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インフルエンザ対策 マスクをつけっ放しは逆効果?

日経Gooday

2017/1/14

実際のところ、マスクはインフルエンザウイルスに有効なのだろうか。(c)Csaba Deli-123rf
日経Gooday(グッデイ) カラダにいいこと、毎日プラス

 インフルエンザの流行まっただ中だ。感染予防に有効な方法や治療のポイントについて、国立国際医療研究センター国際感染症センターの忽那(くつな)賢志氏に聞いた。2015年度からワクチンの接種料金が値上がりしたが、その分、予防効果は高くなったのか。マスクはインフルエンザ予防に有効なのか――。

■予防の第一はワクチン接種

――今シーズンは、昨シーズンより1カ月以上も早くインフルエンザの流行が始まりました。なぜ早いのか、終息時期も早まるのかなど、いろいろ気になります。

忽那 インフルエンザの流行入りが早くなる理由は諸説あり、はっきりしたことは分かっていません。東京都内では、2016年11月中旬あたりからポツポツとインフルエンザで受診する人が見られていましたが、現場の実感としては、すごく早い、大流行だ、というほどでもありませんでした。地域差もあるのでしょう。

 残念ながら、早くから流行すれば、その分早く終息する、とは限りません。例年、A型が先に流行して、少し遅れてからB型が出てくる傾向がありますが、A型とB型が時間差で流行し、流行期間が長くなるシーズンもあれば、A型とB型が同時に流行して短く終わるシーズンもあります。また、A型とB型の時間差だけで流行期間が決まるかといえば、そうとも限りません。2009年に流行した新型インフルエンザA(H1N1)のように、秋に大流行した後、ダラダラと春先まで流行が続くこともありますので、やはり春先まで注意が必要です。

――早く流行が始まると、「今さらワクチンを接種しても仕方ない」と思う人もいるようです。これからでも、接種した方がいいのでしょうか。

忽那 ワクチンを接種してから免疫がつくまで、1~2週間かかります。それでも、流行が始まっているからといって、すぐに感染するとは限りませんし、流行は数カ月間続きますので、1日でも早くワクチンを接種することをお勧めします。例年のピークは1~2月です。1月に入ってからの接種でも、十分意味はあると思います。

■インフルエンザにかかれば必ず抗インフルエンザ薬を使うべき?

――インフルエンザの治療では、どのような薬を使うのでしょうか。

忽那 一般的にインフルエンザ治療に用いる抗インフルエンザ薬(ノイラミニダーゼ阻害薬)は、オセルタミビル(商品名タミフル)、ザナミビル(リレンザ)、ラニナミビル(イナビル)、ペラミビル(ラピアクタ)の4種です。中でも使用頻度が高いのは、最もエビデンス(薬の効果や安全性に関する科学的な裏付け)が蓄積されているタミフルです。5日間きちんと服用するのが難しい場合は、1回の吸入で済むイナビルを使うこともあります。

 ただ、私は、抗インフルエンザ薬を絶対に使うべきだとは考えていません。インフルエンザには抗インフルエンザ薬を使うのが当たり前だという考えが広く浸透していて、処方する医師も多いのですが、インフルエンザはもともと安静にしていれば自然に治癒する感染症です。持病がない人、体力のある若い人など、抗インフルエンザ薬に頼らなくてもいい場合も多くあります。抗インフルエンザ薬は、発熱の期間が半日~1日ほど短くなる[注1]メリットがありますが、副作用の問題もあわせて飲む必要があるかどうかを考える必要があります。

――抗インフルエンザ薬を絶対に使うべきとは限らない、というのは意外です。副作用にはどのようなものがあるのですか。

忽那 抗インフルエンザ薬の副作用で一般的なのは下痢です。薬を使ってつらいインフルエンザの高熱が少し早く下がっても、副作用の吐き気や下痢がひどくなって再受診するのでは、何のために薬を出しているのかわかりません。

 タミフルの添付文書によると、下痢の頻度は0.9%、悪心(吐き気)0.5%とされていますが、実際にはもっと多い印象で、嘔吐16%、下痢12%という報告もあります[注2]

――抗インフルエンザ薬を使った方がいいのはどんなときでしょうか。

忽那 慢性の心臓疾患、呼吸器疾患、糖尿病、腎臓病などの持病があったり、免疫抑制薬を飲んでいて免疫機能が下がっているような患者さんは、インフルエンザにかかると合併症を起こすリスクが高いので、抗インフルエンザ薬を使うのが一般的です。

 高齢者は特に合併症に注意が必要で、高齢であること自体がリスクファクターと言えます。インフルエンザの合併症の中で最も多いのは肺炎ですが、まれにインフルエンザ脳症を起こすこともあります。高齢者の脳症は死亡率が15.2%と高く[注3]、注意が必要です。

 インフルエンザ脳症を合併する患者は小児が中心で、20~50代の働き盛りの人が脳症になる頻度は低いものの、昨シーズンは成人を含めて200例以上が報告されており、やはり油断はできません。脳症の主な兆候は意識障害と痙攣(けいれん)で、時には嘔吐(おうと)や頭痛も伴います。こうした症状には周りの人も十分注意してあげてください。

[注1] Lancet Infect Dis 2009 Sep;9(9):537
[注2] Dalvi PS, et al. Adverse drug reaction profile of oseltamivir in children. J Pharmacol Pharmacother. 2011 Apr-Jun; 2(2):100-103.
[注3] 国立感染症研究所 インフルエンザ脳症について. IASR Vol. 36 p. 212-213: 2015年11月号.

