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人生100年時代、日本は従順な働き方は変えないと 「LIFE SHIFT」のグラットン教授 × ウォンテッドリー 仲暁子CEO

2017/1/21

英ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授

 平均寿命が延び、これからは「100年生きる」ことを前提に生き方を考えなければならない――。英ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授が著した『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』(東洋経済新報社)が、世界中で注目を浴びている。今回、ビジネス向け交流サイト(SNS)を展開するウォンテッドリー(東京・港)の仲暁子最高経営責任者(CEO)と対談。「日本の働き方」に対する意識を変えるポイントについて聞いた。

■経済学と心理学の視点でみる長寿

ウォンテッドリーの仲暁子CEO

「以前、『WORK SHIFT(ワーク・シフト)』で、テクノロジーの進化で変わった私たちの働き方について書かれていました。最新の著書である『ライフ・シフト』では、これから『100年生きる時代』の人生設計、つまり生きることそのものについて書かれていますよね。なぜこのことに焦点を置かれたのでしょうか」

グラットン 「私たちは、組織にイノベーションを起こすことをミッションにした『ホットスポッツムーブメント』という会社を立ち上げています。ここで約10年間、仕事と生活の傾向についてフォーカスしてきました。そこで、明らかにテクノロジーの進化が私たちの生活に変化をもたらし、世界を形作っているということがわかったのです。『ワーク・シフト』ではそのことを書きました」

 「一方で、他の傾向についても考え始めたところ、人口の変化、特に長寿化が新たなテーマだと思ったのです。同僚で経済学者のアンドリュー・スコット(ロンドン・ビジネススクール大教授、『ライフ・シフト』の共著者)と議論を始めたところ、経済学と心理学の両面から考えると、非常に面白い視点が生まれると気付いたのです。そこで、『ライフ・シフト』の執筆を始めました。『ワーク・シフト』を書き終わった直後か、その前から考えていたと思いますね。当時、長寿という問題について広い視点から書かれた本がほとんどなく、大半は認知症や老化に焦点を当てたものでした」

■長い時間働く、幸せなはずなのに

「『ライフ・シフト』では、なぜ生き方を変革しなければいけないか書かれています。私たちの会社ウォンテッドリーも、ビジネスパーソンの仕事に対する考え方を変えることをミッションにしています。自分のやりたい仕事をすべきだし、仕事が楽しければ経済的にも社会的にもうまくいくはず。ところが、日本人の多くは、考え方を変えられません」

グラットン 「『ライフ・シフト』を出したとき、『単なるエリート主義的な議論だ』というようなネガティブな評価もありました。しかし、私は経営学修士号(MBA)を持っている人のためだけに本を書いたつもりはありません。『自分の人生をコントロールしたい』と願う人のために本を書いたのです。あなたに賛成する人もいると思いますよ。あなたがやろうとしていることは、日本が挑戦しなければならないことの一つです。世界は変化しているのに、どういうわけか日本企業は変わらず、人々が働きたい場所も変わらない」

 「日本はとても労働時間が長い国の一つですが、あるデータでは『仕事のやりがい』が低い国の一つでもあります。非常に問題です。本来、長い時間働ける、ということは、自分にとって好きな仕事ができて、素晴らしい時間を過ごしている、ということのはずです。本来幸せなはずなのに」

■日本人はスキルにも興味

「これまでの雇用関係は、『親子関係』に似ていた」

「(給与など)金融資産と、(人脈や高度なスキルなど)無形の資産についてのお話も非常に興味深かったです」

グラットン 「お金に換算できる有形の資産だけではなくて、もっと無形の資産について考えなければいけないですね。その意味で、今回の『ライフ・シフト』は、アメリカよりも日本のほうが深く読んでいただいていると感じます。アメリカで本が出たときは、インタビューのほとんどは年金にフォーカスされていましたが、日本では無形の資産について興味を示されることが多かった。お金に換えられないものは、何をしていても、誰であったとしても人間の大切な資産です」

