意外とお得な海外パックツアー、うまい活用法を聞く
経済評論家の佐藤治彦氏
「旅慣れた人は海外パックツアーを買わない」というかつてのセオリーが崩れつつある。200回以上の海外旅行経験を持つ経済評論家の佐藤治彦氏も以前は自由旅行派だったが、近年はもっぱら海外パックツアーを選ぶようになったという。詰め込み日程や団体行動、みやげ物店めぐりなど、評判のかんばしくなかった海外パックツアーは今、どう変わってきたのか。賢い選び方、「地雷」ツアーの避け方を知れば、時間や労力、安全性などの面でパック旅は頼もしい味方になってくれそうだ。
旅のベテランも「現地」を味わえない
『本当にお値打ちな海外パックツアーの選び方・楽しみ方』(扶桑社刊)の著者である佐藤氏はパックツアーの最大の長所を「現地での観光に集中できるところ」とみる。旅のベテランは航空券もホテルも自分で手配するものというイメージがあるが、実際にやってみると、それなりに手間がかかる。現地でも予約確認や諸手続きに労力を割かれ、結果的に「ボランティア添乗員」のような立場になりがち。地図や時刻表とにらめっこになり、せっかくの「現地」を十分に味わえないという皮肉な状況にもなりかねない。
その点、あらかじめ行程が決まっているパックツアーは移動や宿泊はお任せ状態で済む。そういった「足回り」に気を取られずに済む分、「事前に現地の観光スポットにまつわる知識をしっかり仕入れ、現地での時間と体験を充実させやすい」(佐藤氏)。自由旅行で各種手配を自前でする場合、交通や宿泊の面で自由度が高い半面、そのあたりのアレンジが旅行の「主役」のようにもなってしまい、現地に着いた時点である程度、達成した気になりやすい。一方、パックツアーはあくまでも現地での体験がメーンだ。一生に何度も行く機会のない旅先であれば、現地での満足度を優先するのが賢いと、佐藤氏は説く。
特別な体験が可能なパックツアーも
近年は世界各地でテロの被害に遭うリスクが高まり、旅心もおじけがちだ。タイのバンコクでは2015年、観光名所でもあるエラワン廟(びょう)で爆弾テロが起きた。すりや強盗の被害も後を絶たず、リオデジャネイロ五輪でも被害が相次いだ。どこへ訪れてもトラブルを完全に避けることはできないが、パックツアーの場合、旅行会社が危険を避けるプランを立てるうえ、添乗員が同行する場合はトラブル対応でも頼りになる。佐藤氏も欧州で大規模な交通ストライキにぶつかり、生涯唯一のヒッチハイクを余儀なくされたという。海外ではストや欠航がしばしば起こり得るが、添乗員がいれば対応を任せられる。海外旅行ビギナーは気負って個人手配せず、「安心を買う」という選択肢も検討しておきたい。とりわけ、非英語圏では現地での交渉が手に余るケースが珍しくない。
観光そのもののレベルを上げるというメリットもある。個人手配のほうが自由にプランを組めると思い込みがちだが、必ずしもそうではない。美術館や歴史的建造物などで公開タイミングを限定しているところもあり、事前に人数と時間を約束しておかないと、せっかく訪れても門前払いを食うおそれがある。手続きが至難なスポットをカバーしている企画もあって、「展示室を貸し切り」「ツアー参加者だけの限定公開」といったうたい文句の商品は特別な体験を提供してくれる。ある程度の人数がまとまっているからこそ、施設側に無理を頼めるわけで、こういう場合はパックツアーに優位性がある。
ガイド付きのツアーの「過保護」感を嫌い、自己流の予習だけで名所を訪ねる人もいる。だが、長年、実物を案内してきた現地ガイドの能力はやはり頼りになる。もちろん当たりはずれはあるが、ガイドブックでは触れていないエピソードや、鑑賞のテクニックなどを教えてくれるガイドもいて、にわか勉強では及ばないレベルの体験に導いてもらえることがある。史跡の解説も英語ならまだしもそれ以外の言語では大意すらつかめないことが多い。
自分好みのカスタマイズを
では、パックツアーは万能かといえば、もちろんそうではない。団体行動が前提となっている点は昔も今も変わらない。同行するメンバーを選べないので、巡り合わせ次第ではバス移動の間、不愉快な思いをする心配も残る。そこで佐藤氏が提案するのは、自分好みのカスタマイズ。ツアー行程に乗っかりきってしまうのではなく、ところどころで自主的な「自由行動(途中離団)」を組み込む手だ。
