自転車事故に保険で備え 損保各社は補償引き上げ

2017/1/14

自転車事故で他人に損害を与えたり、自分がケガをしたりした際に補償する自転車保険への関心が高まっている。加入を義務付ける自治体が増え、損害保険各社も補償額の上限を引き上げるなどしてニーズに対応している。ただ、自転車保険の詳しい補償内容や、他の保険の特約でも一部カバーできることは意外と知られていない。自転車保険の活用策や加入時の注意点をまとめた。

自転車保険への関心が高まったきっかけは2013年に神戸地裁が下した判決だ。自転車で60代の女性に正面衝突して頭蓋骨骨折などの傷害を負わせ意識が戻らない状態にしたとして、男子小学生の親に9521万円の支払いを命じた。その後も高額な賠償を求める裁判が全国で相次ぐ。

他者への損害賠償を補償する保険への加入を、自転車の利用者に義務付ける自治体も増えている。兵庫県は15年10月に全国で初めて条例を施行。16年7月に大阪府、同10月に滋賀県が続き、京都市や名古屋市も検討中だ。

自転車事故に備えるための保険は、運営する主体によっていくつかある()。

自転車店店頭で

まず損保各社が販売する商品だ。一般に自転車保険と呼ばれるが、損害賠償責任をカバーする「個人賠償責任保険」と、自身のケガに備える「傷害保険」をセットにして扱う。自転車運転中に限らず日常生活での事故による賠償責任なども補償する例が多い。

インターネット経由やコンビニエンスストアの情報端末から加入できる商品が主流だ。大手携帯会社のスマートフォンなどから申し込み、利用料と一緒に保険料を払えるタイプもある。

最近目立つのが、個人賠償責任の補償上限額を引き上げる動きだ。三井住友海上火災保険は16年4月、1億円から3億円へ変更した。東京海上日動火災保険も16年10月、NTTドコモ利用者向けの商品で2億円から5億円に改定。損害保険ジャパン日本興亜も17年1月、一部商品で1億円から3億円に引き上げた。

加入方法の多様化も目立つ。au損害保険は昨年2月、自転車専門店大手のあさひの店頭で加入案内をする専用商品を用意。損保ジャパン日本興亜は6月にファミリーマートのマルチメディア端末経由で加入できるようにした。

補償内容や保険料は商品により大きく異なる。au損保を例にすると、契約者本人のみを補償するタイプで年間保険料は4150円から。個人賠償責任で1億円まで補償するほか、自身がケガで入院した場合などに給付金が出る。

事前に確認したいのが、自身がすでに個人賠償責任保険に加入していないかどうかだ。同様の補償は火災保険や自動車保険の特約として付くケースが多いためだ。加入済みで補償内容が十分なら、重複して申し込む必要性は薄い。

ファイナンシャルプランナー(FP)の清水香氏は「個人賠償責任特約は年1000~2000円程度の保険料で付加できる例もある」と指摘。自身のケガについては「公的医療保険制度で一定額まで対応でき、民間の医療保険に入っていれば補償もある」と話す。

自治体が主体に

自転車事故に備える保険としては自治体が主体となる例も現れ始めている。保険加入を義務付けた3府県と、横浜市はそれぞれ、交通安全協会などを通じて募集。損保ジャパン日本興亜が補償を引き受けている。

一般に域内で自転車に乗る人が対象で、居住者に限らず加入できる。賠償責任の補償上限は1億円とする例が多く、年間保険料は1000~3000円程度ですむ。

自転車事故への備えでもうひとつ選択肢になるのが「自転車安全整備制度」(通称TSマーク)。公益財団法人・日本交通管理技術協会が運営し、登録した自転車販売店で点検整備を受けると、追加の出費なしで保険が付帯される。制度の利用件数は15年度で約238万だ(グラフ)。

点検整備を受けた車両を運転中、他者を死亡させるなどした場合、最高5000万円を補償する。ただし、物的な損害は補償しない点は留意が必要。運転者のケガも片目失明など重度なケースが対象だ。

手厚い補償を受けたいなら損保各社が販売する商品、保険料の安さを重視するなら自治体の保険やTSマーク付帯保険が選択肢になる。特徴を理解して検討したい。(藤井良憲)

[日本経済新聞朝刊2017年1月7日付]