いまさらですが、格安SIMのメリットって何ですか?
いまさら聞けない格安SIM入門2017(前編)
急速に利用者が増えている「格安SIM」。MM総研が2016年12月に発表した調査結果によれば、2016年9月末時点における格安SIMの契約数は657.5万回線。2年前の230.5万回線と比べて、3倍近くにまで増えている。ライフスタイルが変化しやすい年度末を控え、来年度からは格安SIMや格安スマートフォン(スマホ)に乗り換えようと考えている人も多いのではないか。しかし「実は格安SIMにどんなメリットやデメリットがあるのかよくわからない」という人も少なくないはず。そこで格安SIMに関する基礎知識を3回にわたり解説する。第1回は、2016年に登場した新サービスなども踏まえながら、格安SIMや格安スマホのメリットとデメリットをまとめてみた。
改めて「格安SIM」「格安スマホ」とは何か?
最初に、「格安SIM」や「格安スマホ」といった言葉について、改めておさらいしておこう。
「格安SIM」とは、大手キャリアのNTTドコモ・KDDI(au)・ソフトバンクよりも安い料金で利用できる通信サービスのことを指す。
格安SIMを提供する通信会社は、大手キャリアが整備した基地局などのネットワーク設備に相乗りして通信サービスを提供している。通信インフラを普及・維持する必要がなく、設備投資費を最低限に抑えられるため、利用者が支払う通信コストも安くできる仕組みだ。
なお、格安SIMの「SIM(Subscriber Identity Module)」とは、スマホにセットするICチップのことを指す。SIMの内部には、回線の契約者を特定するための情報が記録されている。
「格安スマホ」とは、格安SIMとスマホをセットにした商品のこと。通信会社を自由に選べるSIMフリースマホと組み合わせるケースが多いが、型落ちのiPhoneを取り扱う通信会社もある。
格安スマホの主な価格帯は、大手キャリアの主力端末よりも安い2万~3万円。通信料金と端末代金の双方を安く抑えられるので、利用者は大手キャリアよりも通信コストを節約できる。
格安SIMのメリット1:通信料金が安い
すでに触れたように、格安SIM最大のメリットは通信料金の安さにある。実際に大手キャリアと格安SIMの料金を比較してみよう。
NTTドコモの通話定額プラン(月額料金2916円。税込み、以下同)を契約する場合、通信容量が最も少ない毎月2ギガバイトのパケットパック(同3780円)を選んでも、月額料金は7020円かかる。
auとソフトバンクで提供されている毎月1ギガバイトのパケットパック(同3132円)と、最初の5分間だけ通話料が掛からない5分間通話定額プラン(同1836円)の組み合わせでも、月額料金は5292円かかる計算だ。
格安SIMはどうだろう。格安SIM大手の「楽天モバイル」(楽天)は、通信容量が毎月3.1ギガバイトの料金プランを月額料金1728円で提供している。これに5分間の通話定額オプション(月額料金918円)を組み合わせても、毎月のコストは2646円。auとソフトバンクの5分間通話定額プランに対し、半額の料金で3倍の通信容量が利用できるのだ。
また、通信量が多くなりがちな映像・音楽配信サービスの愛好者に向けた大容量プランが、格安SIMでも2016年に入り導入が相次いだ。NTTドコモの通話定額プランで毎月20ギガバイトのパケットパックを選ぶと、月額料金は9720円。楽天モバイルでは同じ通信容量のプランを月額5130円で提供しており、5分間通話定額オプションを付けても月額6048円で契約できる。[参考記事「月1万円超でも『格安SIM』 動画見放題に照準の新潮流」]
格安SIMのメリット2:料金プランの種類が豊富
いろいろなタイプの料金プランがそろっているのも、格安SIMのメリットだ。
大手キャリアのパケットパックは、使える通信容量が毎月決まっている「月次タイプ」が主流だ。格安SIMでも月次タイプが一般的だが、この他にも1日単位で通信容量が決められている「日次タイプ」や、実際に使った通信容量に応じて料金が毎月変わる「多段階タイプ」、どれだけ通信しても料金が変わらない「使い放題タイプ」がある。
そのため、格安SIMでは目的に応じて料金プランが選びやすい。毎日同じくらい通信する人は日次タイプ。毎月通信する量が一定の人は月次タイプ。反対に、毎月の通信量が大きく変わる人は多段階タイプ。動画を見るなどして通信量が多い人は使い放題タイプと、使い方に合わせて選択できるのだ。
