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初心者の投信選び 毎月分配型は運用苦戦で人気一服

2017/1/15

 2017年の筧ゼミの大きなテーマは「貯蓄から投資へ」。まずは初心者に向くという投資信託に注目します。第1回の発表者は宗羽士郎君です。ここ数年個人投資家の資金を集めてきた毎月分配型の投信を取り上げます。

筧花子(かけい・はなこ、50=上)経済大学院教授。家計の経済行動や資産形成、金融リテラシーが専門。 宗羽士郎(そうば・しろう、23=中)大学院1年生。中堅証券「宗羽証券」創業家の一人息子。IT好き。 岡根知恵(おかね・ちえ、38)パート主婦。将来の家計に不安を覚え、金融知識を身に付けようと大学院に。

 宗羽 投資初心者を含めて小口のお金を多く集め、プロが運用するのが投資信託です。投資信託協会によると、だれでも投資できる国内の公募投信は昨年11月末で6121ファンド、運用する純資産の総額は101兆2612億円にも達しています。

  ファンド数は東京証券取引所の上場企業数を上回っていますね。でも純資産が2000億円を超えるのは1%ほどです。一部の投信に投資家のお金が偏っているということですね。

 宗羽 はい。このランキング表をご覧ください。実は上位10位まですべてが毎月分配型です。運用収益などから毎月、比較的安定した額の分配金を出す仕組みで、投資家は高齢者が中心だそうです。首位は「フィデリティ・USリート・ファンド B」で、主に米国の不動産投資信託(REIT)で運用します。

 岡根 新聞で最近、そのファンドの記事を読んだ覚えがあります。

 宗羽 はい。昨年11月から分配金を減らしたのです。上場投資信託(ETF)などを除けば国内最大のファンドですから関心を集めました。分配金は昨年10月まで毎月1万口当たり100円を出していたのですが、70円に下げました。単純計算では年換算で1200円から840円に減らしたわけです。

 岡根 ちょっと待ってください。1万口当たりとはどういう意味ですか。

 宗羽 口とは投信の取引単位のことで、1口は個別株式の1株に相当します。株式に株価があるように投信にも1口当たりの価格があり、これを通常は1万口当たりに換算したのが基準価格です。フィデリティ・USリートBの基準価格はこのところ4700円前後ですから、大まかに言えば4700円の投資元本に対して年間840円の分配金が出るということです。

 岡根 えっ? 分配金を減らしても年利回りが18%近くありますよ。宗羽さん、なぜもっと早く教えてくれなかったんですか!

  岡根さん、それは大きな誤解です。

 宗羽 よく注意して聞いてください。先ほど毎月分配型ファンドは「運用収益など」から分配金を出すと説明しましたよね。実はこの「など」には投資元本が含まれるのです。フィデリティ・USリートBに限らず、分配金のかなりの部分を投資元本の取り崩しで払っているファンドが少なくないのです。

 岡根 そうだったのですか。話がうますぎる気がしました。

 宗羽 そもそも米国REITの配当利回りは年4%くらいです。もちろんファンドが保有していたREITの価格が上昇したり為替が円安になったりすればその分だけ運用収益が増えることがありますが、安定して年20%もの利回りを出すのは至難の業です。元本を取り崩せば分配金は出せるし、利益ではないので課税もされません。しかし元本を取り崩した分だけ純資産が減るので、純資産を口数で割った基準価格は下がります。投資家に実質的なメリットはありません。

  ファンドの運用報告書には分配金の原資が「収益」と「収益以外」に分けて記載されているので、よく確認することが大切ですね。金融庁も運用成績が振るわなくても元本を取り崩して分配金を払う慣行を問題視しています。

 岡根 どうして毎月分配型ファンドはこれまで人気だったのですか。

 宗羽 高齢者には現役時代に蓄えたお金を運用しつつ、定期的に取り崩して使いたいというニーズがあります。給料のように毎月安定した入金がほしいという心理も働きます。これに応えて一世を風靡したファンドが「グローバル・ソブリン・オープン」です。1997年に新規設定され、一時は純資産が約5兆7000億円に達しました。

 岡根 「グロソブ」という名称は聞いたことがあります。ランキング表をみると純資産は約6600億円まで減っていますね。

 宗羽 グロソブは先進国の国債など信用力の高い債券に投資するファンドですが、08年のリーマン・ショック以降、世界的な金融緩和で運用収益が上げにくくなり、分配金を大きく減らさざるを得なくなったのです。これに代わって国債より信用力が低い分だけ高収益が期待できる海外REITなどを投資対象とする毎月分配型ファンドが人気を集めるようになりました。ただ足元で海外REITの運用は苦戦しています。主な運用先の米国で長期金利が上昇し、REITの借り入れコストが増大するとの懸念があります。

  為替やデリバティブの取引を組み合わせる投信もありますね。

 宗羽 例えば米ドル建ての米国REITに投資しつつ、さらに為替取引によって新興国通貨の高金利を狙う「通貨選択型」があります。このほか「カバード・コール」というデリバティブ取引で収益を上積みする手法も広がり、これらを組み合わせた「3階建て」のファンドまで設定されています。ただし投資を検討するなら、こうした取引のリスクをよく理解することが必要です。

■毎月分配は長期に不向き
 イデア・ファンド・コンサルティング社長 吉井崇裕さん
 毎月分配型の投信は長期投資に向いていません。投資元本を取り崩して分配金の原資にしている場合は元本が毎月小さくなり、複利効果が働かないからです。運用収益を原資にしている場合でも、その都度課税されるのがデメリットです。投信の月次報告書には投資対象の利回りが載っています。例えば米国REITは現在、年率4%ほどです。これを大きく上回る分配金を出すファンドは常識的に考えて長続きしにくく、分配金もいずれ下げざるを得なくなる可能性があります。
 高齢者を中心にお金を運用しながら取り崩して生活費に充てるニーズがあるのは事実です。生活費のための取り崩しが必要なら、毎月決算型ではなく年1回決算のファンドを選び、自分の判断で少しずつ定期的に解約して換金することを勧めます。(聞き手は表悟志)

[日本経済新聞朝刊2017年1月7日付]

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