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ケリー・マクゴニガル ストレスとうまくつき合う法 スタンフォードの心理学講義(1)

日経ビジネスアソシエ

2017/1/18

ケリー・マクゴニガル(Kelly McGonigal)。米スタンフォード大学の心理学者。専門は健康心理学。スタンフォード大学で最も優秀な教職員に贈られる「ウォルター・J・ゴアズ賞」をはじめ数々の賞を受賞。プレゼンの名手としても知られる
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■ストレスを「体に害」と考える人は多い

「ストレスとうまくつき合う方法」というテーマで私が講演した時、ストレスにうまく適応できていると考える成人の米国人がたった29%であることは分かっていました。加えて、ほとんどの米国人は、自分が感じているストレスの量は、健康に良くないと思っているのです。

例えば、米ハーバード公衆衛生大学院が2014年に行った調査によれば、およそ85%の米国人が「ストレスは、健康や家庭生活、仕事に悪影響を与える」と考えていることが分かっています。ストレスを多く感じると回答した人の74%は、ストレスがその人に直接的に害を与えていると考えている。さらに、回答者のおよそ80%が「ストレスがその人の健康や家族関係、コミュニティーとの関わりに対して、何かしら良い影響を与えるとは思えない」と回答しています。ほとんどの米国人が「ストレスを減らそうと努力している」と答えていますが、大多数の人は「ストレスの量が変わらないか、年々増えている」と言っているのです。

■「ストレスは体に悪い」という思い込みが心身の問題を引き起こす

だから結果として、私たちは普通ではない状況に陥ってしまっています。――誰もがストレスを感じ、ストレスは自分にとって悪いものだと思っているのに、ストレスを取り除くことができている人はいないようです。これは、米国に限ったことではありません。世界中の人々がストレスを多く感じると訴えていると同時に、「ストレスは健康に良くない」と考えていて、「ストレスを取り除くことはできない気がする」とも言っているのです。

「ストレスは悪いものだが取り除くことができない」と考えていること自体が、不安や憂鬱(気分の落ち込み)を引き起こす「特に有毒な処方箋」になってしまっているのです。米エール大学の研究によると、「ストレスを害だと思っている人」は、「ストレスがポジティブな力になり得ると思っている人」よりも、気分が落ち込む傾向があることが明らかになっています。そういう人は同時に、腰痛や頭痛のような「ストレスからくる健康問題」を、他の人より多く抱えているといいます。

別の研究では、「ストレスは健康に害を与える」とやはり信じている場合に、「ストレスを多く感じることは、心臓病にかかったり、死亡したりするリスクが高くなることと関係がある」と分かっています。言い換えれば、「ストレスを多く感じること」「ストレスは体に害だと考えること」、この2つの組み合わせによって、心身の問題を引き起こすリスクが高まる、とも言えるのです。

これとは対照的に、「ストレスを多く感じながらも、ストレスには何らかのメリットがあると思っている人」――例えば、ストレスが集中力を高めるのに役立つとか、ストレスの多い状況を経験することで自分を強くすることができると思っている人は、より健康的で、幸せで、仕事でもいい結果を収めています。

■「ストレスにもいい面がある」と気づくことが重要

だから、「ストレスとうまくつき合う方法」という私の講演は、「ストレスにもいい面がある」ことに気づくのを助ける、つまり、気づきを与えることが目的でした。ストレスは、モチベーションと活力を与えてくれます。

ストレスには、人と人とのつながりを深める働きもあります。私たちの意志を試し、力を伸ばす手助けをしてくれます。そうやって私たちは学び、成長するのです。「ストレスに良い面がある」ということだけでなく、「ストレスの良い面を見ようとする」ことが、私たちにとっていいことなのです。ストレスにさらされている状況で、「ストレスのメリット」を見つけることができたら、深い不安を感じたり、気分が大きく落ち込んだりすることを防げる可能性が高くなるのです。

もう1つ、皆さんに理解していただきたいのは、ストレスは避けられないものだということです。ストレスをたくさん感じている人があまりにも多いということは、その人自身、もしくはその人の生活に、何かしらの問題があるということを意味しています。