たとえば、お仕着せのディナーをパスして、お目当てのレストランで好物を食べる。興味のない観光地訪問から離団して別行動で話題のスポットへ足を運ぶ。かつてはこういった離団が許されないツアーもあったが、近ごろはかなりのケースで試せるようになってきたと、佐藤氏は言う。ただし、無断の離団は迷惑のもと。きちんと添乗員に希望を述べたうえで、了解を取って、自由な時間を手に入れたい。
離団するなら2泊目
離団経験が豊富な佐藤氏によれば、旅程表をじっくり眺めれば、離団しやすいタイミングが見えてくるという。佐藤氏のおすすめは「同じホテルに連泊する場合の2泊目」。ホテルにチェックインする前は手続きの関係上、単独行動が難しいが、同じホテルに戻る2日目は部屋のキーを自分で管理しているうえ、土地勘もできているので、ディナーを自分で選ぶチャンスとなりやすい。パック旅行での自由行動が設定されているのは、2連泊の2日目が多いのもそのためだ。国境をまたぐような大がかりな移動中も離団は危険を伴う。半面、交通機関が整っているエリア内であれば、戻ってこられなくなる心配は小さくなる。離団ができそうかどうかを思い描きながら旅程表の「行間」を読むテクニックが旅の奥行きを深くすると言えるだろう。
狙い目は最低価格出発日の少し上
海外パックツアーは旅行各社の主力商品だけに、ラインアップが豊富すぎて、なかなか的を絞りにくい。料金も格安航空会社(LCC)利用のローエンドからビジネスクラス指定のハイエンドまで幅が広い。当然、旅行の目的や参加者次第で選ぶ基準は大きく変わってくるが、新婚旅行のような特別な旅ではなく、コストと中身のバランスを意識して選ぶ場合、佐藤氏は選んだツアーのうち、最低価格出発日は避けることを勧める。むしろ、それより少し上がよく、最低価格は敬遠するのが賢いという。
最低価格で構わないのではないかという気にもなりがちが、佐藤氏は「そこは違う」と言う。最低価格の場合、価格意識が極めて強い人が好んで申し込んでくる傾向があり、現地での過ごし方にも影響が出かねないのだそうだ。あるツアーに参加した際、佐藤氏は同行した年配女性から夜に「お湯を分けてあげようか?」と言われて驚いたという。彼女たちはカップ麺を持ち込んでいて、それで夕食を済ませていたのだ。現地では極力、持ち金を使わない主義を徹底していたようだが、こういう感覚に数日間ずっとつきあわされるのは、旅行の高揚感をそいでしまう懸念がある。
ツアーは15人程度がおすすめ
佐藤氏が重視するお買い得商品の見極めポイントはほかにもある。「参加人数」もそのひとつだ。同じ場所を訪ねるのでも、15人程度の小規模ツアーで行くのと、30人を超えるような大勢で向かうのでは、現地での勝手が異なる。わかりやすい例はトイレだろう。観光スポットでのトイレ休憩の頻度はどのツアーでもそう変わらない。だから、15人と30人ではトイレの混み具合が格段に違ってくる。トイレ休憩に手間取ると、観光にあてる時間へしわ寄せが来て、結果的に見て回る時間が減ってしまうという本末転倒が起きる。ゆえに佐藤氏は催行が決定されていて、参加人数が少ないツアーを狙うのがいいと言う。
パンフレットに名前の挙がっているホテルを見比べる場合、グレードだけではなく、立地条件を確認しておきたい。設備がしっかりしたホテルであっても、街から離れた「陸の孤島」に位置していたのでは、空き時間をホテル外で楽しむ余地がなくなってしまう。ディナーをパスして地元のレストランを試そうにも、周囲に店がほとんどないケースもある。移動に関しても目配りが欠かせない。やたらと遠い距離の観光地をバスで移動するような設定になっていると、ほとんどバスの中で過ごす味気ない時間を強いられる。複数都市を巡るプランでは都市間の移動が飛行機かバスかで満足度が大きく変わる。パンフレットで移動手段を確認することが重要になってくる。
■旅の好機 12、1、4、7月
