ロス五輪招致への影響危惧 トランプ次期大統領の言動マセソン美季さんのパラフレーズ

2017/1/12

マセソンさんのパラフレーズ

マセソン美季さん
マセソン美季さん

今月20日にドナルド・トランプ氏の米大統領就任式がある。トランプ氏はテレビのリアリティー番組のホストを務めていた。人気俳優がたくさん出演したシーズンもあり、普段は全く政治に興味を示さない人たちにも、出馬する前から顔も名前も独特なキャラクターも知られていた。

だがイスラム教徒などへの問題発言を繰り返し、それが報道される頻度が増え、米国内では人種差別行為が広がった。私が住むカナダにも影響は飛び火し、子どもが通う学校から、「本校では人種差別や人権を無視するような発言や行為は一切認めず、厳重に対処します」という異例の文書がメールで配信されたこともある。

大統領選当日、トランプ氏優勢というニュースが流れると、カナダ移民局のウェブサイトがパンクしたという。反トランプ派の人が隣国への移住を考えた結果といわれている。

ただ、大統領選で投票しなかった人は実に半数近くいた。カナダで現トルドー政権誕生時の総選挙では投票率が約7割だったため、「結果に文句を言うなら、まず投票に行くべきだった」という意見がカナダでは大勢。投票にも行かずに結果を嘆き、移住を考える米国人の受け入れには否定的である。

トランプ氏の勝利スピーチから1週間後、カタールのドーハで各国オリンピック委員会連合(ANOC)総会が行われ、2024年五輪招致を目指すパリ、ブダペスト、ロサンゼルスの招致委員会がプレゼンテーションをした。ロサンゼルスのプレゼンで陸上女子短距離選手のアリソン・フェリックスは、「米国の強みは多様性。私たちを疑わないでください」と強調した。トランプ氏の人権を軽視する発言が、招致にも影響することを危惧したコメントだ。

多様性を認め、誰もが個性や能力を発揮できるよう、公正な機会が与えられる場の象徴が、五輪とともに開催されるパラリンピックだ。9月には24年大会の開催地が決まるが、キャスチングボートを握っているのは投票する国際オリンピック委員会(IOC)委員ではなく、やはりトランプ次期大統領の今後の言動のような気がする。

ませそん・みき 1973年生まれ。大学1年時に交通事故で車いす生活に。98年長野パラリンピックのアイススレッジスピードレースで金メダル3個、銀メダル1個を獲得。カナダのアイススレッジホッケー選手と結婚し、カナダ在住。2016年1月から日本財団パラリンピックサポートセンター勤務。

[日本経済新聞2017年1月12日付朝刊]