「食べちゃダメ」は逆効果 脳のクセ知りやせるワザ
「食欲や性欲など本能にかかわる欲求は、"動物脳"によるもの。非常にエネルギーが強く、生存を脅かすようなストレスがかかると暴走しやすい。この"動物脳"をコントロールするには、知識や情報を冷静に処理して判断する"人間脳"を適切に働かせるアプローチが必要」と、脳神経外科医で、脳のクセに詳しい篠浦伸禎さんはいう。
「食べたい」という欲求や、不安や恐れといった感情は、脳の内側にある大脳辺縁系(扁桃体)から生まれる。この本能的で原始的な"動物脳"に対して、進化した"人間脳"が集めた様々な情報を処理し、「ダイエット中だから食べてはいけない」などと判断する。
ダイエットで結果を早く出そうとして食事を急に減らしたり抜いたりするとますます食べたくなるのは、動物脳が暴走している状態。食事量を少しずつ減らす、血糖値が急激に上がらない食事に変更するなど、"動物脳"にかかるストレスが小さいダイエット法を選ぶほうが、「食べたい」気持ちは抑えられる。
「食べたい」という"動物脳"の働きに対して、「食べるべきではない」という"人間脳"の判断とどちらを実行するかを、コントロールしているのは、大脳辺縁系と大脳新皮質の間にある、帯状回(たいじょうかい)という部分(図)。「脳全体の"司令塔"として自我と強く関係し、集中力や気づき、洞察力などもここの働きによるものだ。大人になるにつれて徐々に発達するが、使い方によってさらに鍛えることもできる」(篠浦さん)。
瞑想で脳をリセット
脳の司令塔である帯状回を鍛える方法として篠浦さんが薦めるのは、息を長く吐くだけの簡単な瞑想(めいそう)。帯状回は、脳の前方にある前頭葉から後方の楔前部(けつぜんぶ)まで、前後に長く分布しているが、「神経線維が最も多く集まっているのは、後方の楔前部。リアルタイムの情報をありのままに受け入れるところで、"いま必要なこと"を的確に選ぶのに大きな役割を果たす。自分の息に"気づく"タイプの瞑想をしている人の脳を、MRI画像で調べたところ、この部分に血流が集まって活性化していることが確認できた(篠浦さん)。
「瞑想には、動物脳の回路をいったんストップして、人間脳を適切に働かせて脳が本来あるべき姿にリセットする作用がある」と、篠浦さんは考えている。
失敗が許されない難しい手術を数多く手がける篠浦さんは、不安から、お酒を飲まずにいられないこともあったそう。「通勤電車で瞑想を実践したところ、飲まないでもいられるようになった」(篠浦さん)という。
この人に聞きました
都立駒込病院脳神経外科部長。脳の覚醒下手術(脳の腫瘍を切除する前に麻酔薬を切り、その部分を摘出しても運動や言語などの脳機能に影響がないかを患者に確認しながら行う手術法)を通じて、病気の予防や環境の変化に対応するための脳の使い方などを提唱。近著に『脳と瞑想』(サンガ新書、プラユキ・ナラテボー氏との共著)などがある。
(日経ヘルス編集部)
[日経ヘルス2017年2月号の記事を再構成]
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