用として使われていたほど。

だが、1998年にドイツのフォルクスワーゲングループが買収。その後、見事に再生がなされてメルセデス・ベンツやBMWの少し上を行く雲上プレミアムブランドとしての地位をしっかり築いている。

しかし、正直に言うと小沢はベントレーがSUVを出すとは想像していなかった。SUVは少々荒っぽくて実用優先のイメージもあり、もともと軍事用車系4WDを持っていたメルセデスや新興プレミアムブランドのレクサス、スポーツプレミアムブランドのポルシェではあり得ても、王室御用達でノーブルなイメージの英国ブランドにはそぐわないと思っていたのだ。

事実、ベンテイガを間近で見てみると独特の違和感がある。それはまさしく走るお城のような風情を醸し出しているのだ。

ボディーサイズは全長5m15cm、全幅2m弱、全高1m75cm強で、車重は2530kgと圧倒的なのはもちろん、なによりもデザインだ。

大きくクラシカルなメッシュグリルはもちろん、シンプルな丸型ヘッドライトに英国車独特の味わいのあるボディーデザイン。

いわゆるスポーツカー的な流線形フォルムでもなければ、軍事用車的な箱型フォルムでもない。まさしく英国調のベントレーフォルムで、深味のあるゴールドのボディーカラーと相まって他にはない存在感を示しているのだ。

内装のしつらえもほとんどクラシックホテル顔負けのクオリティーだ。

想像を上回るワイルド感あふれる走り

乗り心地はスムーズ。ベントレーらしい屋内空間

実際ポルシェにもない、メルセデスにもBMWにもない、その独特なオーラを嗅ぎつけたのか、街中を走ると驚くべき注目度の高さを発揮する。

クルマ好きと思われる40~50代以上の男性はもちろん、普段は国産セダンを愛用していそうな30代前後の男性からも「これなんていうクルマですか?」と聞かれる始末。こんなことは最近ではなかった。

走り出すと想像していた以上のワイルドさにも驚いた。ベンテイガはなんと最高出力608馬力の新設計6リッターW型12気筒ツインターボエンジンを搭載し、8速ATを備えたフルタイム4WDシステムで加速する。

パフォーマンスは圧倒的で、あの2.5トン以上の車重の物体を最高で時速301kmまで引っ張る。

もちろん乗り心地はスムーズ至極。発進から街中、高速走行に至るまで余計な震動はほとんどなく、まさしく高級車そのもの。

だが、スタート直後のトルクの太さは想像以上で900Nmというあり得ない力で蹴飛ばされるように発進。正直、ペダルワークに最新の注意を払わねばいけないほどで、ある意味ベントレーのイメージが変わってしまうほどワイルドな味付けだった。

430Lの荷室。荷室カバー格納時は590L

しかし、これがまた世界のリッチマンの心をとらえる味わいなのかもしれない。同じベントレーでも古典的なセダンやリムジンは加速も乗り心地もハンドリングもすべて紳士的で奥ゆかしく、そこが古典的なお金持ちを安心させる。だが、おそらく新興金持ちが好んで乗るであろうベントレーSUVは、より味付けが濃く、刺激的でなければならないのだ。

事実、ベンテイガは「ポルシェ・カイエンからの買い替えが最も多い」と聞く。一部の販売現場からのコメントなのですべてではないかもしれないが可能性は高く、その場合は乗り換えて「パワフル!」「すごい!」と思わせなければならない。

ベンテイガの税込み価格は2695万円でカイエンを大幅にしのぐ。同時に、世界のリッチマンの欲望はとどまるところを知らない。次々と新しい高級車の世界を提案、提供していかなければならないのである。

ベントレー「ベンテイガ」は税込み2695万円というポルシェ「カイエン」を大幅にしのぐ価格
小沢コージ
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。