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スタンフォード 最強の授業

トランプ氏の「成功」が象徴 米リーダー教育の限界スタンフォード大学経営大学院 フェファー教授に聞く(3)

2017/1/3

スタンフォード 最強の授業

世界でもトップクラスの教授陣を誇るビジネススクールの米スタンフォード大学経営大学院。この連載では、その教授たちが今何を考え、どんな教育を実践しているのか、インタビューシリーズでお届けする。今回は異端の名物教授、ジェフリー・フェファー教授の3回目だ。

ペンシルベニア大学ウォートン校を卒業したドナルド・トランプ氏は、学校で教えていることとは反対のことを実践して現在の地位を築いたという。リーダーシップ研修やセミナーが無駄だというなら、私たち日本人は、どのようにリーダーシップを身につけていけばよいのだろう。フェファー教授に聞いた。(聞き手は作家・コンサルタントの佐藤智恵氏)

スタンフォード大学経営大学院 ジェフリー・フェファー教授

権力の学び 出世には不可欠

佐藤:フェファー教授は、スタンフォードで長年「権力への道」という看板授業を教えていますが、この授業を開講した目的は何でしたか。

フェファー:学生たちが卒業後、組織の中で生存し、繁栄し、効率よく出世していくために、「権力」について学ぶのは不可欠だと思ったからです。スタンフォードにはそれまで「権力」について教える授業がありませんでした。

佐藤:この授業は他のMBA(経営学修士)プログラムの授業にくらべて、非常にユニークであるがゆえに、評価については賛否両論があるそうですね。スタンフォードの卒業生に聞いても、素晴らしい授業だったという人もいれば、共感できなかったという人もいました。このような授業がなぜ長年続いていると思いますか。

フェファー:このようなことを教えている教員は私以外にいないからです。世界でも唯一無二の授業でしょう。しかも事実とデータに基づき、現実の世界ですぐに役立つことを教えています。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

佐藤:一般的なリーダーシップの授業はデータに基づいていないのでしょうか?

フェファー:リーダーシップの授業は、「こんなすてきなリーダーがいる世界だったらいいな」という希望的観測を前提にしていることが多いのです。教員は「良いリーダーになるためにやるべきこと」を教えていますが、残念ながら、それらは実際に成功しているリーダーが実践していることではないのですよ。

佐藤:実際にはどんなことを実践しているのでしょうか。

フェファー:リーダーシップの授業で習うこととまったく反対のことをやっています。ドナルド・トランプ氏を見てください。彼がやっていることは常識外れのことばかりです。彼はペンシルベニア大学でビジネスを学んでいますが、学校で習ったこととは反対のことを実践して、今の地位を築きました。

同僚に嫉妬されたスタンフォード卒業生

佐藤:スタンフォードの学生は、卒業後、厳しい現実に直面することはあるのですか。

フェファー:もちろんあります。解雇されたり、降格されたり、同僚に裏をかかれて出世の邪魔をされたりするのは日常茶飯事です。

佐藤:卒業後、困って、フェファー教授のもとに相談にくる学生もいるとうかがいました。

フェファー:多くの学生が様々な相談をしにきますが、どれも気のめいる内容ばかりです。でも私は授業で教えたことを、再度繰り返すのみです。とにかく私が教えた現実的な方法を実践しなさいと。

佐藤:フェファー教授の授業を受けたにもかかわらず、失敗してしまうのはなぜですか。

フェファー:私が授業で言っていることを他人事のように聞いていたからです。まさか自分にこんなひどいことが起こるなんて、思いもよらなかったということでしょう。

佐藤:たとえばどのような相談をされましたか?

フェファー:シリコンバレーの会社で、マーケティング部門のシニア・マネジャーとして活躍していた女性の話をしましょう。彼女は会社に400万ドル(約4億円)の利益をもたらし、最年少で部門長に就任しました。アジア系の彼女は、とても人あたりがよく、物静かで、声高に自分の意見を主張するタイプではありませんでした。

彼女が昇進すると、彼女の出世を邪魔しようとする男性社員が現れました。彼女と同格のポジションにいた男性社員です。彼は上司に「彼女の部門は私の部門の傘下にすべきだ」と進言しました。乗っ取りの目的は、優秀な彼女の手柄を全部自分のものにするためです。それを知った彼女は、何とかして阻止しようと、彼と話し合うことにしました。なぜなら「友好的な話し合いで解決せよ」とリーダーシップの授業で習ったからだそうです。それに彼女はアジア人ですから争いはできるだけ避けたいと思っていました。ところが話し合いでは全くうまくいきませんでした。