また、特定のアプリやサービスによる通信を無料にする「カウントフリー」という機能を備えた格安SIMも、2016年後半から増えている。例えば、2016年9月にサービスを始めたばかりの「LINEモバイル」(LINE)では、LINEアプリや一部のSNSがカウントフリーの対象。「BIGLOBE SIM」(BIGLOBE)ではYouTubeなどの映像・音楽配信サービスがカウントフリーになる有料オプションを2016年11月から提供しており、格安SIMの新たな付加価値になりつつある。[参考記事「特定の動画・音楽視聴が安く 格安SIMの新トレンド」「点検 LINE格安SIM、データ残量確認もトークで」]
格安SIMのメリット3:大手キャリアのスマホも使える
格安SIMでは、いろいろなスマホと組み合わせて利用できることもメリットだ。
最も一般的なのは、格安スマホとしても販売されるSIMフリースマホとの組み合わせ。2万~3万円の価格帯でも十分実用的な機種を購入できるが、性能を抑えた代わりに価格が安い1万円台の機種や、処理能力やカメラの性能に優れた4万円以上の高級機も選べるなど、SIMフリースマホのラインアップは幅広い。
また、大手キャリアで使っていたスマホを、格安SIMで使い続けることもできる。特に、大半の格安SIMがネットワーク設備を利用しているNTTドコモや、一部の格安SIMがネットワークを利用しているauのスマホの場合、乗り換え先の格安SIMが同じネットワークに相乗りしていれば、引き続き格安SIMでも利用できる。
ただし、スマホの機種によっては事前にSIMロックの解除が必要な場合がある。また、格安SIMに乗り換えると一部の機能が使えなくなったり、そもそも格安SIMでは利用できなかったりする。格安SIMのウェブサイトで動作確認済みスマホの一覧を確認できるので、手持ちのスマホが使えるかどうか、乗り換え前に必ずチェックしておこう。
■格安SIMのデメリットは?
格安SIMにも幾つかのデメリットがある。
一番わかりやすいデメリットは、大手キャリアが提供するキャリアメールが使えなくなることだ。スマホではGmailやプロバイダーのPCメールが扱えるので、メールそのものが使えなくなる心配はない。しかし、送信相手がキャリアメールで、PCメールの受信を拒否していたりすると、メールが届かなくなってしまうのだ。
乗り換え後もメールで連絡を取りたい場合は、格安SIMで使う予定のメールアドレスを事前に伝えておいたり、メールの代わりに「LINE」などのメッセージアプリを使ったりして、キャリアメールを補うことになる。
通話定額プランが選べないのもデメリットだ。大手キャリアでは国内の携帯電話や一般加入電話への通話料金がかからない通話定額プランが一般的だが、格安SIMの通話料は30秒当たり21.6円の従量制が基本。そのため、自分から電話をかける機会の多い人が格安SIMに乗り換えると、大手キャリアよりも通信料金が高くなる場合もある。
ただ、2016年からは各通話最初の数分間が無料になったり、IP電話のシステムを採用することで定額通話できるオプションを提供したりする格安SIMが増えている。通話料金が不安な人は、こうした通話定額オプションを備えた格安SIMを選ぶのがいいだろう。[参考記事「通話安い『だれでもカケホ』 格安SIMの定番になるか」]
また、格安SIMには、利用が集中する時間帯の通信速度が遅くなるというデメリットもある。特に、企業や学校が昼休みに入る平日の午後0時台や、オフタイムの午後6時台~深夜にかけての時間帯で速度の低下が顕著だ。
格安SIMを提供する通信会社は、大手キャリアから「帯域」という情報の通り道を借りている。情報を自動車とすれば、帯域は道路だ。道路を走る自動車が増えて渋滞が発生するように、帯域を通過する情報が増えると通信速度が低下する。
もちろん、通信会社側も快適な速度を維持するための対策を欠かしてはいない。ユーザーや通信量の増加を見越して帯域を増やしたり、自社が持つ設備を増強・調整したりしているが、予想を上回る量の通信が集中すると、どうしても速度が遅くなってしまう。大手キャリアと比べて速度低下の影響を受けやすい点は、あらかじめ承知しておきたい。
次回(「私にぴったりはどれ? タイプ別オススメ格安SIM」)は、利用者の目的別におすすめの格安SIMを紹介していきたい。
前編 いまさらですが、格安SIMのメリットって何ですか?
中編 私にぴったりはどれ? タイプ別オススメ格安SIM
後編 格安SIMへの乗り換え、注意点を教えてください
(ライター 松村武宏)
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