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タワマン高層階、国外財産… 富裕層に課税強化

2017/1/1

 政府がこのほど閣議決定した2017年度税制改正大綱は、富裕層を中心に厳しい内容が目立つ。国外財産の相続・贈与課税を強化するほか、タワーマンション高層階の固定資産税を引き上げる。配偶者控除の見直しも高所得者層には逆風。富裕層の節税を封じる網が一段と狭まりつつある。

 「あと半年で5年超の条件を満たせるはずだった人はがっかりしている」。元仙台国税局長の川田剛氏はこう話す。今回の税制改正で国外財産が相続税や贈与税の対象外になる条件が厳しくなったからだ。富裕層などの間で「5年縛り」と呼ばれた規制が「10年縛り」に強化される。

 日本の相続税や贈与税は、財産が国内にあれば課税し、国外にあっても課税の範囲を広げてきた。しかし相続や贈与があった時点で、例えば親子がともに5年を超えて国外に住んでいれば、国外財産は課税対象から外れる。このため相続税や贈与税の制度がない香港、シンガポールなどに財産を移し、親子で住むことで節税を狙う富裕層が増えていた。

■親子で10年超条件

 それが17年4月から、親子とも海外に10年を超えて住んでいないと現地の財産にも日本の相続税や贈与税がかかるようになる。子どもに日本国籍がなくてもこのルールは適用される場合がある。一部の富裕層の課税逃れに批判が高まったことなどが背景だ。

 国内財産でも節税策封じが着々と進む。今回の改正で取り上げられたのがタワーマンションと呼ばれる高層マンションだ。マンションは土地よりも評価額が下げられる建物部分が財産価値の大部分を占める。タワーマンションでは高層階ほど眺望が良くなりやすいので、同じ床面積でも低層階に比べ取引価格が高い。しかし固定資産税は原則として同じだったため、節税商品として人気を集めていた。

 改正では20階建て以上のマンションの固定資産税を見直した。17年度以降に販売する物件が対象だ。中間の階の税額は現在と変わらないが高層階ほど高くし、低層階は引き下げる。具体的には1階上がるごとに約0.26%ずつ税額が高くなり、1階下がるごとに約0.26%ずつ安くなる。

 現時点で「物件の相続税評価額は見直しの対象になっていない」(税理士法人山田&パートナーズの小林大輔税理士)。このため節税へのけん制効果は限定的との見方はあるが「将来的には評価額も変える可能性がある」(辻・本郷税理士法人の鈴木淳税理士)との見方が根強い。

■土地の形状で評価

 「広大地」の評価方法も見直す。広大地とは例えば東京都では500平方メートル以上と周りの標準的な宅地に比べて著しく面積が広く、新たに戸建て住宅向けに開発することを想定した場合に道路を通す必要などがある土地を指す。「多くの地主が広大地を持っている」(川田氏)とされる。

 道路などは土地の評価額を大幅に減らす要因になる。また土地の形状にかかわらず、面積を基準に最大65%も減額できたので「優遇しすぎている」との批判があった。このため18年の相続から、土地の面積に加え形状などに応じて評価するようにする。「形が良い広大地は評価が上がる可能性が大きい」と税理士の藤曲武美氏は予想する。

 配偶者控除の見直しも見逃せない。現在は例えば妻の年収が103万円を超えると夫は配偶者控除が受けられなくなり、141万円を超えると配偶者特別控除もなくなる。これが18年から妻の年収が150万円までは38万円の配偶者控除または配偶者特別控除が受けられ、それを超えても201万円までは配偶者特別控除が受けられるようになる。対象の拡大で中流層を中心に新たに300万世帯が減税になるのはメリットだ。

 しかし財源を確保するため、世帯主の年収が1120万円を超える世帯への適用は制限する。例えば夫の年収が1120万円を超えると38万円の控除額が減り、1220万円を超えれば控除がなくなる。段階的に縮小する仕組みで収入が急減しないよう配慮しているが、100万世帯が増税になるとみられている。

 こうした改正の多くは税務当局の要望で実現した。1990年前後のバブル末期にも同様の「節税封じ」があった。当時は地価が全国的に上昇する中、土地の評価額が低く据え置かれる仕組みだったため、借金をしてでも土地を買って相続税を節税しようとする富裕層が目立った。

 そのため88年末の税制改正で「相続開始前3年以内に買った土地は相続税評価額ではなく取得価額で評価する」との方針が出され、こうした節税策は終息に向かった。今回の税制改正は当時ほどの影響はなさそうだが「(タワーマンションの相続税評価額の見直しなど)さらに踏み込んだ節税封じ策を打ち出す前触れではないか」(平川会計パートナーズ代表社員の平川忠雄税理士)との見方は多い。(M&I編集長 後藤直久)

■税務署「お尋ね」、中流層も注意を
 今回の節税封じは富裕層が中心だが、中流層も安心はできない。昨年の相続増税で新たに課税対象になった人が多いとみられるからだ。「相続税の申告に対する税務調査や疑問点を税務署が文書で照会する『お尋ね』などが活発になりそうだ」とランドマーク税理士法人代表社員の清田幸弘税理士は話す。
 税務調査対象になりやすいのは親が子どもなどの銀行口座を借用して預金することで相続財産を減らす「名義預金」。自宅敷地の評価額を80%減らせる「小規模宅地の特例」の適用条件を満たしていないのに使っていたりすると、実地調査にならなくても「お尋ね」の対象になりやすい。

[日本経済新聞朝刊2016年12月28日付]

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