このレースは開成高校対筑波大学付属高校による定期競漕(きょうそう)大会だ。日本最古のボートレースの対校戦として知られる。「実は今、44勝44敗なんです。東大対一橋大学のボートレースよりも古く、戦争の一時期を除きますが、90年以上の歴史がある」と柳沢校長は話す。

開成の校章「ペンと剣」。明治19年(1886年)に開催した最初の運動会で、「ペンは剣に優れり」と揮毫(きごう)した大旗を校旗の代わりとしたことに由来する。

そして5月の「母の日」に開催されるのが開成名物の運動会だ。中1から高3まで、縦割りにして8組に分け、競い合う。応援団長や組責任者は、それぞれ大将や参謀タイプのリーダーが立候補し、選挙で選ばれる。競技や応援の練習は、それぞれの組の高3の生徒が下級生を指導する形で、種目は、騎馬戦や棒倒しなど激しい競技ばかり。

開成DNA 高3から中1へ伝承

ボートレースは集団での応援だが、運動会での特長は高3が中1を直接個人的に指導することだ。「先輩後輩の個人的なきずなが強まり、先輩のファンみたいになる子もいる。運動会にあんなに精を出していた先輩が東大に合格したら、じゃ自分もがんばればできる、そんな正の連鎖も生まれる」と柳沢校長は説く。高3から中1へ「開成DNA」が伝承されてゆく。

「やはり開成のバネは運動会です」。結婚情報サービス、IBJ社長の石坂茂氏(45)はこう話す。開成時代は柔道部主将、高3の時は運動会で8組のうち黄色組の応援団長も務めた。東大を経て日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行後、2000年に起業した。

「もちろん開成は進学校だし、スポーツの得意な人間ばかりではなく、いやいや運動会に参加している人もいます。しかし、そんな人間にも運動会では様々な役割がある。運動会をやるためみんなが人材だから、大事なんです。開成では意外なほどいじめが少ない」という。石坂氏は開成時代の後輩を参謀に据え、東証1部上場を果たした。「運動会にはチームのシンボルとして畳24畳の大きさの壁画を描く『画家』や応援歌の『作曲家』も必要です」。柳沢校長は運動会を通じて芸術分野など多様な人材が磨かれるという。

この運動会後に中間試験があり、試験直後にクラブの勧誘がスタートする。開成には同好会を含めると70余りのクラブがある。運動会で多くの先輩を知った新入生はクラブの実情もある程度分かっているので、選択しやすいのだ。

試験の結果が出る前に大半の生徒がクラブに入る。そして6月に生徒らが自主的に企画した学年旅行を実施、同級生との人間関係も深まる。「これで各新入生は自分の居場所ができるわけです。我々も一安心というわけです」(柳沢校長)

ボートレース、運動会を通じて先輩後輩の縦のきずなを深め、クラブで新入生の「居場所」をつくる。確かにこのやり方なら、孤立したり、「五月病」になっている隙もなさそうだ。入学後3カ月で新入生たちは開成生に生まれ変わる。このようにして日本トップの進学校の生徒としての基盤をつくるのだ。

(代慶達也)

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