旅に出る時期は価格面でのお得感を大きく左右する。ゴールデンウイークや夏休み時期は各社がピーク期間と設定していて、同じ旅行内容でも割高になる。空港や旅先も混み合いやすく、労力や効率でも損をしがち。佐藤氏が見る好機は「12月、1月(年末年始は除く)と、4月のゴールデンウイーク前、7月20日前まで」。価格が割とこなれていて、混み合いも避けやすいという。欧州では12、1月にバーゲンセールがあり、格安で買い物が楽しめる。ただし、中国人が大挙して旅行に出かける春節シーズンは避けるのが賢明だ。サマーシーズンも学校の夏休みに入る前までであれば、ピーク価格を避けられる。夏休みを柔軟に取れる勤め先であれば、早めの取得で同じツアーが何万円も割安になる。
●注意点(1) ディナーからは離団を
こうして話を聞いていると、メリットが多そうなパックツアーだが、注意点もある。佐藤氏は「低価格ツアーの場合、食事にはあまり期待しないほうがいい」と言う。これにはやむを得ない事情がある。30人、40人とまとまった人数が着席できるという時点で最初から店の選択肢は限られる。低価格ツアーの場合、さらに予算も制約がきつい。しかも、レストラン側からすれば、決まった時間内に大勢の客に食事を提供する必要があるのだから、どうしても手の込んだ調理はしていられない。佐藤氏はパリで中華料理を食べさせられたそうだ。せっかくのパリなので、フランス料理と考えがちだが、大勢の対応に向いた食事が用意されるケースはあり得る。佐藤氏はそういう場合こそツアーを離れて地元のレストランにトライしてみてほしいと、「ディナー離団」を促す。
●注意点(2) 新婚旅行に激安ツアーは危険
新婚旅行での激安系パックツアー利用は一考を要するだろう。なぜなら、同じツアーの同行者から興味半分になれそめから将来計画まで根掘り葉掘りの質問攻めにあいかねないからだ。好奇心の旺盛なシニアがグループ内にいると、新婚カップルと話したがることが多いと、佐藤氏は言う。踏み込んだ質問には答えなければ済むが、ずっと押し黙っているのは、パックツアーでは気まずい雰囲気を生む。旅先でのいさかいの種にもなりやすく、一生の思い出になるはずのハネムーンが「黒歴史」になってしまうリスクが潜む。団体行動ではプライバシーが守りきれないのに加え、近ごろはやたらと写真を撮る人が増えて、意図しない写り込みも起きやすくなっている。新婚旅行を台無しにする危険を冒すのは得策ではないかもしれない。
●注意点(3)ハワイは意外とハードル高い
海外パックツアーと聞いて、ハワイを連想する人は多いだろうが、ハワイ旅は一般に誤解が多い。旅行ビギナーでも気軽に行けるというイメージが強いが、決してそうではない。まず、時差が大きい。19時間も時差があるせいで、到着直後の体調コントロールは容易ではない。しかも、多くの日本発着便では午前の早い時間にハワイに着く。猛烈な眠気とたたかいながら、午後3時以降のホテルチェックインまでを乗り切る必要がある。初日のダメージは翌日以降も尾を引く心配があり、旅慣れた人でもハワイはハードルが高い。パックツアーでおなじみのグアムもフライト時間が3時間程度と短い割に深夜到着であればくたびれてしまいがちだ。一方、台湾、タイ、バリ、オーストラリアなどは時差面での負担が小さい。単純な移動時間や有名観光地のイメージだけで選ばないで、時差やスケジュールも考慮して行き先を選びたい。
交渉力で質は向上
73カ国・地域(2016年12月現在)を巡った佐藤氏は「ちょっとした探究心と交渉力がパックツアーの質を高める」とアドバイスする。そのレストランの名物料理が自分たちの献立に含まれていなかったら、「これも頼んでいいですか?」と添乗員に相談する。飛行機で決められたシートをそのまま受け入れるのではなく、チェックインカウンターで「座席配置を見せてもらえますか?」と尋ねる。そういうツボをおさえたやりとりがパンフレット通りではない、「ちょっと上」のカスタマイズを可能にするという。
パックツアー自体も一昔前よりはかなりフレキシブルな設計になっていて、離団やカスタマイズを受け入れる懐の深さを持つようになっている。海外旅行ビギナーにとって頼もしいのに加え、かつてバックパッカーだったような旅のベテランにも使い勝手が増してきたパックツアーは自己手配旅と使い分けることによって、旅行の選択肢を増やしてくれるだろう。
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