赤い横棒は総務省統計局労働力人口統計室のデータから算出したOECD加盟国中10カ国における有職者の睡眠時間の男女差を示している。有職女性の睡眠時間が男性よりも短いのはデータがある10カ国中日本のみであった。
ひと目でわかる国別の比較図
一般向けの講演では睡眠時間の男女差についても紹介することがあるが、当然ながら質疑応答の際にご婦人方の格好の餌食になる。
「身をもって経験してます!」
「夫に見せたいのでスライドのコピーをください」
「女性は睡眠時間が短くても大丈夫なんでしょうか」
「日々の生活がこれでは、男女共同参画社会なんて絵に描いた餅ですよね……」
「で、先生のご家庭では如何なんですか?」
などと、キツーいコメントや質問を受けてタジタジになることも。
もちろん、「男女差と言っても全体では5分くらいですよ」などと火に油を差すようなことは言わない。
「共働きの場合は男性が20分も長寝してる。女だって疲れてるのに!」
「全体でも有職者でも睡眠時間の男女差がほとんどないエストニアを見習うべき!」
など議論が過熱するだけなので。
ところで、「女性は睡眠時間が短くても大丈夫なんでしょうか」という質問があったが、実際、睡眠時間に体質的な男女差はあるのであろうか。必要睡眠時間に男女差があるのならば、グースカ寝ている男性も肩身の狭い思いをしなくてもよいのだが。
『眠くない寝不足「潜在的睡眠不足」の怖さ』でも紹介したが、個人の必要睡眠時間を正確に測定するのは大変手間がかかる。そのため、これまでの調査研究で報告されている性別、年代別の睡眠時間はほぼすべて出勤や家事など大なり小なり何らかの生活スケジュールの影響を受けた習慣的睡眠時間である。
それでも、数多くの調査結果を総合的に判断すると、必要睡眠時間に男女差があるとの証拠はない。「女性の方が寝不足に強い」などということはないのである、男性諸氏。したがって、先の「女性は睡眠時間が短くても大丈夫なんでしょうか」という質問には「そんなことはございません」、「女性も男性と同程度に睡眠時間は必要です」と神妙にお答えするようにしている。