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世界でもトップクラスの教授陣を誇るビジネススクールの米スタンフォード大学経営大学院。この連載では、その教授たちが今何を考え、どんな教育を実践しているのか、インタビューシリーズでお届けする。今回は心理学からマーケティングを考えるジェニファー・アーカー教授の4回目だ。

恵まれない人々を支援したい、という気持ちは誰にでもあるだろう。駅前の募金活動は気になるものの、いつも通り過ぎてしまい、結局「24時間テレビ」やテレビ局に寄付してしまう――こういう人は多いのではないだろうか。成功する募金キャンペーンや寄付活動は、どれも「ドラゴンフライ(=トンボ)エフェクト」というフレームワークを使っているのだとアーカー教授は言う。私たちの貢献心を刺激する「ドラゴンフライエフェクト」とは?(聞き手は作家・コンサルタントの佐藤智恵氏)

アーカー教授と夫アンディ・スミス氏の共著「ドラゴンフライエフェクト」

アーカー教授と夫アンディ・スミス氏の共著「ドラゴンフライエフェクト」

小さな行動の積み重ねで大きな社会的変化

佐藤:著書「ドラゴンフライ エフェクト ソーシャルメディアで世界を変える」には、小さな行動の積み重ねが大きな社会的変化を生み出した事例がたくさん紹介されています。ビジネス書ではありますが、読み物としても大変面白いと思いました。

アーカー:ある会社の役員は、「『ドラゴンフライ エフェクト』は私がこれまで読んできたビジネス書の中で最も心に響く本だった」と言ってくれましたが、他にもこうした感想が数多く寄せられており、大変光栄に思っています。

佐藤:なぜこの本を書こうと思ったのですか。

アーカー:そもそも、私が夫(アンディ・スミス氏)とともに本を書いたのは、きわめて個人的な理由からでした。私たちは、ずっと「2人で協力して何か社会にインパクトを与えるようなことがしたい」と考えていました。私たちには3人の子どもがいますが、子どもたちに「あなたたちが行動すれば世界をよりよい方向に変えられるのですよ」ということを親として示したいと思っていました。そんなときに、たまたま本に書きたいと思うストーリーにめぐりあったのです。

佐藤:それが、白血病で苦しむ友人を救うために立ち上がった人々の物語ですね。あらためてどんな話か、ご説明いただけますか。

アーカー:私の授業を履修していたロバート・チャトワニ氏から、こんな話を聞きました。

 私の親友、サミール・バティア氏が白血病と診断された。骨髄移植をしなければ命が助からない状況だったが、適合するドナー(提供者)が見つからない。そこで、2007年の春、私は友人らとともにソーシャルメディアを駆使して、骨髄ドナー登録キャンペーンを始めた。キャンペーンを始めると、同じように南アジア人のドナーを探している人がいることを知った。ビナイ・チャクラバティ氏だ。そこで、チームサミールとチームビナイは共同で登録キャンペーンを展開することにした。その結果は、驚くべきものだった。11週間で2万5000人もの人々がドナー登録し、その中からサミールとビナイに適合する骨髄ドナーが見つかったのだ。
スタンフォード大学経営大学院 ジェニファー・アーカー教授

スタンフォード大学経営大学院 ジェニファー・アーカー教授

佐藤:なぜこの話を最初に紹介したのでしょうか。

アーカー:ソーシャルテクノロジー、ソーシャルネットワーク、そしてストーリーを使えば、いかに多くの人々を動かすことができるのかを伝えるのに、最もふさわしい物語だったからです。しかもこの事例は、お金がなくても、たった1人でも、世界を変えられる、ということを如実に示しています。だから感動的なのです。

この話は、ビジネスに関係する話ではありませんが、ロバートと友人らがやったことは、あらゆるビジネスに応用できると思いました。企業で働く人々が、世の中に役立ちたいと思えば、同じようなフレームワークを使えばよいのです。また、これは私たちの子どもたちにも伝えたい物語だと思いました。夏休みに自分でつくったレモネードを売るといった小さなビジネスを始めることでもいい。何かを始めれば、世界を変えられるのだということを知ってほしかったのです。

焦点を絞る、注意を引く、魅了する、行動を起こさせる

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

佐藤:アーカー教授は、ソーシャルメディアで世界に大きな影響をもたらすためには、「ドラゴンフライエフェクト」が必要だと説いています。「ドラゴンフライエフェクト」とは具体的にどのようなフレームワークですか?

アーカー:ドラゴンフライには4つの羽がありますが、次の4つの羽の動きがぴったりそろうとき、世界に大きな変化を起こすことができます。それがドラゴンフライエフェクトです。

・第1の羽 焦点を絞る:具体的で、検証可能で、明確な目標を立てる。

・第2の羽 注意を引く:おびただしい数の情報の中で、ひときわ目立つ工夫をする。

・第3の羽 魅了する:これは自分にも関係することだと共感してもらう。

・第4の羽 行動を起こさせる:人々を啓発して、運動を発展させる。

佐藤:焦点を絞る、注意を引く、魅了する、行動を起こさせる、の4つのプロセスを具体的に説明していただけますか。

アーカー:先ほどのドナー登録キャンペーンの話で説明しましょう。

・第1の羽 焦点を絞る:彼らは明確なゴールを定めました。目標は2万人の南アジア人にドナー登録してもらい、そこから適合ドナーをみつけることでした。

・第2の羽 注意を引く:彼らは白血病に苦しむサミールとビナイのために、ターゲットとなる人々に啓発的なメールを送信し、専用サイト(HelpSameer.org、HelpVinay.org)を立ち上げ、そこでドナー登録に必要な情報だけではなく、彼らのストーリーや最新映像を公開していきました。

・第3の羽 魅了する:専用サイトでは、誰でも参加できるプラットフォームを提供しました。このキャンペーンに賛同してくださったら今すぐ行動してください、2万人の一員になってくださいと訴えかけていきました。

・第4の羽 行動を起こさせる:多くの人々が、私もこのキャンペーンの一員なのだ、この価値あるストーリーに参加しているんだという気持ちになり、ドナー登録を決断しました。

社会的意義あること、社員の幸せに

佐藤:「ドラゴンフライエフェクト」は、慈善活動だけではなく、企業の経営戦略にも取り入れられていると聞きましたが、その理由は何でしょうか。

アーカー:企業が社員にミッションを伝える機会が増えているからです。人はどんなときに幸せに感じるのでしょうか。それは、自分は社会的に意義のあることをしていると実感するときです。だからこそミッションを効果的に伝えることが大切なのです。この本では、何が人を動かすのかを行動心理学の観点から分析していますが、今、多くのグローバル企業が、「ドラゴンフライエフェクト」に注目しています。このフレームワークは、NPOから企業へと広がってきているのです。

※アーカー教授の略歴はシリーズの1回目「あなたの伝える力を飛躍的に向上させるストーリー戦略」をご参照ください。

ドラゴンフライ エフェクト ソーシャルメディアで世界を変える

著者 : ジェニファー・アーカー, アンディ・スミス
出版 : 翔泳社
価格 : 2,160円 (税込み)

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