暮れも押し詰まった昨年12月下旬。午前8時、埼玉県三郷市の団地に遺品整理業者、ワンステップサービス(埼玉県蓮田市)の作業員3人がトラックで到着した。向かったのは昨秋、79歳で亡くなった男性が1人で暮らしていた部屋だ。
作業を依頼したのは、男性の長女で蓮田市に住む山添由美子さん(51)。男性の部屋の広さは1DKだが、整理・処分が必要な遺品は2トントラック2.5台分ある。「離れて住む私と弟、妹で遺品整理をするのは難しい」とワンステップサービスに連絡。事前に入念な打ち合わせをし、この日の作業に立ち会った。
作業員は雑然とした室内に入り、まず合掌。その後、壁に注意書きを張り出す。現金・貴重品、大切な品、思い出の品、写真・アルバムなど、処分する前に必ず立ち会い者に確認する遺品のリストだ。
作業員は遺品を整理し、ポリ袋や段ボールなどにまとめる。多いのは紙類と衣料品。衣料品は押し入れなどから次から次へと出てくる。残すかどうかはそのつど確認。印鑑など貴重品を見逃さないのも大切だ。この日は新聞の山の間から紙幣と硬貨も見つかった。
作業は午後3時まで約7時間かかった。翌日も午前8時ごろから作業し、2日かけて無事終了。料金は約12万6千円だった。山添さんの父親が亡くなったのは12月16日。「賃貸なので家賃が発生する。早めに来てもらって助かった」と胸をなで下ろした。
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一人暮らしや老夫婦のみの高齢世帯の増加に伴い、遺品整理業の需要は伸びている。新たな参入業者も増えており、業界の推計で全国で1万を超すとみられている。ただ、良心的とはいえない業者もあり、トラブルも発生している。
各地の消費生活センターに寄せられた遺品整理に関する相談、苦情を見ると、最も多いのは料金をめぐるトラブル。「部屋の広さから5万円程度でやってもらえると聞いていたのに、40万円かかると吹っかけられた」(2016年10月、九州地方)、「解約をお願いしたら20%のキャンセル料が発生すると言われた」(16年3月、東海地方)などだ。
業界団体、遺品整理士認定協会(北海道千歳市)の小根英人副理事長によると、高額請求のほか、廃棄物の不法投棄、遺族の了解なしの遺品売却、作業した部屋の損傷などのトラブルがあるという。
業者選びでどんな点に気をつければいいのか。最も重要なのは見積書の確認だ。小根副理事長は「複数の社から見積もりを取って、内容や金額を比較してほしい。キャンセル料の発生する時期はあらかじめ確認しておくことが欠かせない」とアドバイスする。
「遺品整理一式いくら」という大ざっぱな見積もりは要注意。小根副理事長は「作業人数や時間、廃棄する家具類の分量などが具体的に書かれているかを見てほしい」と言う。作業量が増えたので割増料金がいるなどと「見積もり時の金額を変更することはない」(小根副理事長)。
作業員も「最低1人は女性がいるのが望ましい」(ワンステップサービスの藤川雅幸社長)。収納状況などは女性の方が正確につかみやすく、故人が女性の場合、男性には見られたくないものもあるからだ。
服装も確認しておきたい。作業員は制服着用が基本。立会者が作業員かどうか判別できるうえ、盗難トラブルも防げるためだ。
依頼した業者が、処分するための資格を持っているかもチェックしよう。家庭の廃棄物を回収・処分するには市区町村の一般廃棄物処理業の許可か委託が必要になる。書籍や骨董などを買い取ってもらうには、古物商の資格がいる。
作業には依頼者が立ち会うのが原則。遠方に住むなどの理由で立ち会えない場合も、必ず現場写真を撮ってもらうなど、作業が確実に実施されたかを確認しておこう。
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生前に部屋片付けも 不要物除き簡易清掃
遺品整理とともに最近増えているのは、高齢者宅などの片付けを生前にする福祉整理と呼ばれるサービスだ。遺品整理を手掛けるアールキューブ(東京・大田)は扱う室内整理の7割程度が福祉整理という。
出向くのは一人暮らしの高齢者宅が多いが、本人が依頼する例は少ない。「親族や近隣住民が異臭がするなどの異変に気づいて行政などに相談し、依頼につながるケースが多い」(同社)
同社が昨年9月に実施した東京都内で一人で暮らす男性の室内整理は、生活保護を受けている男性が一時入院していた病院から戻るための整理。テレビなど家電や家具は残して不要物を撤去し、簡易清掃をした。
都内の集合住宅で一人暮らしをする女性の例では、本人が整理を依頼。長期間住んでいるため、室内は新聞、チラシなど大量の紙と衣類で足の踏み場もない状態。約6時間かけて、仕分け、貴重品捜索、搬出、清掃を実施した。
一方で、福祉整理ならではの困難さも伴う。本人が認めない場合は処分できない。部屋から異臭がしたり、脱ぎ捨てた衣類やペットボトルでゴミ屋敷化したりしても、家の中に入れてもらえないケースがある。
(大橋正也)
[日本経済新聞夕刊2017年1月10日付]