2017/1/1

スタンフォード 最強の授業

佐藤:アジア人向けエグゼクティブ講座には、日本人も参加していると聞きました。日本人エグゼクティブが特に犯しがちな間違いはありますか。

フェファー:「出る杭(くい)は打たれる」を信じていることでしょうね。欧米のグローバル企業で、このことわざどおりやっていたら、必ず失敗します。文化の違いを尊重しなくていいと言っているのではありませんよ。私が言いたいのは、成功するためには他の人との違いや自らの能力を積極的にアピールする必要があるということです。そうしなければ、誰の目にもとまらず、組織の中で重用されません。

授業で私が言いたいことはただ1つ。皆さんが自分をアピールしないと、誰からも注目されず、永遠に出世することはありませんよということです。

たとえば、(ソニー創業者の一人)盛田昭夫氏や(ホンダ創業者の)本田宗一郎氏は、日本だけではなく、世界が認める偉大なるリーダーです。彼らはいわゆる「日本式リーダーシップモデル」で成功したわけではありません。「出る杭は打たれる」とは正反対のことを実行したからこそ、成功したのです。

佐藤:盛田氏や本田氏は、生まれも育ちも日本です。なぜ彼らはアメリカ、そして世界で認められるリーダーとなったのでしょうか。

フェファー:彼らは世界を変えたいという情熱やエネルギーにあふれていました。リスクをとって、これまでの常識を覆すようなことをやることをいとわなかった。だからこそ世界から「すごい」と認められたのです。

佐藤:残念ながら、現代の日本企業では、目立ちすぎると出世しないと言われています。マスコミにもてはやされるような人や、ハーバードやスタンフォードの経営学修士(MBA)取得者は、出世の過程で足をひっぱられ、社長になりにくいというのを大手企業の経営幹部から聞いたことがあります。

フェファー:私はそうは思いません。たとえば佐藤さんだって、日本人女性リーダーとして活躍するために、いろいろな努力をされてきたでしょう。それは全部、経験で学んできたことを実行した結果ですよね。それを私は授業で強調しているのです。

日本人の美徳は社員の心を動かす

佐藤:著書では、東京電力が原発事故後に賃金カットを行った際、地位の高い社員ほど減給率が高かったことを「まれな事例」として紹介しています。アメリカ企業においては「地位の高い人間はその権力を使って自分の雇用や報酬や特権を守ろうとするのが普通」、とのことですが、私たち日本人にとって、地位の高い人間が責任をとるのは当然のことです。このような日本人の美徳は守っていくべきでしょうか。

フェファー:それは日本人の素晴らしい美徳だと私は思います。アメリカ企業では、一般社員をできるだけ安く働かせて、経営陣がもうけるというのが定石です。経営陣の報酬をカットする、しかも一般社員よりも多くカットする、というのは、世界的に見れば、本当に稀有(けう)な例ですね。

佐藤:日本では、高潔なリーダーであることを示すために、自らの給与をカットするというのはよくあることです。たとえば、東京都の小池百合子知事が就任後、最初にやったことの1つが、自らの給与カットでした。

フェファー:そんなこと、欧米ではめったにありません。

佐藤:なぜ日本人はこの美徳を大切にすべきだと思いますか?

フェファー:そのような行為は、社員の心を動かすからです。「私たちは一丸となって、この苦難を乗り切っていきましょう。そのために私たち経営陣が最も大きな犠牲を払います」というのは、とても心に響くメッセージです。「会社の業績が傾いたのは私の責任ではありません。私はこの会社を去りますが、約束通りの報酬をもらいます」というのとは大違いです。こうした美徳を、日本人の皆さんは大切にすべきだと私は思います。

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悪いヤツほど出世する

著者 : ジェフリー・フェファー
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,944円 (税込み)