佐藤:そこでどんなアドバイスをしたのですか。

フェファー:自分自身のために立ち上がり、彼ではなく上司と話をしなさいと言いました。あなたは頭がよくて、分析能力が極めて優れていて、同僚の中では稼ぎ頭であることをはっきり言いなさい。そうしないとまた同じようなことが起こりますよと。そうならないようにするにはどうしたらいいか、考えて行動しなさいと。彼女は私のアドバイスどおりに行動し、困難な状況を乗り切りました。組織で働いている人はあまりにも受け身すぎるというのが私の印象です。

言い争いと失敗は避けられない

佐藤:「権力への道」の授業では、意見が衝突したときにどうするかについて学ぶ回があります。リーダーとして成功するには、数々の修羅場を乗り切らなくてはならないですが、私たち日本人はできる限り、言い争いや衝突は避けたいと考えてしまいます。感情的なしこりが残り、その後、修復するのが難しくなってしまうからです。

フェファー:私のアドバイスは「意見が衝突したとしても、個人的な攻撃だととらえるな」です。人から反論されたとしても、気にすることは全くありません。そんなのは感情の無駄遣いです。あなたと私の意見が違っているなんて人生では当たり前のこと。この人は違う考えを持っているんだ、で終わりです。

佐藤:人と言い争いをするのは有益だと思いますか?

フェファー:有益だとか無益だとかで判断すべきものではありません。意見の相違は当たり前に存在していることであり、息をするのと同じぐらい自然なことです。会社で誰かと言い争いをして、陰口をたたかれたからといって、気にすることはありません。あなたの評価には全く影響ありません。

佐藤:うまく感情をコントロールするにはどうしたらいいですか。

フェファー:ただ実践あるのみです。そのような修羅場を数多く体験することです。そうすれば、どんどんうまく乗り切れるようになります。

佐藤:私たちは仕事で失敗したとき、ものすごく落ち込んでしまいますが、数多く体験すれば、うまく乗り切れるようになるのでしょうか。

フェファー:それも同じです。ここでも私のアドバイスは、「個人的な失敗ととらえるな」です。仕事上の失敗は、あなたのせいでもありません。失敗はあなたの上司の責任でもあるし、会社の責任でもあります。仮に解雇されたとしても、昇進が遅れたとしても、「自分の能力が足りなかったからだ」などと自分を責めないでください。あなたの人生が失敗したわけではないのです。ただそういう結果になってしまっただけです。そういう運命だったと思って、もう一度挑戦すればいいのです。

佐藤:もし運命だとしたら、失敗しないように努力しても失敗は避けられませんね。

フェファー:失敗を事前にコントロールすることはできませんが、失敗したときにどう行動するかというのはあなた次第です。そこですぐに立ち直って、挑戦することはできるでしょう。

日本企業、研修より経験重視せよ

佐藤:日本企業がグローバルリーダーを育成していくには、どうしたらいいでしょうか。

フェファー:日本企業は、もっと社員にリーダーシップ経験を積ませるべきだと思います。「リーダーシップ研修」ではなく、実際のビジネスでリーダー経験をしてもらうのです。それこそが最も効率的なリーダーの育成方法です。現実的なリーダーシップとは「自分らしさ」を捨てることであり、時にはうそをつくことであり、時には自信過剰になることなのです。それを現場で学んでください。

佐藤:日本企業では、「良い行いをしていれば必ず誰か上の人が見てくれていて、正しく評価される」と信じている人は多いですし、私もそのように教えられました。今の上司はひどいけれど、経営陣はきっと正しく評価していてくれるはずだと。

フェファー:あなたが幸運だったら、そういう可能性もなきにしもあらずですが、残念ながら、実際には、「誰も見ていない場合」のほうが多いのですよ。だから、自分からアピールしないとだめなのです。

世界中の企業を研究していていつも思うのですが、非効率的な組織があまりにも多すぎます。効率よく成果をあげようとすれば、権力を使う方法を学ばなければなりません。リーダーは、もっと権力について真剣に考え、戦略的になってほしいと思います。

=この項おわり

◇   ◇   ◇

※フェファー教授の略歴はシリーズの1回目「激化するグローバル出世競争 日本人は敗者になる?」をご参照ください。

前回掲載「将来肩たたきされないために 今あなたができること 」では、キャリアの危機を回避するための方法を聞きました。

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著者 : ジェフリー・フェファー
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