日本人の半分が投資や金融に対して積極的に“無知”であろうとしていることを皆さんはご存じですか。金融庁が9月に出した「金融レポート」で次のようなアンケートを実施していました。
金融・投資知識の習得に関する問いで、投資教育を受けた経験が「ある」と答えた人は全体の3割にとどまりました。残りの7割の人は「なし」としており、これらのうち7割の人が「金融や投資に関する知識を身に付けたいと思わない」と回答しているのです。
投資教育に「積極的に無知」
すなわち、7割の7割、約50%の人が金融や投資に関する教育を受けたことがないし、今後も教育を受けたくないと思っているということです。これは金融知識に対して、「積極的に無知であろう」としているということです。
この背景には日本人の投資嫌いの根深い精神があるように思います。金融の知識を持つことは人として良くないという考え方です。アンケート結果を見て、金融庁の幹部が相当ショックを受けていました。「自分たちは正しいことをしていたのだろうか。このように投資嫌いの日本人をつくったのは自分たちにも責任があるのではないか」と。
投資の意味についてはこのコラムでも何回も取り上げました。私たちは投資に囲まれて生きています。私たちが住んでいる家、ビル、いま着ている服、下着。通勤で使う駅や電車。いま見ているスマートフォンやコンピューター。すべては誰かがリスクを取って投資をしたおかげでその商品やサービスが手に入れられるのです。
ほぼすべてのものが誰かが投資をしたおかげで存在しています。少なくとも人工物のほとんどはそうです。とても当たり前のことなのですが、忘れがちなことです。株式投資も投資の一つですが、株式投資というと多くの人が株式市場で売買を重ねるという側面だけを連想してしまい、ギャンブル性を嫌悪しているように思います。改めていいますが、株式投資というのは投資の一つの側面でしかなく、投資の素晴らしさというのはもう少し大きな視点で考えなければいけません。
投資が世の中を動かしているということを教えるのが「金融教育」の柱であるべきです。金融の知識がない人は健全だという考えが根強いと、金融詐欺にもひっかかりやすくなります。中には合法だが詐欺のような商品もあり、自分の資産を減らしてしまうことになりかねません。
さらに金融の知識がないと現金を必要以上に重要視してしまいます。最近の記事によると、市中に流通している現金は100兆円以上あるそうです。マイナス金利やマイナンバー制度に対する過度な恐れが国民の現金志向を強め、いわゆるタンス預金に走らせているのかもしれません。
大友克洋さんの有名な漫画「AKIRA」の中にこのようなシーンがあります。東京が破壊されて廃墟になったとき、ひとりの老婆が大量の缶詰を秘密の部屋に隠し、誰にも渡すまいと抱えたまま飢え死にするという場面です。ある意味、必要以上にためたタンス預金はそのような老婆の姿を彷彿(ほうふつ)させます。
じゃんじゃん株式投資をしろというのも暴論ですが、一方でお金をためこむのも問題です。そういうお金が消費にも投資にも回らなければ、経済は停滞してしまいます。
「積立NISA」に大きな期待
金融庁はこれに対するひとつの秘策として少額投資非課税制度(NISA)の積み立て版「積立NISA」という制度を創設しました。実施は2018年1月からなのであと1年近くありますが、これはなかなかすごい制度です。毎年40万円まで20年間、投資のもうけに対して課税されないという制度です。
もちろんこの制度は創設しただけでは絵に描いた餅で、きちんと利用されないと意味がありません。この制度は20年間という長期間にわたり投資を促進するというところと、積み立ての商品であるというところに意味があります。まだ金融資産を十分に保有していない若い世代にはうってつけの制度です。
50%の人が金融に対して「積極的無知」であろうとしている日本の社会において、短期的に投資教育を成功させることは難しいでしょう。しかし、今まで金融庁をはじめ大手の金融機関も含めて、積極的に金融知識を国民に広めるようにしてきたかというと、一部で努力をしていた人たちや組織はあったでしょうが、実際にはほとんどやっていなかったに等しいのではないでしょうか。
幸いにも個人型の確定拠出年金制度(DC)に、積立NISAという新しい制度が加わったことで、長期投資を促進する非常にすぐれた制度が整ってきました。これをチャンスに、粘り強く官民一体で投資教育を進めていくことが投資嫌いの日本の変革の一歩につながると私は確信しています。