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出世というと競争して勝ち残るとか、誰かより先に選ばれるとかの、優秀な個人としてのイメージが強いかもしれません。しかし人事の仕組み的に言えば、そうして獲得できる年収は1500万円くらいが天井です。

もしあなたが年収2000万円以上を目指すのなら、チームとして出世することを目指すべきなのです。それは部長を超えて役員や経営層を目指すための必須事項です。

出世学は価値と対価とのマッチング構造

この連載を基にした近著「マンガでわかる いまどきの『出世学』」にも記しましたが、出世の本質は1つだけです。それは、より高い対価を得るための価値を作り出すこと。言い換えるなら、利益をたくさん生み出すようになるか、あるいはそういう風に期待されれば出世します

周りよりも先に課長になったり、部長になったりする人というのは、課長や部長として、他の人よりもたくさん利益を生んでくれる可能性があるから選ばれます。

これは人事を給与の面から考える時の常識でもあります。

たとえば、1人あたりの利益額が800万円の会社では基本的に800万円よりも高い年収は払えません。おそらくこの会社の平均年収は400万円くらいになってしまうことでしょう。企業毎の平均年収ランキングが話題になることがありますが、あれは要は従業員1人あたりの利益額ランキングに近いものです。だから給与を増やしたいのなら、1人あたり利益額が高い業界や利益額が高い企業に転職することが手っ取り早いのです(以前紹介した業界ごとの給与格差が拡がっている原因もそこにあります)。

でも、この時自分一人だけが出世していくのでは、やがて給与的な天井がやってきます。それはだいたい、部長としての天井です。

部長の天井を超えられるかどうか

今や狭き門となっている課長をさらに超え、部長にまで出世した人たちはおそらくほっと一息つくことでしょう。

年収も1500万円前後となれば、月の手取り額も100万円近くあります。新卒3~4人分くらいの月給は、家族数人の生活を豊かに彩ってくれるはずです。

しかしそこで満足しきれないのが人間の常ではないでしょうか。

周囲を見渡してみれば、若くして起業した昔の同僚は海外に移住して悠々自適な生活を送っています。とがった性格とそれに輪をかけて優秀だった大学の同期は、外資系企業で年収3000万円以上という話も聞きます。弁護士や会計士として、地位と名声の両方を獲得して有名になった旧友もいるでしょう。株式取引で成功していたり、サラリーマン大家となって数億円の資産を持っていたりする人もいるかもしれません。

ふりかえって自分を見れば、それなりの企業の部長として活躍しているものの、その先がどうなるのか、となるとよく見えません。部長からさらに出世を目指すといっても、どうすればいいのでしょうか。

起業? いえ、その前に、今いる会社の中でできることがあります。

チームとして出世することを目指す

今いる会社の中で、部長からさらに上を目指す場合に必要なこと。それはあなたを中心としたチームを活躍させ、成長させることです。できればみんなが一緒になって出世していく状態が望ましいのです。

部長であれば会社から与えられた部下がいることでしょう。その彼ら/彼女らに次のような対応をすることです。

(1)彼ら/彼女らの生産性を高める

(2)彼ら/彼女らの活躍にあわせて出世を支援する

あたりまえに思えるかもしれませんが、意外に多くの優秀な部長たちが、このような行動をとっていません。

前回記事にも書いたように、優秀な人はついつい、すべての職務に関わろうとしてしまいます。その結果として部下が育たず、いつまでもプレイングマネジャーとして行動しなければいけなくなります。そしてプレイングマネジャーの組織は決して大きくなることがありません。

有名なシェフがいつまでも自分の料理だけを前面に押し出していたらどうなるでしょう。その店は著名店になるでしょうが、2店舗目を出すことは難しいでしょう。シェフが自分の店を増やしたいのなら、いつまでも自分が厨房に立つのではなく、監修担当となって部下にシェフの仕事を任せなければいけません

それと同様に、ビジネスの現場でも部長になった時点で、課長や係長、スタッフたちに仕事を任せて成長させていく必要があるのです。

ここで有効な考え方が、相手によって発揮するリーダーシップを見極めるためのDAPSフレーム(第15回「どこでも通用するリーダーがいない理由」参照)です。相手の成長を促すためには、周囲の環境と相手の自立度に合わせて最適なリーダーシップを発揮することが重要なのです。

評価制度をリーダーシップ発揮のマネジメントツールにする

部下の生産性が高まり、部下がさらに出世をしていくことは、あなた自身のもとに、高い生産性のチームが形成されることを意味します。そうなれば、会社にとっても大きな利益が生み出されますし、あなた自身も部長からさらに上に出世していくことになります。

そのために使いこなすべき人事の仕組みが「目標管理制度」です。

仮にひとりあたり年間800万円の利益を生み出す会社で、一人一人が800万円よりも少し高めの900万円を目標に掲げて頑張ってもうまくいきません。10人の社員がそれぞれバラバラに活動していたら、うまくいくかどうかは個人の能力と運次第になってしまいます。

では、明確にチームとして役割分担をしたらどうなるでしょう。

たとえば、一人一人が800万円からの生産性アップを目指すのではなく、800万円×10人=8000万円からの生産性アップを皆で目指し、全員で9000万円達成を目標とするのです。この場合、一人一人の役割はおのずと変わってきます。仮に営業部隊だとすれば、顧客とのファーストコンタクトが得意な人もいれば、クロージングが得意な人もいます。あるいは事務処理を間違えずに手早くすることが得意な人や、わかりやすい営業資料を作るのが得意な人がいるかもしれません。そんな一人一人の得意分野を活かしながら、チームとして協業してゆくことができるようになります。

また、一人でできることには限りがありますが、チームになると選択肢が増えます。新しい顧客の開拓をしたり、新しい商品の開発をしたりすることも、一人一人では難しいのですが、チームなら容易です。

さらに、中長期の成長を実現するためには、今現在ある一定の投資が必要です。それはお金に限らず、時間の投資も必要になるのですが、目の前の生産性に追われるとどうしても投資が困難になります。しかしチームで活動することで、この投資という行動もしやすくなるのです。

精神衛生的にも、一人一人がノルマ的な目標を抱えているのと、同じ目標を複数のメンバーで共有しているのとでは、モチベーションの度合いも変わってきます。

そうして目の前の成果としての生産性向上だけでなく、将来の成長も獲得でき、全員が成長してゆくようになります。そのことが、あなたの年収をさらにひきあげることになるのです。

実はこのようなチーム出世による年収アップの構造は2010年以降、顕著になっています。

それは給与水準の決定に労働市場の観点が含まれてきているからです。次回、詳しくお話しましょう。

平康 慶浩(ひらやす・よしひろ)
セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント。
1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年よりセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。
 この連載が書籍になりました。
 『マンガでわかるいまどきの「出世学」』(日本経済新聞出版社)です。
 出世をめぐるキャリアストーリーのマンガをはさみ込んだほか、連載を大幅に加筆・編集し、新しい時代の出世のルールや働き方を分析・紹介しています。

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