冬の旅の楽しみは、スキーや雪見温泉など冬ならではの風物詩か、それとも暖かな部屋でおこもりグルメ。首都圏からのアクセスも良好な宮城蔵王エリアで1泊2日でもたっぷり楽しむちょっとディープな旅。モフモフの癒やしも待っています。
暖房完備の雪上車で行く樹氷めぐり
樹氷は山形県と宮城県にまたがる蔵王連峰などで見られる冬の風物詩です。アオモリトドマツの葉に、強い西風に乗った氷の粒が衝突してできたもので、アイスモンスターの別名があり、迫力満点の形はまさに氷雪のアート。最近は海外からの訪日客にも人気です。
そんな樹氷を手軽に見に行くことができます。宮城県蔵王町の「みやぎ蔵王すみかわスノーパーク」では、暖房付き客室を備えた乗用雪上車に乗り、広大な樹氷原にそびえ立つ樹氷を見る2時間のツアーが人気です。好天時は雪山の大パノラマをバックに樹氷原の散策が楽しめますし、悪天候時には樹氷を形成する氷点下10度のすさまじい猛吹雪を体験できます。
雪上車内は暖房完備ですが、散策・鑑賞中は寒さをしのぐための防寒具の用意を。ちなみに車内用ブランケットの貸し出しや携帯使い捨てカイロのプレゼント、コーヒーのサービスなどもあります。
アクセスは、仙台駅発の直行バス(1日1往復、予約制)、または遠刈田温泉から無料送迎バス(予約制)が出ています。仙台駅発バスは樹氷めぐりツアーとセットでの利用もできます。
創業600年、タイムトリップ感満載の美食と薬湯の宿
蔵王町に隣接する白石エリアにも見どころがたくさんあります。東京から東北新幹線「白石蔵王」駅まで約2時間。大河ドラマ「真田丸」にも縁の深い片倉小十郎ゆかりの「白石城」、愛らしいこけしが女性の間で人気上昇中の「弥次郎こけし村」などが集積しています。今回は国の登録有形文化財の宿「時音の宿 湯主一條」に泊まり、訪日客や女性に人気の「宮城蔵王キツネ村」を訪れました。
宮城県白石市にある奥羽の薬湯、鎌先温泉は古くから傷に効くとして東北の人たちに親しまれてきました。開湯は1428年と古く、あの伊達政宗も入湯した記録が残っています。「時音の宿 湯主 一條」は創業約600年、当主20代にわたる老舗旅館。各種ランキングの「泊まってよかった宿」で高い評価を得ている人気宿です。
現在の当主である一條一平さんが、先代の急逝を受けて後を継いだ2003年、一條は経営難に陥っていました。20代目の当主となった一平さんは東京でホテルマンをしていましたが、1999年に妻の千賀子さんと一條に戻ってきたのです。
一條家は代々、直系の長男が一條一平を襲名しています。急きょ、経営者となったものの経営は深刻な状態。当時、木造の本館は湯治客、別館は観光客と分けて受け入れをしていましたが、湯治客は減少を続けていました。
そこで一つのチャレンジとして思いついたのが、大正から昭和にかけて建てられた一部地下1階の木造4階建ての本館をおしゃれな個室料亭に仕立てて観光客に提供すること。アイデアを出したのは20代目女将となった千賀子さんでした。一條内部には当初、そんなことをしても人は来ないと否定的な意見もあったといいますが、これが評判となり、個室料亭を目当ての客が増えました。2008年には客室のある別館を全面リニューアルしました。2016年3月に本館は国の登録有形文化財の指定を受け、今や一條の最大の魅力となっています。
「時の橋」を渡って「森の晩餐」へ
白石蔵王駅から約9km、宿の送迎車で鎌先温泉の入り口に着くと黒塗りの車に乗り換え、一條の森へ上がっていきます。昔は石段だったという細い坂道を上がっていくと趣のある木造本館が見えてきます。チェックインはロビーラウンジでウェルカムドリンクのお茶とお茶菓子をいただきながら、まるでドラマのワンシーンのような優雅なひと時です。
一條のコンセプトは「タイムトリップ」、テーマは森。情緒ある温泉街の坂を登っていくとそこに一條の森があり、客はそこに迷い込んだ映画の主人公。客室のある別館と個室料亭がある本館を結ぶ渡り廊下は「時の橋」。千賀子さんは一條に戻ってきた頃から、そうしたアイデアをノートに書き留めてきたといいます。
一條には8つの客室タイプがありますが、共通するコンセプトは「エコ・ラグジュアリー」。ベーシックなモダン和洋室はとにかくリラックスして過ごせるよう随所に配慮があり、スマートフォン(スマホ)を見ることすら面倒になるほど、忙しい日常を忘れさせてくれます。
どのプランも食事はすべて専用の個室料亭で。時間になると係の人が客室まで迎えにきてくれます。それはまるで、古き良き日本へタイムスリップするような感覚。目にも鮮やかな料理や器、非日常の上質な時間に心が満たされます。
温泉は露天風呂付き大浴場、薬湯、貸し切り家族風呂の3種で、いずれも24時間入浴可能。合間に温泉街や一條の森の散策、ギャラリーでの買い物を楽しむのもよいでしょう。ロビーラウンジは、夜はバーに変わります。火曜日にはアイリッシュハープやバイオリンのコンサートを開催しています。
おひとり様のプランもあり、自分へのご褒美で利用してみるのもいいでしょう。
冬毛モフモフ!宮城蔵王キツネ村
湯主一條から約8kmのところに、外国人に人気の「宮城蔵王キツネ村」があります。園内には100匹以上のキツネが放し飼いにされており、間近に姿を見たり、エサをやったり、抱っこしたりできます。
キツネ村に行く前はネット上にいろいろな情報があふれていて、ワクワク感だけではなく多少の不安もありました。でも受付でキツネたちとの接し方などをきちんと説明してもらえるので、注意事項を守れば安心して過ごすことができます。園内ではスタッフさんがこまめに清掃や見回りをされており、売店やゆっくりできる休憩所もあります。
キツネ村の中は放し飼いエリアとケージエリアに分かれており、園内にはキタキツネや北極ギツネなど6種類のキツネのほか、ウサギやヤギ、ポニーもいます。キツネのエサ(100円)は受付で購入し、専用のエサ場で与えます。キツネたちはエサ場に人が入ってくると集まってきて、愛くるしい顔で見つめてきます。よく見ると一匹一匹、顔や性格も違います。あげたいと思う子に向かってエサを投げると軽快にぴょんと飛び上がってキャッチ。この季節、キツネたちは冬毛になり、モフモフでかわいいです。北極ギツネは夏の黒毛から真っ白な冬毛に変わります。
何よりの楽しみはやっぱりキツネの抱っこ。抱っこの時間やその日抱っこできるキツネは決まっており、別途申し込みをした上で専用のジャンパーを着て、抱き方などをスタッフさんに教えてもらいます。言われた通りにすればキツネはおとなしく抱っこさせてくれて、なでなでしても大丈夫。冬毛は想像以上にふかふかであったか。動物たちとの触れ合いの時間はこの上なく癒やされます。
キツネ村のスタッフさんは皆さん親切で、一人で行っても安心して楽しめます。樹氷と極上宿、そしてモフモフに癒やされに出かけてみませんか。
時音の宿 湯主一條 http://www.ichijoh.co.jp/index.html
宮城蔵王キツネ村 http://zao-fox-village.com/
合同会社フォーティR&C代表。経営コンサルタント。地域資源を生かした観光や地域ブランドづくり、地域活性化・まちづくりに関する講演、コンサルティング、調査研究などを行う。