■ワクチン、マスク、予防投与…感染予防はどのように?

――インフルエンザ予防の第一はワクチンです。2015年度から予防可能なウイルスの型が1種類増え、そのため接種料金も値上がりしましたが、その分、予防効果は高くなったのでしょうか。

忽那 現在使われているワクチンは、A型ウイルス2種(H3N2、H1N1)とB型ウイルス2種(山形系統、ビクトリア系統)の計4種を予防できる4価ワクチンです。2014年まではA型2種、B型1種の計3種しか予防できなかったので、B型が1つ追加された効果はあると思います。とはいえ、例年、感染者が多いのはB型よりもA型です。ワクチンで予防できるB型ウイルスが1つ増えたことで、全体としてどれだけ予防効果が高まったかは未知数です。

 問題は、値上がりと同時に、接種する人が減っていることです。特に小さいお子さんが複数いる家庭では、1人につき2回接種が必要ですので、値上げのインパクトも大きくなります。こうしたことから、接種に消極的になる人が増えているのかもしれません。だとしたら、本末転倒な現象と言わざるを得ません。

――ワクチン以外の日常的な予防策として、マスクも欠かせないアイテムです。実際のところ、マスクはインフルエンザウイルスに有効なのでしょうか。

忽那 インフルエンザは、ウイルスを含む分泌物(くしゃみのしぶきなど)を吸い込むことによって感染する(飛沫感染)ので、マスクは有効です。しかし、1日中ずっとマスクを着用していても、感染を防げるかどうかは不明です。たとえば、人混みでくしゃみを浴びた後、ウイルスを含むしぶきが付着したマスクの表面に手が触れたとします。マスクを外した後に、その手で口や鼻をさわったりすれば、結局は感染する可能性が高まるでしょう。単にマスクをつけるだけで、完全にウイルスを防げるものではないのです。

 マスクをつけるなら、外出のたびに新しいマスクに取り替えることも大切です。マスクをつけっ放しにしていると、外出先でウイルスが付着し、そのマスクが感染源になる恐れもありますので、使い方に注意が必要です。医師も、患者さんを1人診察するたびにマスクを廃棄し、手洗いをしています。下表の通り、マスクに加えて、うがい・手洗いなどもセットで励行するといいでしょう。

――抗インフルエンザ薬を予防的に使用する方法がありますが、どのような場合が対象なのでしょうか。

忽那 家庭にインフルエンザ患者が出た場合などに、感染予防のために抗インフルエンザ薬を使うことを予防投与と言います。予防投与は保険外診療の扱いになり、全額患者さんの自己負担となります。対象は、ウイルスへの暴露[注4]があって、かつ、重症化しやすい基礎疾患[注5]がある人です。

 基礎疾患がなくても、例えば大事な受験を間近に控えた受験生で、家族にインフルエンザ患者がいる状況なら、医師と相談の上、予防投与を行うこともあるかもしれません。ただし、ウイルスに接したとしても、健康な人は必ずしも発症するとは限りません。また、インフルエンザにならなくても、予防投与の副作用で受験当日に下痢になる可能性もゼロではないのです。副作用についても医師の説明を受け、納得した上で使うことが大切です。

[注4] 感染している人に接触すること。
[注5] 慢性の呼吸器疾患・心疾患、腎機能障害、糖尿病などの代謝障害のほか、65歳以上の高齢者、2歳未満の小児や妊婦、免疫不全のある人なども該当する。
インフルエンザ生ワクチン「フルミスト」はまだ承認されず
 米国などで使われている経鼻噴霧式のインフルエンザ生ワクチン「フルミスト」は、注射より簡便なこともあって、日本国内での承認が待たれてきた。だが、米疾病対策センター(CDC)は、最新のデータでインフルエンザの予防効果が低かったことを理由に、「2016/17シーズンはフルミストを勧奨しない」と発表、話題を呼んだ。
 「米国の推奨がすべてではありませんが、フルミストの効果が薄いとする報告があるのは事実です。今後日本で認可されたとしても、すぐに今の注射タイプのワクチンからフルミストに切り替わることはないと思います」と忽那氏は話している。

(医療ジャーナリスト 田中美香)

■この人に聞きました

忽那賢志(くつな さとし)さん
 国立国際医療研究センター国際感染症センター医師。2004年山口大学医学部医学科卒業。関門医療センター、市立奈良病院などを経て、2012年より国立国際医療研究センター国際感染症センターに勤務。インフルエンザをはじめとする季節性の感染症のほか、デング熱、エボラ出血熱、回帰熱、ジカ熱などの輸入感染症に詳しく、水際対策の最前線で診療にあたっている。著書に『感染症診療とダニワールド』(シーニュ)、『症例から学ぶ輸入感染症A to Z』(中外医学社)など。

[日経Gooday 2016年12月22日付記事を再構成]

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