大火に見舞われた木材の街

ワシントン州といえば木材の街。1850年代の半ばになると、この辺りには製材所などが立ち並んで栄えていたそう。ところが、1889年6月6日に「シアトル大火」が発生し、一帯が大きな被害を受けた。そのとき、ビルを再建する際には石材かレンガを使うこと、また周辺が海抜ゼロメートル地帯で、昔から満潮になると度々浸水の被害にあっていたことから、土地に勾配をつけて高い位置に入り口を作ることなどが定められた。パイオニアスクエアから西側の海に向かって下り坂になっているのは、そんな理由がある。

もっとも一部は災禍を免れ、その上に建物が建てられたことから、図らずも地下空間ができた。その存在は長く忘れられていたが、1964年、地元紙「シアトル・タイムズ」のコラムニストでシアトルの歴史を研究していたビルー・スピーダルが読者の投書をきっかけにパイオニアスクエアの地下一帯を調査したところ、街の成り立ちを知る貴重な遺構にたどり着いた。のちに彼は「アンダーグラウンド・ツアー」を主催し、シアトルの歴史を伝える役割を担うようになっている。

スミスタワー

ニューヨークより西側では全米一のビル

そのパイオニアスクエアから少し坂を上ったところにある白いビルがスミスタワー。大火からの復興が進む中、1908年にこの場所の土地を取得したのは、タイプライター事業で財をなしたL.C.スミスというビジネスマンで、一緒に旅行をした妻がシアトルを気に入ってしまい、土地を買うよう迫ったと伝えられる。

スミス氏は翌年、地元紙「シアトル・デイリー・タイムズ(現シアトル・タイムズ)」の取材に対して、「シアトルの街がどんどん開発されているのに、ここに何も建てないわけにはいかない」と話し、18階建てのビルを建設する計画を明かしたが、彼が翌年に他界すると、計画を受け継いだ息子が、42階建てのビルを建ててしまった。完成は1914年の独立記念日(7月4日)。

462フィートという高さは、完成当時、ニューヨークより西側では全米一の高さ。その後、全米各地で高層ビルが建ち始めると、1923年には「シカゴより西側では一番高い」、1931年には「カンザスシティーより西側では一番高い」といったように、どんどんスケールが小さくなったが、それでも1962年にやはりシアトルの名物といえるスペース・ニードルが完成するまで、西海岸でトップを誇った。今となっては、周りに高層ビルが立ち並んでどこか貧相だが、シアトルのエンパイア・ステートビルディングとして長く象徴的な存在だった。

昨年夏、大規模な改装を終えて、再び一般オープン。35階にレストランとバー、展望台が作られ、かつてのにぎわいを取り戻している。

そのスミスタワーの南側には、高いビルがほとんどないので、展望台からセーフコ・フィールドなどが一望できるが、視線を下に落とすと見えるレンガの建物が、キングストリートステーションという、現役のアメリカ合衆国国家歴史登録財。今は、アムトラックなどの駅として使われている。

キングストリートステーション

大陸横断鉄道の駅舎

誕生は1906年で、アメリカ大陸を横断するグレートノーザン・レールウェイとノーザンパシフィック・レールウェイが乗り入れた。設計・建築は、後にニューヨークのグランドセントラル・ステーションの改装を手掛けることになる「リード&ステーム」というミネソタ州の会社で、ともにボザール様式が採りいれられている。グランドセントラル・ステーションを知っている人なら、駅舎の中に入ると既視感を覚えるのではないか。

 時を経て老朽化が激しくなり、すっかり寂れてしまったが、08年にシアトル市が駅を所有していた鉄道会社から10ドルで買収し、5500万ドルをかけて改修したのが今の姿。特徴的な242フィート(約74メートル)の時計塔もそのときに修理、改修された。

ボーイングの技術者がつくったサラミ屋

グリルドラムサンドイッチ 税込み12ドルちょうど

さて、ここまで来ると、もう目の前にセイフコ・フィールドが見えてくるが、駅前にあるおいしいお店を最後に紹介しておきたい。

入り口が狭いので少し分かりにくいが、道に看板が出ている。 名前を「サルーミ」といい、自家製サラミ屋さんだ。ボーイングのエンジニアだったアーマンド・バタリさんが引退後に長年の夢をかなえた店だが、1999年の開店当初から、評判となると、03年ぐらいだったか、イチローとも会ったことがある。

営業はランチタイムのみで、午前11時の開店と同時に行列が出来、店内は人が行き交うスペースもないほど。以前は火曜~木曜の3日間しか開いていなかったが、今は月曜日(持ち帰りのみ)から金曜日までオープンしている。並ぶのを避けるなら、閉店間際の午後3時頃が狙い目か。いろんな種類のサラミが味わえるサンプラーがおすすめで、チーズとパンがついて19.50ドル。これを持って球場へ行くというのが、最高のぜいたく。もう、セーフコ・フィールドにイチローはいないけれど――。

丹羽政善(にわ・まさよし)
立教大学経済学部卒業。出版社勤務ののち1995年に渡米。インディアナ州立大学スポーツマーケティング学部卒業。著書に「メジャーの投球術」(祥伝社)、「MLBイングリッシュ~メジャーリーグを英語のまま楽しむ!」(ジャパンタイムス)、「メジャーリーグビジネスの裏側~本当に儲かってるのはこの人達~」(キネマ旬報社)、「夢叶うまで挑戦―四国の名将・上甲正典が遺したもの」(ベースボール・マガジン社)がある。シアトル在住。

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