東南アジアで163の新種 虹色ヘビにトゲトゲトカゲ

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

タイ北東部に生息する「Tylototriton anguliceps」。通称クリンゴン・イモリ。頭部の形が特徴的で、スター・トレックに登場するクリンゴン人に似ていることからその名が付いた。(PHOTOGRAPH BY PORRAWEE POMCHOTE)

虹色スネーク、トゲトゲトカゲ、クリンゴン・イモリ。WWF(世界自然保護基金)は2016年12月19日、最新レポートを発表し、2015年だけで東南アジアのメコン川流域で163の生物が新種と判明したと報告した。

ラオス、カンボジア、タイ、ミャンマー、ベトナムの一部を通って流れるメコン川流域の山や森林では、地球上でも指折りの豊かな生物多様性が見られ、過去20年間で2500種近い新種が発見されている。

「新種は、あちこちでランダムに発見されるというものではありません。大半は、それまで調査が及んでいなかった場所です」と、米フロリダ自然史博物館のデビッド・ブラックバーン氏は言う。爬虫(はちゅう)両生類学を専門とする同氏は、WWFのレポートには関わっていない。

虹色に光る頭を持つヘビ「Parafimbrios lao」。ラオスの崖の上で発見された。WWFのスタッフは、そのキラキラと輝く頭を見て、デビッド・ボウイのアルバム「ジギー・スターダスト」のキャラクターを思い浮かべたそうだ。(PHOTOGRAPH BY ALEXANDRE TEYNIE)

多くの新種は体が小さく、見つけるのが難しいという。人がなかなか足を踏み入れることのできない山奥の、ごく狭い範囲だけに生息している種もいる。あるいは、別の種と混同されてしまっている可能性もある。

しかし、それらを発見して公式に分類することは、種保全の第一歩としてきわめて重要なことだと、ブラックバーン氏は指摘する。「世界には、未記載のままの種がまだ数多く存在しています。その中には絶滅の危機にさらされているものもありますが、データがなければ保護すべきものも保護できないでしょう」

彼らの存在を脅かしている原因のひとつに、この地域で進められている複数の大規模ダム建設などの開発がある。こうしたインフラは生態系を永久に変えてしまう恐れがある。だからこそ、どこにでもいる平凡な生物からかなりの変わり種まで、メコン川流域をすみかとするあらゆる動植物を理解しておく必要がある。そして今、その必要性はかつてないほど高まっている。

カンボジアとベトナムの固有種で、オレンジ色の眼をもち、体長はわずか2.5センチの小さなカエル「Leptolalax isos」。新種と同定されるまでに、10年近く費やされた。(PHOTOGRAPH BY JODI ROWLEY, AUSTRALIAN MUSEUM)
モフモフ頭のコウモリ「Murina kontumensis」が生息するのは、ベトナム中央の高原地帯。顔はあまりかわいいとは言えないが、地域の生態系を健全に維持するには欠かせない存在だ。(PHOTOGRAPH BY NGUYEN TRUONG SON)
青いまだら模様に鋭い目つきの洞窟ヤモリ。ラオスのカルスト山地や洞窟に潜んでいる。新種と同定するために高度なDNA分析が必要だった。(PHOTOGRAPH BY THOMAS CALAME)
背中のトゲトゲがいかにも恐ろしげなプーケット・ホーンド・ツリー・アガミッド(Acanthosaura phuketensis)は、昆虫をエサとし、人間には無害。タイのプーケット島で見つかった。(PHOTOGRAPH BY MONTRI SUMONTHA)

(文 Carrie Arnold、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2016年12月22日付]