マネー研究所

カリスマの直言

トランプ相場 熱が冷めたら投資の好機(藤田勉) 日本戦略総合研究所社長

2017/1/16

「トランプ相場による急速な金利上昇・ドル高はこのまま持続するとは思えない」

 ドナルド・トランプ氏が米国大統領選挙で勝利した昨年11月以降、世界的に株高、ドル高、金利上昇、原油高が続いている。筆者は急速な金利上昇、ドル高がこのまま持続すると思えない。相場の転換点は春以降になろう。ただし、相場が急落したときこそ投資の好機と考える。

 トランプ氏は1月11日に大統領選後初めて記者会見を開いたが、経済政策への具体的な言及はなく、失望感からドルの買い持ち高を解消する動きが出た。これを受け、年初に一時1ドル=118円台だった円相場は113円台に上昇する場面があった。筆者は相場の転換点が近づいているとの予想に自信を深めた。

■金利上昇、ドル高は長期間続かない

 大統領選後のドル高の主因である金利上昇の理由としてまず挙げられるのは、トランプ氏によるインフラ投資拡大と大型減税の構想だ。確かに、大型減税は、短期的な景気浮揚効果がある。しかし、長期的には財政赤字拡大、長期金利上昇によって、景気に悪影響を与えることが証明されている。

 過去、レーガン政権(1981~89年)とブッシュ政権(2001~09年)で大型減税が実施された。いずれも短期的には景気浮揚効果があるため、長期金利が上昇して、一時的にドル高となった。

 しかし、その後、双子の赤字(経常収支と財政収支の赤字)が急激に拡大し、ドル安となった。レーガン政権下では82年の1ドル=278円から88年の121円、ブッシュ政権では02年の135円から08年の87円まで、激しい円高・ドル安となった。前者はプラザ合意、後者はリーマン・ショックが重なり、世界の金融市場は大きく混乱した。結局のところ、両政権の期間中、長期金利は大きく低下したのである。

 米国ではインフラ投資を実施する主体は州などの地方政府と民間企業なので、国道もなければ、国立競技場もない。連邦政府のインフラ投資額は年12兆円(対GDP比0.6%、14年)にとどまる。新政権は総額約60兆円のインフラ投資を掲げるが、これは対GDP比で3%であり、10年間で実施するのであれば年平均同0.3%にすぎない(米国のGDPは約2100兆円)。

 このため、短期的に大きな経済効果は期待しづらい。次期政権ではエネルギー開発推進派が中枢に多いため、民間による石油パイプライン開発などは進むであろうが、米国経済全体に大きな影響を与えるものにはなるまい。

 政治的な理由からも、トランプ次期政権が長期のドル高と金利上昇を容認するとは思えない。第1に、米国経済を悪化させる。とりわけ、ドル高はトランプ氏の支持基盤である工場労働者の雇用に脅威となる。

 第2に、不動産と株価に悪影響をもたらす。過去の利上げ局面では、00年、07年と株価急落(そして住宅バブル崩壊)を生んだ。トランプ氏は不動産会社の経営者として4度の破産を経験した。そして、娘夫婦も不動産業を営み、その娘婿の実家も不動産業者である。トランプ氏は大統領の任期中は保有資産を切り離し、2人の息子に経営権を託すとしているが、ファミリービジネスは温存される。

 米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めも緩やかなものになろう。金融政策を決定する米連邦公開市場委員会(FOMC)のメンバーの予想(中央値)では、今年3回の利上げが実施される見通しである。しかし、FOMCには利上げバイアスがあるため、その予想はあまり当たらない。15年末時点で、16年は4回利上げの予想であったが、実際はわずか1回にとどまった。これは、おおむね毎年の傾向でもある。

 そもそも、米国経済は成長率、インフレ率とも1%台であり、金利が大きく上がるファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)にはない。以上を総合すると、金利は緩やかに上がると思われるが、低金利の基調に大きな変化はあるまい。

 大統領選結果は、選挙人獲得人数がトランプ氏306人、ヒラリー・クリントン氏232人と、トランプ氏の圧勝だった。ただし、得票率では、クリントン氏(48.2%)がトランプ氏(46.1%)を上回った(米CNN集計)。有権者のトランプ支持は半分程度といっていいだろう。

 主要メディアは、反トランプ色が強いニューヨーク、シカゴ、ワシントンDC、ロサンゼルスに本社を持つ。ドル高、金利高によって経済の改善が芳しくなければ、ハネムーン期間(政権発足後100日間)後、つまり5月以降に、マスコミの厳しい批判が始まるであろう。

■株式相場は短期的に調整へ

 従って、短期的には米国を中心とする世界の株式相場の調整は避けられないであろう。それは春以降になると予想する。ただし、長期的には、世界的な株高基調に変化はないであろう。基本的に、トランプ次期政権の政策の効果に対する評価には変化はない(16年11月14日付コラムを参照)。

 トランプ氏の掲げる政策のうち、法人税減税は、企業の純利益を増加させるので、株価上昇要因である。ドッド・フランク法改正による金融規制緩和は金融株にプラスであり、エネルギー開発が進めばエネルギー株にプラスである。金融株もエネルギー株も時価総額が大きいので、相場全体の押し上げ効果は大きい。

 金融緩和政策も持続されよう。トランプ氏は選挙期間中に、金融引き締め政策をとるジャネット・イエレンFRB議長の更迭に言及した。来年2月に任期が満了するイエレン氏は民主党員であり、トランプ氏は共和党員の議長に交代させ、金融緩和を長期化させることが考えられる。過去には実質的な更迭の例として、1979年に、カーター大統領がインフレ抑制に失敗したウィリアム・ミラー議長を財務長官に「昇格」させたことがある。

■今年も波乱要因多い

 今年もトランプ政権の発足、フランス大統領選挙、ドイツの連邦議会選挙、中国共産党中央政治局常務委員の交代など、世界で波乱要因が多い。そのため、引き続き、相場の大変動が予想される。

 よって、投資戦略としては「急落したときに思い切って買えるか」が勝負である。15年末の円相場は1ドル=120円だった。それが昨年8月には100円まで上昇したが、年末は117円だった。日経平均株価も15年末の1万9033円から昨年6月には1万4952円まで急落したが、年末は1万9114円まで回復した。今年も同様の展開になる可能性がある。

 国内要因としては、日銀による上場投資信託(ETF)の年6兆円購入は需給面の下支えだ。このため、一時的に株価が下落しても、比較的高い確率で相場の反発が期待できる。筆者は20年に向けて、人工知能(AI)革命をテーマに日経平均は3万円が視野に入ると予想している。トランプ相場の熱が冷めて相場が急落すれば、そこは10年代最後の絶好の買い場となろう。筆者はそれは年央に訪れると予想している。

藤田勉(ふじた・つとむ) 山一証券、メリルリンチを経て、現シティグループ証券顧問。2016年に日本戦略総合研究所社長。10年まで日経ヴェリタス人気アナリストランキング日本株ストラテジスト部門5年連続1位。慶應義塾大学「グローバル金融制度論」講師。SBI大学院大学教授。内閣官房経済部市場動向研究会委員、経済産業省企業価値研究会委員などを歴任。一橋大学大学院修了、経営法博士。1960年生まれ。

マネー研究所新着記事

ALL CHANNEL