抱え込みがちな仕事や不安 上手に手放すには?
日本のビジネスパーソンは、真面目な人ほど仕事を抱え込んで、その仕事の多さがストレスになっている人も多いように思います。管理職の場合は部下に仕事を任せることも大切ですが、それがなかなかできないという人も少なくないようです。「部下に仕事を任せるよりも、自分でやったほうが早い」と思えば、仕事はどんどん増えていきます。また、部下の成長の機会も奪ってしまいます。そうした悪循環に陥らないために、まずは自分の仕事の仕方を見直してみましょう。
優先順位は「重要度」と「緊急度」を軸に
パソコンやタブレットなどでやるべき仕事を「TO DO リスト」として書き出している人も多いと思いますが、そこに「重要度」と「緊急度」を軸にした優先順位を明確にしていく習慣をつけるといいでしょう。その際には、以下のマトリクスを活用します。
この中で最も優先順位が高いのは、1の重要度が高いかつ緊急度が高い仕事です。その次は、2の重要度が高く、緊急度は低いもの。そして、3の緊急度が高く、重要度は低いもの、4の重要度が低いかつ緊急度が低いものの順になります。
ただ、普段の仕事では、2の「重要度が高い/緊急度が低い」仕事よりも、3の「重要度が低い/緊急度が高い」仕事を優先しがちです。そうなると、本来は重要度が高いにもかかわらず、緊急度の低い仕事はどんどん後回しになってしまいます。そうしたことを防ぐためにも、この優先順位を意識して、実行可能な時間管理を心がけるようにします。
また、このマトリクスは、パソコン上で管理するよりも、あえてアナログな付箋などを利用することをお勧めします。パソコンで管理するとつい、細かいことまで入力しようとしたり、見栄えにこだわろうとしたりして、かえって非効率になることがあるからです。思いつくタスクを付箋にどんどん書き出して、自分のデスクのパソコンの四隅をマトリクスに見立てて、貼り出していくのも、いつも目につくのでいいですね。
報告書や会議も「重要度」で見直す
部下の報告書や定例化しているミーティングも、本当に重要なことを意識するように切り替えていけるといいでしょう。
報告書をはじめとする書類などは、デジタル化が進んで便利になった一方で、フォーマットが簡単に作れるようなったことで、ムダに細かい項目が設定されていたり、何ページにも及んだりすることがあります。そうなると、とにかく項目を埋めることに意識が向き、本当に重要なことを簡潔に記入する時間が限られてきてしまいます。そして、上司もそれを見る余裕がない…というケースが多いのです。
デジタルの時代ではあっても文書を1枚の情報にまとめるよう、社内で働きかけをしていかないと、中身の本質より体裁や細かいデータにばかりに意識が向いて、長時間を費やしてしまいます。この悪癖を「マイクロマネジメント」と欧米の職場では言いますが、その傾向に陥るケースが増えています。
定例化しているミーティングは、それがチームのメンバー全員が顔を合わせてコミュニケーションを取る機会になっていることもあるので、一概にはいえませんが、ただなんとなく習慣化している場合は、本当に必要かどうかを見直すことが大切です。その結果、ムダがあれば回数を減らす、重要な議題や確認事項があるときに開くといった改善策も有効でしょう。
部下に仕事を任せることを「責任放棄」と考えない
私が米国で「働きたい会社」のトップランクに入っていた企業に勤めていたとき、社内ルールやマニュアル、会議といったものが多くなると、トップや管理職が率先して、ムダを省くよう指示していました。時には特に根拠もなく、古くなった意味のない社内ルールやマニュアルを「4分の1に減らせ!」という檄(げき)がトップから飛びます。無茶苦茶なように思えますが、その気になって見直しを図ると、意外と減らせるものなのです。
ムダな社内ルールや会議などが多いと感じている社員は多いのですが、トップがその削減への号令をかけない限り、遠慮してしまうケースがほとんどです。これが、日本の職場の満足度が国際比較の中で低いこと、ストレスが高いこと、そして、政府が主導する「働き方改革」にも懐疑的な見方が多いことへの遠因になっているように思います。
日本の管理職の中には、部下に仕事を任せることを、権限移譲ではなく責任放棄のように感じてしまう人がいます。部下の人たちの中にも、細かい指示を伴わずに、仕事を任せられることに負担や不安を感じるケースが増えています。中には「丸投げされた」などとクレームをつけるなど、権限委譲と成長の機会を与えようとする上司の意図が通じないケースも増えています。上司と部下の双方のストレスを減らし、部下の成長を促すためにも、ムダを省き、本当に重要なことを意識して仕事をする、そして背景を説明しながら部下に任せる習慣をつけましょう。
不安を手放すには「可視化」が有効
本当に重要なことを意識して、この習慣はやめよう、この仕事は部下に任せようと思えても、急に手放すのは不安だという人も多いかもしれません。そんなときは、認知療法の「コラム法」や「イメージ療法」を活用してみましょう。ここでは簡単な方法をご紹介します。
コラム法は、漠然とした不安をメモや日記に記録し、時間を置いてから振り返る方法です。例えば、「◯◯の仕事を部下に任せたら、クライアントによく思われないかもしれない」といった不安を書き、不安のマックスを100%としたときに何パーセント程度の不安かも記録しておきます。それを1カ月後などある程度時間を置いて見直してみると、大抵の心配事は現実にはならないことが確認できます。
また、イメージ療法は、不安を同様に紙に書き出して、クシャクシャッと丸めて捨てたり、ビリビリと破いたりする方法です。笹舟療法といって、腹式呼吸でゆっくり呼吸をしながら、目を閉じて、ゆるやかに流れる川を思い描き、不安を乗せた笹舟をその川に流してやることをイメージする方法もあります。
不安はモヤモヤとした状態のままでいると、一層強まってしまいます。それを可視化して振り返る、実際に捨てるなどの行為をすることで、手放す気持ちにつながっていきます。
この年末は、仕事のムダや惰性になっている習慣を見直してみてはいかがでしょう。
・仕事の優先順位は「重要度」と「緊急度」を軸に決める
・定例化した報告書や会議は、本当に必要か、重要かを見直す
・「マイクロマネジメント」にならないよう、部下にも仕事を任せる
・ムダや習慣を手放す不安は、記録する、具象化するといった方法で解消する
(ライター 田村 知子)
この人に聞きました
帝京平成大学現代ライフ学部教授、ライフバランスマネジメント研究所代表、産業カウンセラー、エグゼクティブ・コーチ。1979年早稲田大学卒業後、モービル石油に入社。その後、米コーネル大学で人事組織論を学び、米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院でMBAを取得。90年日本ペプシコ社入社後に米国本社勤務を経て、AOL、シスコシステムズ、ネットエイジでの幹部を経験し、2003年ライフバランスマネジメント社を設立。以来、職場のメンタルヘルス対策、ワークライフコーチングの第一人者として、講演、企業研修、教育分野、マスコミでの実績は海外も含めて多数に上る。著書に『折れない心をつくる シンプルな習慣』(日本経済新聞社)、『明日に疲れを持ち越さないプロフェッショナルの仕事術』(インプレス)などがある。
[日経Gooday 2016年12月19付記事を再構成]
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