トランプリスク意識せよ 最適投資を探る(窪田真之)楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジスト

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「トランプ氏の米大統領就任が近づくにつれ、株式市場との蜜月が終わるという不安が広がりつつある」

ドナルド・トランプ氏が米大統領に就任する1月20日が近づくにつれて、株式市場に新たな懸念が生じつつあります。トランプ氏と株式市場の蜜月が終わり、トランプ氏の暴言によって再び金融市場にトランプ・ショックが起こるという不安です。

大統領選直後の「勝利宣言」は、世界を驚かす優等生の発言でした。勝利宣言では(1)米景気を強くする経済政策(公共投資・減税)の実施(2)世界各国との良好なパートナーシップの構築(3)米国民の一致団結――を力強く呼びかけ、トランプ氏の市場評価が一気に高まりました。

トランプ氏の暴言が復活

ところが、11日に行われた記者会見では暴言が復活しました。「米国第一」を前面に出し、保護主義的な発言ばかり繰り返したのです。私が一番あきれたのは「メキシコとの国境に壁をつくる」ことを改めて強調したことです。「必ずつくる、すぐつくる。費用はメキシコに負担させる」と選挙期間中の暴言をさらにエスカレートさせています。

「貿易では良い取引ができていない。中国との貿易不均衡で大きな損失を被っている。日本・メキシコ・その他ほとんどの国に対しても良い取引ができていない」と中国・日本・メキシコを悪者扱いする発言も目立ちました。

トランプ氏は北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しを一貫して主張しています。メキシコと米国の間の貿易取引に関税がかからないことを利用して、米国からメキシコに工場を移す製造業が後を絶たないからです。その中心は自動車産業です。

トランプ氏は米自動車大手フォード・モーターがメキシコに工場を移転しようしていることを批判してきましたが、フォードはこれを受けて、工場移転計画を撤回しました。トランプ氏は、これに対してツイッターで「フォード、ありがとう」と返しています。

NAFTAの見直しは、メキシコでの生産を増やしつつある日本の自動車メーカーに打撃ですが、それ以上に、メキシコでの生産比率が高い米自動車大手に大きなダメージが及びます。従ってNAFTAの見直しは米経済界や、共和党主流派の反対があって、簡単には実現できないと考えられます。

トランプ氏はメキシコに工場を移そうとしている企業を個別にたたくことで、米国民にアピールし、NAFTA見直しが実現しない場合の言い訳にしようとしているようにも見えます。そうであれば、すでにメキシコでの生産比率が高い企業よりも、これから生産比率を引き上げようとしている企業に悪影響が及びます。

トランプ氏がツイッターで名指ししたトヨタ自動車は、メキシコでの建設を見直す予定はなく、米国にこれから1.1兆円投資することで、理解を得る方針です。ただ、最悪の事態としてトランプ氏のアピール材料にトヨタ自動車が利用される可能性もないとは言い切れません。2010年に米国で起きたトヨタ・バッシングのような出来事が再びないことを祈りたいと思います。

ところで、昨年11月からの世界株高は「トランプ・ラリー」と呼ばれていますが、本質的には「世界景気回復を買う相場」だと私は考えています。ちょうどトランプ氏が大統領に当選したタイミングで、世界景気の改善が明らかになってきました。トランプ氏はまだ何もしていませんが、米国の景気回復ははっきりしてきています。ブラジルやロシアの経済も最悪期を過ぎています。日本の景気もこれから回復色が出てくると思います。

トランプ氏はラッキーだったと思います。ただし、11日の記者会見を見てもトランプ氏は、期待よりも不安が大きいと再認識せざるを得ません。世界景気の回復を買う流れは簡単には終わらないと考えていますが、トランプ氏の現実の姿が見えてくることが、株式市場にとってリスク要因になると考えます。今こそ投資家は「トランプ・リスク」を意識すべきでしょう。

こんなとき、株式投資はどうしたらよいのでしょうか? 私は、短期的な相場材料にこだわるより、長期的に企業本来の価値を上げていく銘柄を選別して投資することが重要だと思います。また、買い方として、短期的な上昇に賭けて一発で大きな投資を行うのではなく、こつこつと長期的に積み立てで買っていくことが重要だと考えます。

過大なリスクを負うと、短期的な悪材料でパニックになって、冷静な判断ができなくなります。とりわけ、相場が急騰・急落を繰り返してもパニックにならない投資金額がいくらか、それをしっかり知ることが大事です。

投資は「孫子の兵法」に通じる

私の好きな中国の古典「孫子の兵法」に、以下の言葉があります。「敵を知り己を知れば、百戦危うからず」。私はこれを相場格言として捉えています。株式投資に置き換えると、次のようになります。「投資のリスクを知り、自らのリスク許容度を知れば、百戦危うからず」。

今の投資環境は大きなリスクとチャンスが共存していると思います。リスクを冷静に見つめ、チャンスに備えてポジションを考えながら投資していくことが大切だと思います。もし、乱高下に耐えられる金額を超えた投資ポジションをお持ちならば、ポジションを縮小する必要があるでしょう。

ただし、余裕資金の範囲で投資を行うならば、リスクはあっても世界景気が回復してくる今のタイミングで割安株に投資することにも価値があると思います。

私は25年間、日本株のファンドマネジャーをやってきましたが、もし今ポートフォリオを組むならば、大型の割安株(配当が高い利回り株)、小型の成長株を中心とした構成にするでしょう。個別銘柄の選別が難しいと感じる方は、日経平均株価に連動する上場投資信託(ETF)やインデックスファンドに投資するのもいいと思います。買ってすぐ下がっても慌てないで済む金額で、定期的に積み立てていくことが最適でしょう。

投資信託やETFで長期投資を考える場合、信託報酬(毎年ファンドから差し引かれる管理手数料)の低いファンドを選ぶことが非常に重要です。もし、投信で頻繁に売り買いすることを想定するなら、ノーロード(売買手数料がゼロ)のインデックスファンドを選ぶのがいいと思います。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。原則火曜日掲載で、楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏とレオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏が交代で執筆します。
窪田 真之(くぼた・まさゆき) 楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジスト。1961年生まれ。84年慶応義塾大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)入行、91年ニューヨーク駐在。92年住銀投資顧問(当時)日本株ファンドマネジャー、99年大和住銀投信投資顧問日本株シニア・ファンドマネジャー。2014年楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジスト、15年から所長兼務。大和住銀投信投資顧問では日本株運用歴25年のファンドマネジャーとして活躍した。著書に「投資脳を鍛える!株の実戦トレーニング」(日本経済新聞出版社)など多数。
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