シニアが涙する映画 戦争・復興に経験重ねる
日経BPヒット総合研究所 品田英雄
映画館でお年寄りが涙する光景を立て続けに見た。
1本は「この世界の片隅に」。太平洋戦争下の広島を舞台に、普通の女性の日常生活を描いたアニメ映画だ。クラウドファンディングで映画化されたことやミリタリーマニアが見ても感心する描写の正確さが話題になっているが、お年寄りの感想はもっと身近だ。
「配給が少なく毎日雑穀入りのおかゆを食べていた。盃(さかずき)一杯の煎り米だけで一食のこともあった」「爆音を聞いただけで米軍機の種類がわかった」など、当時の経験を思い出して涙が出たという。
公開規模は小さかったが、老人から子どもまで広がりを見せて、公開6週目も興行収入ランキング10位に入るロングランになっている。
もう1本は「海賊とよばれた男」。出光興産の創業者である出光佐三をモデルに、小さな油店がタンカーを所有するまでの大企業になっていく様子を描いている。
また1951年にイランが石油国有化宣言をした後に、出光が独自に石油を買い付けに行って国際問題になったことも出て来る(いわゆる日章丸事件)。
どれも事実だが、現代からすればこうした仕事の仕方は"ブラック"で、コンプライアンス的にダメでしょという意見もネットでは書かれている。
だが、戦争経験者や戦後の物不足を潜り抜けた人の感想はまったく異なる。「いい映画でした。あの頃を思い出しました。日本にはこれしかやり方はなかったんですよ」とお年寄りは話す。
「タンカーが戻ってきた感激は忘れられない。あれは日本のエネルギー問題の原点を示している」「こうやって日本の繁栄は作られたんです」と語る様子は誇らしげだ。映画で描かれていない部分が体験によって補われ、「自分たちの苦労が無駄ではなかった」と納得させる映画になっているのだ。
世代を超えて広がる映画と広がらない映画はあるが、この2本は忘れてはならないことを教えてくれる。
[日本経済新聞夕刊2016年12月24日付]
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