都市と地方、両方楽しむ 仕事も生活も2地域で現役世代 働き方改革が後押し

長野県富士見町のコワーキングスペース「森のオフィス」。運営責任者の津田賀央さん(写真左)と利用者の原田幾さん(写真右)
長野県富士見町のコワーキングスペース「森のオフィス」。運営責任者の津田賀央さん(写真左)と利用者の原田幾さん(写真右)
都市住民が地方にも生活拠点を持つ「2地域居住」が、20~40代の現役世代に広がり始めた。「仕事は都会で、生活は地方で」という従来の出稼ぎパターンとは違い、都会と地方に生活と仕事を分散しながら続けていくのが特徴だ。地方暮らしを促す行政の施策に加え、働く時間や場所の自由度を高める企業の働き方改革も、現役世代の2地域居住を後押ししそうだ。

小松左京さん(41)、真穂子さん(39)夫妻は東京都世田谷区と山梨県北杜市を行ったり来たりする暮らしをこの2年、続けている。2人は婦人服を製造販売する企業の社長とデザイナーだ。

取引先と会うことの多い左京さんは、東京で仕事をし、週末に北杜市で家族と過ごす。真穂子さんは長女(6)と過ごしながら、在宅でデザインを描く。週に数日、東京に原則、日帰りで出張する。

東京都と山梨県北杜市の2地域居住を実践する小松さんの家族

北杜市に家を持ったきっかけは、長女のぜんそく。2年半前に北杜市で賃貸物件を見つけ、契約した。当初は週末に通っていたが、自然の中の暮らしは親子にとって驚きの連続でぜんそくも改善。一昨年、北杜市に本拠を移した。

デザイナーという仕事へのメリットも感じている。「周囲は自然の風景と音が豊か。デザインに必要な想像力をかき立てられる」

八ケ岳を望む北杜市は、世代交代で子世代が別荘を住居に使う例も多く、若い世代の流入が増えている。東京都千代田区の「やまなし暮らし支援センター」が開く移住相談会に訪れる人の半数以上が、40代までの現役世代という。

北杜市の隣、長野県富士見町は2015年、インターネット環境が整った共同オフィス(コワーキングスペース)の「富士見森のオフィス」を開設。ベンチャー企業7社が入居しているほか、IT(情報技術)や映像、デザイン関係など様々な仕事を持つ人たちが活用している。

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森のオフィスの運営を任されているのは、東京と富士見町の2地域で仕事をしている津田賀央さん(38)。ソニーネットワークコミュニケーションズ(東京・品川)で、モバイルアプリなどの企画、デザインを担当している。

「会社人生だけでは生涯現役を貫くのは難しい。早くから地域社会とつながる仕事もしたい」と会社に掛け合い、週3日、契約社員として東京で働くことを認めてもらった。残りの日を富士見町での仕事と生活に充てている。

森のオフィスで地域の人を対象に相談窓口を設けたところ、相談が相次ぎ、地方でも様々な仕事が開拓できることが分かった。午後8時には帰宅。家族とゆっくり過ごす。

やはり東京都内と富士見町の森のオフィスの両方を仕事場にしている2地域居住者の原田幾さん(45)。「自然豊かなところに住みたいと東京都八王子市に自宅を持ったが、通勤が大変だった。2地域居住を実現して、本当の自然と触れながら仕事ができるようになった」という。

東京都豊島区の企業でシステムエンジニアとして働いているが、「災害時の事業継続や介護離職の防止などを考えると、これからはリモートワークも必要」と会社を説得。会社には週3日出社し、残りの2日はリモートワークをすることを認めてもらった。

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2地域居住といえば、かつての出稼ぎに加え、リタイア後のシニア層が思い浮かぶ。移住を前提に、都市に自宅は残して、少しずつ地方の暮らしに慣れるというのが典型例だった。

しかし都市でも地方でも働き続ける現役世代は、少し視点が異なる。「都市と地方の大きな違いを肌で感じつつ、それぞれのいいところを生かせるのが最大の魅力」。東京と千葉県南房総市の2地域居住生活が10年になる馬場未織さん(43)は語る。

2地域居住の最大のネックは住居と移動のコスト負担だ。「実家で寝泊まり」(津田さん)、「会社近くの家賃2万円のアパート暮らし」(原田さん)など、東京での住居費を節約するケースが多いとみられる。

東京―地方の移動時間は「メールチェック」(小松真穂子さん)、「一緒に移動する家族と車中で話す」(馬場さん)などに使う。もっとも「片道3時間以上かかると負担が大きい」(津田さん)ため、東京に暮らす人なら長野、山梨、千葉、神奈川県などが2地域居住地として人気だ。

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減税など促進策必要

「地方で働き、暮らすこと」が現実的になってきたことが、現役世代に2地域居住への関心を高めるきっかけになっている。地方創生関係の交付金も活用し、自治体が「お試し居住」や移住相談窓口の設置など、移住や2地域居住推進の施策をとっているためだ。

「支援策を加速すべきだ」と言うのは三菱総合研究所プラチナ社会センター主席研究員の松田智生さん。「若手社員を地方で一定期間働かせる『逆参勤交代』を大手企業に実施してもらったり、移住者向けの減税などの優遇策を実施したりしないと広がりに限界がある」と強調する。国土交通省の長谷川貴彦地方振興課長も「リモートオフィス、副業解禁、週休3日など、企業での働き方改革が進めばハードルが下がる」と見る。

NECの役員も務めた長野県富士見町の小林一彦町長は「単にIT技術者が地方で仕事をするリモートオフィスでは、長続きしない。IT技術者が地域の農業のノウハウを盛り込んだシステムを開発するなど、地域で仕事を作る流れが必要」と、地域での連携を訴える。

(相川浩之)

[日本経済新聞夕刊2017年1月16日付]