ジャック・ウェルチ氏が説く つまらない仕事の除き方
ビジネスで勝ち残るための教え(1)
ジャック・ウェルチ氏といえば、希代のカリスマ経営者だ。1980~90年代にゼネラル・エレクトリック(GE)の最高経営責任者(CEO)としてその手腕を発揮し、その後もプライベート・エクイティ・ファンドのパートナーとして活躍するとともに精力的に講演活動を続けている。そんなウェルチ氏が妻のスージー氏と共著で刊行したビジネス指南書が『ジャック・ウェルチの「リアルライフMBA」』(日本経済新聞出版社)だ。ビジネスに勝ち残るための教えを13章にわたって書き込んだ本書の中から第1章を6回に分けて紹介しよう。
◇ ◇ ◇
数年前、ラスベガスに出かけた。ギャンブルではなく、6万人を超える会員が集まる国際ショッピング・センター協会でスピーチをするためだ。
スピーチは朝早い時間に予定されていたので、前夜にラスベガス入りした。何の予定もなかったので、おのぼりさんのようにショーを見ることにした。有名な歌手が来ていたので、そのショーに決めた。一人はワクワクしながら、もう一人は仕方なく……。
50人のオーケストラが演奏を始め、色とりどりの煙が機械から吐き出された。素晴らしいショーだった。ボリュームのあるヘアー、力強いバラード、天井からワイヤでぶら下げられながら歌うバックシンガー。次々と変わるコスチュームにも目を奪われた。
それなのに、1時間も経たないうちにジャックは居眠りを始めてしまった。
肩をたたいて起こすと、はっきりとこう言った。
「得点は?」
スポーツとビジネスを溺愛していることがバレバレだ。
この二つはとても似ている。ともに激しく、楽しさ満載だ。ハードで、動きが速い。戦略、チームワーク、微妙なニュアンス、意外性に満ち、絶えず相手と取り組む。
そしてスポーツでもビジネスでも、プレーヤーは勝とうとしてやっている。
ブランド・マネジャーがチームのメンバーと、大ヒット商品になりそうな製品をどうポジショニングするか頭を寄せ合う。大学時代の仲間3人が証券会社の職を見限って、地ビール製造を始める。新しいアプリケーションソフトを作る。工場長がある朝、製造工場の生産性を向上させる素晴らしいアイデアを思いつく。人事担当役員が6人の候補者と面接をして、3週間前に埋めておくべきだったポジションに完璧と思える人物をようやく見つける。
人は、毎日、一日中働く。会社と彼らの人生がよくなるようにと願って。彼らの家族、社員や同僚、顧客、そして地元のために働く。
そして働いていくなかで、人は生きる意義を見つける。もちろん、それがすべてではない。人生は広く豊かだ。仕事以外の世界も存在する。だが、仕事は、人生の目的の大きな部分を占める。
だからこそ、会社やチームが、音や動き、そして(ときには)怒りに囲まれて、何の意味もない職場から逃れられない状態は最悪だ。前向きな行動、成長、勝利につながるものは何もない。まともに試そうとすらしない。
それでは戦えない。楽しくない。それはビジネスではない。
それは単なるつまらない仕事だ。
しかしながら、そういったことはどこにでも見られる。2001年以来、世界中の何百万人という人と質疑応答の時間に話してきた。大企業でも中小企業でも、伝統ある会社でも新しい会社でも、重工業でもゲーム会社でも、小売業でも金融業でも、あらゆる会社で働く人たちと話してきた。聴衆は起業家、会社役員、MBA(経営学修士)の学生、個人事業主などさまざまだ。そういった会合で「みんなの考えを一つにするのが、どうしてこうも難しいのでしょう」といった質問をする人が必ずいる。多数の人が一つのチームとなって働いているとは思えず、それが結果に表れている状況について話す人がいる。証拠はもっと多くある。私たちの運営するビジネススクールで学ぶ学生は1000人近くいる。多くは30代から40代で立派な会社の管理職に就いている。彼らのうち3分の1くらいは、仕事で手詰まりな状態を経験したことがあると報告している。
なんてことだ。とはいえ、この問題には解決策がある、さらにいえば回避の手がある。 必要なのは一貫性をとること、そしてリーダーシップだ。
どちらも同じくらい重要だ。実際どちらか一方が欠ければ、もう一方もありえない。
本書を始めるにあたり、この2点を深く掘り下げて見ていくのがいちばんいいと思う。
つねに一貫性をとる
本書の読者にとって、一貫性をとることの重要性は目新しいものではないだろう。このコンセプトは経営の世界に古くからあり、経営の第一人者、教授、評論家、コンサルタントといった人たちから高く評価されてきた。
問題は、現実の世界ではあらゆる種類の会社が、絶え間なく一貫性をとろうとするが途中で挫折してしまう点だ。
いまいましい「やることリスト」に載った仕事が邪魔をするのだ。
仕事は最優先すべきもののように思ってしまうのもわかる。とくに今日のような難しい経済環境においてはそうだ。虫の居所の悪い顧客、コーチングを必要とする社員、盲点をついてきたライバル企業の新技術、企業広報に大きなダメージを与えたツイッターでの炎上。こういったことが日常の仕事で起こりうる。同じ日にいっぺんに起こることもある。
だが実際には、もしくだらない仕事から離れようと思ったら、「仕事」の前、最中、そして後に、一貫性をとらせなければならない。一貫性はつねに必要だし、「仕事」の一部でなければならない。
さて、いったい何の「一貫性」が重要なのだろう?
その答えは、ミッション、行動、結果である。
ミッションは、組織が目指すところをきっちりと指し示すものだ。どこに、なぜ行こうとしているのか。ミッションが成功したら、社員の一人ひとりの人生にどういう意味を持つのかを示すことも同じように重要だ。
行動は、ミッションを実現するための社員の考え方や感じ方、コミュニケーションの仕方を示すものだ。埃(ほこり)にまみれ、皮肉の対象にしかならない壁掛けの標語ではない。
結果は、仕組みを強化するもので、昇進やボーナスがそれだ。社員がどれだけミッションを理解して推進するか、どれだけ行動で示すかによって決められる昇進やボーナスのことだ。
こういったものは当たり前に聞こえるかもしれない。先ほど書いたように、目新しいことを取り上げているわけではない。いやまったく逆かもしれない。これもすでに言ったことだが、真に一貫性をとらせるということは滅多(めった)に見られない。
いずれにせよ、たしかに言えることが一つある。一貫性があれば、堂々巡りをすることはなくなる。進歩が見えてくる。つまらない仕事が消えてなくなる。
(斎藤聖美訳)