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定年楽園への扉

退職者の運用 長期投資なら安心なのか 経済コラムニスト 大江英樹

2017/1/26

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 投資の基本は「長期投資」とよくいわれます。短期的な相場の動きに一喜一憂せず、じっくり値上がり益を狙う長期投資の効用については、私は否定するつもりは全くありません。ただ、勘違いしてはいけないのは、長期投資なら安心というわけではないことです。

 とりわけ、長期投資によってリスクが減ると考える人が少なからずいますが、これは正しくありません。長期間、投資すればするほどリスクは高まるからです。まして必ず利益が上げられるというのは間違いです。

 リスク量は「投下金額×期間」です。同じ金額を投下すれば、期間が長いほどリスクは高くなるのが当然です。

■長期投資するなら資産分散が不可欠

 長期投資すればリスクが軽減されるという論拠は、価格の変動幅は計測期間を長くとることによって、日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)のような市場の平均値に近づくというだけのことです。

 したがって、人口が増えている新興国のように期待リターンがプラスの市場であれば短期間のブレはともかく長期的には利益となる可能性が高いでしょう。しかし、経済が停滞している先進国のように期待リターンがマイナスの市場であれば損になるのです。

 ところが、期待リターンというのは過去の実績に基づくものですから、どの市場がプラスのリターンになるのか将来のことはわかりません。だから、長期投資を考える場合には必ず、異なる市場への分散投資を組み合わせないとあまり意味がないのです。

 私自身の資産運用でいえば、主力は普通預金と国内株式への投資です。あとは一部ですが、グローバルな国際分散投資が1本でできる投資信託の積み立てを毎月少額で行っています。

 それでは、退職者の資産運用はどうあるべきか。いかなる場合でも長期投資が正しいという、いわば「長期投資原理主義者」のような人であれば、年齢も立場も関係なく、長期投資をすべきだというでしょう。しかし、私は必ずしもそうは思いません。

 少なくとも長期というのは20~30年単位ぐらいのことです。年齢が60歳以上の人にとって、運用期間をいたずらに長期化するのは余命から考えてあまり意味はありません。若い人ならともかく、60歳を過ぎて運用でお金を増やそうというのはあまり適切ではないと思います。むしろお金を増やすこと以上に、うまく使うことを考えるべきです。

 高齢者にとって、長期にわたって多額のお金をリスクにさらし続けるのは好ましいことではないからです。もちろん、将来のインフレに備えるということも考慮し、購買力を維持するための資産については、ある程度投資をすることは必要でしょうが、過度にリスクを取りすぎないようにすることが重要でしょう。

■柔軟で臨機応変な投資姿勢が重要

 私自身は働くことで収入を得て、自分のお金はインフレヘッジへの対応を考えて必要最小限で投資し、残りの多くは普通預金や国債などで十分だと考えています。

 私は株式投資が好きなこともあり、常に一定の資金を株式投資に充てています。退職者の場合は、仕事をしていなければ十分な時間的余裕がありますから、株式投資は長期にこだわるのではなく、自分が負えるリスクの範囲内で、短期売買するのも悪くないと思います。

 例えば、リーマン・ショックのような相場の大きな下落は、ほぼ10年に1度の割合で起こります。そこまではいかなくても、昨年のブレグジット(英国による欧州連合離脱決定)のような短期的な相場急落も1年に1度や2度は起きうるのです。

 そんなときに普段から調べて良いと思う会社の株価が下落していれば少し買っておき、1カ月後や2カ月後に首尾良く株価が上がれば売ればいいのです。リスクを負うのが嫌なら投資を無理にやる必要はないでしょう。

 要は、自分でリスクをどの程度負えるかを考えて臨機応変に判断する姿勢が大切なのです。長期投資を金科玉条のごとく信奉するのではなく、頭を柔らかくして運用に臨んだ方が楽しいリタイアメントライフを送れるのではないでしょうか。

 「定年楽園への扉」は隔週木曜更新です。次回は2月9日付の予定です。
大江英樹(おおえ・ひでき) 野村証券で個人の資産運用や確定拠出年金加入者40万人以上の投資教育に携わる。退職後の2012年にオフィス・リベルタスを設立。行動経済学会の会員で、行動ファイナンスからみた個人消費や投資行動に詳しい。著書に「定年楽園」(きんざい)など。近著は「投資賢者の心理学」(日本経済新聞出版社)。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。
オフィス・リベルタス ホームページhttp://www.officelibertas.co.jp/
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