私たちが生きている世界では、ストレスは普通のことで、必ずしも悪いことではないのです。

■「ストレス指標」が高いほど、国民の幸福感や満足度も高い

2005年から2006年にかけて、調査会社ギャラップが実施した世論調査で、世界121カ国、12万5000人に対して、「昨日、多くのストレスを感じましたか?」という問いかけをしました。「はい」と答えた人のパーセンテージから、国別に「ストレス指標」を算出したところ、驚くべき結果が出ました。

ストレス指標が高ければ高いほど、国も豊かだという結果だったのです。「昨日、多くのストレスを感じた」と答えた人が多い国ほど、平均寿命やGDP(国内総生産)が高かった。「ストレス指標が高いほど、国民の幸福感や満足度も比例して高い」ということも、この調査結果は示していました。ストレスを感じる人が多いことは、「健康や仕事、生活水準やコミュニティーに満足している」人が多いことを意味していたのです。

調査は、さらに個人のレベルでの幸福とストレスの関係について調べていました。その結果、興味深いパターンが見られました。ストレスを多く感じた日には、怒りや憂鬱(気分の落ち込み)、悲しみ、不安を感じやすくなっていました。しかし同時に、ストレスを多く感じることは、喜びや愛、笑いを多く感じることとも、関係していたのです。

ストレスを感じても気分が落ち込まない人は、自分の生活をほぼ理想的なものとみなしている傾向が強くありました。私はこれを「ストレスパラドックス」と呼んでいます。

「ストレスパラドックス」とは、「ストレスの多さは悩みと幸福感の両方に関わっている」ということです。このパラドックスの結びつきは非常に複雑ですが、これを理解する1つの方法は、「ストレス」「悩み」「人生の意義」の間の関係性を見ることです。

■ストレスが「人生の意義」につながる

別の大がかりな研究では、サンプルとして抽出した全米の18~78歳の成人に、次のような質問をしました。「『自分の人生はおおむね、有意義なものだ』という一文に、あなたはどれだけ賛同しますか?」。そして、「賛同した人」と「賛同しなかった人」とでは、何が違ったのかを調べたのです。有意義な人生を示すものは、何だったのでしょう。

意外にも、「ストレス」が上位でした。事実、すべてのストレスが「人生の意義」につながると、調査結果が示していたのです。過去にストレスフルな出来事を数多く経験した人は、自分の人生を有意義と捉える傾向が強かったのです。

今現在、多くのストレスにさらされていると答えた人もまた、自分の人生を有意義なものと捉えていました。未来を心配して過ごす時間さえも、過去に直面した努力や挑戦を振り返るための時間として、意味があるものと捉えていたのです。

「ストレス」と「人生の意義」は、なぜこんなにも密接に関わっているのでしょう。まず第1に、ストレスは「重要な役割を果たそうとする時や、意義のある目標を追い求めた時に、必然的な結果として起こるもの」と言えます。

人生の中で感じるストレスの最たる原因を尋ねると、仕事、子育て、人間関係、介護、そして健康がトップにきます。こうした出来事は私たちの生活にとって「最も有意義なこと」ではないにしても、たくさんの意味を人生にもたらしてくれます。

ストレスを感じることは「あなたの生活に何らかの問題がある」というサインであるというよりはむしろ、「個人的に意義のある役割や人間関係、目標に、どれだけあなたが関わっているか」の、バロメーターになり得るのです。

人間には生まれながらにして、苦難を通して意味を見いだそうとする本能と許容力があります。本来、苦難に意義はありません。しかし「意義を見いだそうとする欲求」を生むきっかけになります。

このようにストレスは、個人の成長、精神的な探索、魂の探求を触発するものとなり得るのです。「人生の意義」はストレス環境そのものにあるわけではなく、私たちの内に呼び起こされるプロセスにあるのです。「人生に意義を見いだすこと」は、ストレスに反応した結果です。だからこそ、ストレスのある状況が往々にして「人生の意義」を生み出すのです。

■ストレスを避けようとするほど、不安・落ち込みを感じやすい

人生の意味を見つけるための手段として、ストレスを最大化することを勧めているのではありません。しかし、ストレスを避けようとするのは、本当によくない方法です。ストレスを正面から受け止めようとする人に比べて、ストレスを避けようとする人は、不安や気分の落ち込みを感じやすいのです。