■雇用、親子から大人同士の関係に

「日本では建設現場や工場で働く人たちも多くいます。彼らの働き方に対する考え方も変えることができるでしょうか」

グラットン 「はい、もちろん。なぜ変われないのでしょうか。いわゆる単純作業はいずれロボットにとって代わられる仕事になります。米国では仕事の4割、なかでも工場労働者のような単純作業は消えていくと予想されています。彼らは変革に立ち向かわなければなりません。選択の余地はない。変化を恐れるか、変わるために何をすべきか考えるか、2つに1つです。日本でも最近、働き方が変わりつつあると感じます。10年かかるのか、20年かかるのか、30年かかるのかどうかは分かりませんが、必ず変わります」

 「これまでの雇用関係は、『親子関係』に似ていました。会社が親で、従業員が子ども。日本はまだ変わっていないかもしれませんが、この関係は、大人と大人の関係に変わってきています。大人になれば、自分で責任を取り、自分で選ぶようになります。変化を望まない人はいるし、私もこの本が読んだすべての人の人生を変えられるとは思いませんが、少なくとも自分の人生を自分の願う通りに描くためのやり方を物語風に書いたつもりです」

■従業員と企業の関係は結婚ではない

「日本の企業はどうしたら変えられるでしょうか」

グラットン 「大企業、特に日本企業が直面している課題は、長年の遺産をベースにしているので実際にはより深刻ですし、日本企業は変化したくないのです。かつて成功したので、彼らはある種の勝利の方程式を持っているし、それを変えようとする圧力に非常に敏感です」

「日本の企業はどうしたら変えられるか」

 「日本の労働環境に、特徴的な課題がいくつかあります。一つは終身雇用です。他の世界を見渡しても、私はこのシステムが継続するとは思えません。あなたの残りの人生の面倒も見てあげるし、成長しなくてもいいですよ、ただ従順であることが大切、という考え方です。しかし本来企業とは、従業員に充実感を与えることを約束しても、永遠にその企業で働くことを期待はしていません。従業員と企業の関係は結婚ではないのです。あくまで契約です」

 「もう一つは女性の雇用が少ないことです。私が日本人の幹部と仕事をするとき、メンバーが男性ばかりで驚きます。もっと多くの女性を管理職にするように働きかけるべきだし、そうするのは今です。この動きは日本企業によい結果をもたらします」

 「加えて、日本政府はもっと、起業を促すべきです。今、欧米で大きなビジネスを生み出しているのは大企業ではないし、ほとんど成長できていません。彼らの成長の原資は海外です。大半の日本企業も海外で成長しています。一方であなたのようなスタートアップは伸びているし、政府も家族もその選択をもっと応援しなければなりません」

 「世界経済フォーラムが世界150カ国を対象に起業環境の競争力について調べたら、日本は、起業家の支援と、起業という選択に家族の理解があるか、という2つの項目でもっとも低い結果でした。一般的な日本の家庭に育った人なら、公務員になるか、大手企業か外資系企業で働くことを勧められるでしょう。しかし、起業すれば自主性と自制心が鍛えられます」

■女性活用は課題

「私は日本企業が米国や他の国に比べて競争力がない理由の一つは、人材の流動性がないことが原因だと思います。しかし、私はシニアが仕事を失うのは避けたい。仕事があることは社会基盤を安定させるし、日本が安全な国である最大の理由だと思っています」

グラットン 「確かにあなたがいうように、日本の正社員制度や終身雇用は、恩恵を受ける人に安全をもたらします。問題なのは、その権利があるのはごく一部の人だということです。多くの女性はその契約を持っておらず、パートタイム契約で、とても不安定です。終身雇用制が壊れることは、確かに課題も生むけれど、別の課題を解決します。だからこそ、人と仕事をつなぐあなたの会社は、日本で必要だと思います」

Lynda Gratton
人材論、組織論が専門で、世界の経営思想家ランキング「Thinkers50」の常連。近著に「ライフ・シフト」(共著)。61歳。

(松本千恵)

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