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配偶者控除拡大 妻が「○万円の壁」超えて働く利点は

2017/1/15

 2018年から配偶者控除などを満額受けられる年収の上限が事実上、現在の103万円から150万円に上がる。しかし106万円や130万円では社会保険料の発生で手取りが大きく減る「壁」が残る。多くのパートは壁を超えないよう仕事を調整し続けるとの見方は少なくないが、壁を超えて働くメリットに注目してみよう。

 現在はパート主婦の年収が103万円までなら、夫は38万円の配偶者控除を受けられる。これを超えたときの激変緩和の仕組みである配偶者特別控除が来年から拡大し、原則150万円まで38万円が控除される(図A)。これが世帯の手取りにどんな変化を与えるか。ファイナンシャルプランナー(FP)の深田晶恵氏の試算(夫が会社員で年収700万円の場合)で見てみよう(グラフB)。

 現在は妻の年収が103万円を超えて配偶者控除が打ち切られた後、配偶者特別控除も段階的に減り141万円でゼロになる。このため夫の税負担が少しずつ増え、世帯手取りの上昇ピッチは妻の収入増分に比べ鈍くなる。

■下がる損益分岐点

 妻の年収が130万円以上なら社会保険上の扶養を外れる。厚生年金や健康保険に加入すると、保険料負担で世帯手取りは約17万円も減る。税金上の「103万円の壁」より社会保険上の「130万円の壁」の方が影響が大きい。

 グラフBで18年以降の世帯手取りを見ると、103万円を超えても夫の控除額に変化はないので、妻の収入増がそのまま世帯手取りの増加につながる。しかし130万円を超えると世帯手取りはやはり大きく下がるため、多くのパートは引き続き130万円の基準に触れないように仕事を抑える公算が大きい。

 ただし控除見直しにはメリットがある。130万円を超えた後で、どれだけ妻が年収を増やせば元の世帯手取りになるかという「損益分岐点」は現在約160万円。「それが夫の税負担減で、約153万円に下がる」(深田氏)

 見落としがちなのは壁を超えて働くことによる将来の厚生年金受給の恩恵。目先の手取り減と比べた損得を試算してみた。例えば来年以降に年収140万円で10年間働くと129万円の時に比べた世帯の手取り減は年約8万9000円なので10年で約89万円だ(表C)。一方で65歳以降にもらう厚生年金は年約7万8000円になる。当面の手取り減を将来の年金増で取り戻せる年齢を計算すると76歳。年収150万円なら67歳だ。

■長寿化を念頭に

 壁を超えて働くなら、年収が高いほど有利になりやすい。年収160万円では129万円に比べ手取り自体が年4.5万円多い。10年で45万円だ。加えて65歳以降、厚生年金が年8.8万円増える。

 国立社会保障・人口問題研究所によると、2050年に女性の約半分は93歳まで生きる。来年以降、年収150万円と年収200万円でそれぞれ10年働き、仮に93歳まで生きると、手取りの差と厚生年金を合わせた差し引きの増加額はそれぞれ224万円と597万円にもなる。

 教育費などで目先の手取りを維持せざるを得ない場合は別だが「長寿化のなか、壁を超えて働くことで終身でもらえる厚生年金を確保する利点の方を重視すべきだ」(社会保険労務士の小野猛氏)との指摘は増えつつある。

 昨年10月から、501人以上が働く企業では週20時間以上の勤務など一定条件を満たすと、年収約106万円以上で厚生年金など社会保険に加入することになった。「106万円の壁」だ。

 壁を超えると世帯手取りが約15万円減る。しかし来年以降に10年間働く場合、105万円で働くのに比べ110万円なら84歳、120万円なら69歳で厚生年金額の合計が10年間の手取り減を上回る。130万円の壁と同様に、106万円の壁も超えて働く方が長期では利点が大きい。

 厚生年金額は収入と働いた期間に応じて増える。いずれ壁超えを目指すなら、早めに厚生年金に加入した方が将来の年金額は増やしやすい。

 社会保険の対象年収は今後さらに下がる可能性がある。深田氏は「自分が対象になってから壁超えを考えると話す人は多いが、それでは遅い」と話す。全員が継続雇用されるとは限らないからだ。「今から就業時間を調整せずに働いて信頼を得ておくと、優先して雇用されやすい」と助言する。

 注意点は厚生年金への加入条件。130万円の壁では社会保険上の扶養を外れても、勤務時間が一般社員の4分の3未満などの場合は厚生年金に入れないこともあり、国民年金になる。目先の負担増の一方、将来の厚生年金はない。(編集委員 田村正之)

■健康保険加入、メリット多く
 厚生年金加入のメリットは老後の年金だけではない。夫に扶養されている場合、病気やケガをして障害を負ったときにもらえるのは障害基礎年金だけ。しかし厚生年金加入なら、収入に応じた額の障害厚生年金が上積みでもらえる。障害の対象も障害基礎年金は症状が重い「1級・2級」だけだが、障害厚生年金はより症状が軽微な「3級」でも適用になる。
 厚生年金とセットである健康保険では、病気やケガなどで仕事を休めば、給与の3分の2程度の金額の傷病手当金が最長1年半支払われる。出産のために会社を休んで給与をもらえなかった場合には、出産手当金が支給される。

[日本経済新聞朝刊2017年1月11日付]

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