例えば、米国のある調査で、1000人以上の成人を10年間追跡調査しました。調査の最初に、被験者に「日々のストレスにどう対処していますか」と尋ねました。ストレスを極力避ける方法――ストレスを受けるような状況を避けようとする、ストレスについて考えないようにする、飲酒やテレビ鑑賞、ゲームで遊ぶことでストレスの感覚から逃れようとする――といった方法を取る人は、その後の10年間でうつになっている傾向がより強かったのです。ストレスを取り除こうとすることは、調査が始まった時に示された病兆や問題の領域をはるかに超えて、将来うつになるリスクを示したのです。

日本でも、同じような研究がなされています。例えば日本の成人は、ストレスを避けることで、連帯感や帰属意識といった社会的な幸福が低下すると見られています。

不安、失敗、不快感、衝突、喪失といった「ストレスのイヤな側面」を避けられたなら、どんなにいい人生になることかと、思うかもしれません。日々の生活を顧みる時、ストレスを感じた1日を思い出して、「あぁ、1週間のうちでいい日ではなかったなぁ」と思うかもしれません。そんな日には、「ストレスのない日を過ごしたい」と願いがちです。

しかし、人生をもう少し広い目で見て、自分の生きてきた歴史を振り返った時、「ストレスを伴った経験はすべてなかったことにしてしまいたい」と思うでしょうか。なかったことにしたところで、人生が理想的なものになるというわけではありません。それどころか、自分を成長させてくれた経験や、最も誇りに思っている挑戦、そしてあなたをあなたたらしめている人間関係を消し去ってしまったことに気づくでしょう。不快感は多少軽くなるかもしれませんが、「人生の意義」が奪われてしまうことにもなりかねません。

■ストレスからくる不安や憂鬱に「効果的なもの」

では、ストレスと上手につき合う能力を与えてくれることは何でしょうか。不安や憂鬱(気分の落ち込み)を和らげ、そこから回復する力を生み出すのに最も効果的なのは、運動やスポーツ、散歩、友達や家族・ペットと過ごす時間、マッサージ、瞑想、ヨガ、お祈り、祭祀への参加、ボランティア活動や他人の手助け、クリエーティブな趣味に費やす時間だということが、科学的に証明されています。

こうした方法は、飲酒やテレビ鑑賞といった典型的なストレス解消法と、何がそんなに違うのでしょう。飲酒やテレビ鑑賞といった逃避する方法と違って、前述した効果的な方法には、「自分自身へのセルフケア」や「自己よりも大きな存在とつながること」が関わっています。それらが「人生の意義」や自己超越の感覚をもたらしてくれるのです。「人生の意義」「自己超越」「自分自身へのセルフケア」が、幸福や回復のために必要な重要な力の源なのです。

ストレスに押し潰されそうな時は、「ストレスのある状態を通じて成長し続けられる」という潜在的なメリットを振り返ってみてください。自分の力が伸び、他者とのつながりが強められ、自分の価値を表現するために、ストレスがどんな機会になるのか。

それから、「自分自身へのセルフケア」や「自己超越」のための行為を日常生活にどう取り入れていくか、考えてみてください。そうしたことが、「ストレスを減らしたり、取り除いてくれる」と考えるのではなく、むしろ、「自分にとって一番大切なものを求め続けるための力を与えてくれる」と考えてください。――たとえそう考えることが必然的に、ストレスになろうと。

【ストレスとうまくつき合うためのルール】
ルール(1)ストレスの「良い面」を見る
ルール(2)ストレスから逃げない
ルール(3)「セルフケア」をする

【「やってはいけない!」ルール】
ルール(1)ストレスは「害」だと思うこと
ルール(2)ストレスは「取り除くことができない」と思うこと

[書籍『スタンフォードの心理学講義 人生がうまくいくシンプルなルール』を再構成]

スタンフォードの心理学講義 人生がうまくいくシンプルなルール

著者 : ケリー・マクゴニガル
出版 : 日経BP社
価格 : 1,728円 (税込み)

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