井山裕太王座&羽生善治王座 新春棋談、会心の譜
井山裕太王座 七冠の重圧が解け快勝 世界戦でも結果出したい
新年、あけましておめでとうございます。
昨年は、多くの方々に期待していただいた七大タイトル全冠制覇を達成し、忘れられない年になりました。一時六冠から四冠に後退し、もう無理かとも思いましたが、昨年春の十段戦挑戦者決定戦など奇跡的な逆転勝利もあって七冠にたどり着きました。何か、別の大きな力が働いていたような気がするほどです。
もちろん、自分でも大変うれしく、また、大きな話題になることで囲碁を知らない人に囲碁を知ってもらえる機会になったのはよかったです。
その後、七冠を守り続けたい気持ちはありましたが、やはりタイトルを取りにいくのに比べてモチベーションは下がります。本因坊、碁聖を防衛した後、少し対局間隔が空いてしまったこともあって名人戦七番勝負は出だし3連敗。最終局まで粘ったものの、最後はタイトルを奪われました。
名人戦で挽回しつつあったときに始まったのが王座戦五番勝負でした。敗色濃厚だったのを何とか拾った第1局に続き、第2局にも勝って、迎えた第3局。私の白番です。
黒1と右辺の白2子にプレッシャーをかけてきたのは力戦家の余正麒七段らしい選択です。こちらも白2と堂々と動き出し、白4のカケに黒5と背後から襲いかかったのが強手でした。内心、黒5と来られる予感はありましたが、もちろん、変化を読み切れるところではありません。
白6に黒Aと受けるのは白Bから黒1子をのみ込まれるので、黒7は当然の一着。続いて白11と素直につながるのでは気合が悪く、白8ツケからサバキに出ました。黒9からのデギリは当然で、白が分断された格好ですが、白12のあと、切り離された白3子が働いて黒Cからのデギリを防いでいるのが自慢です。
黒Dのワタリを防ぐために白14、黒15を交換し、白16と急所に先着して、はっきり白がペースをつかみました。このあと主導権を渡すことなく、122手という短手数での快勝譜となりました。
3局の中では最も内容が良かったと思います。七冠維持というプレッシャーから解放され、精神的にもいい状態で対局に臨めた気がします。
今年は、これまで日程的な問題でなかなか出られなかった世界戦に出る機会が増えそうです。関係者に配慮していただいた結果で、何とかこのチャンスを生かし、中国、韓国のトップ棋士たちと戦っていい結果を残したいと思っています。
3月には中韓の各代表と私、それにAI(人工知能)囲碁ソフトの4者が総当たりで戦う「ワールド碁チャンピオンシップ」が地元・大阪で開かれます。急激に力を付けているAIとの戦いは、ぜひ体感したいと思っていました。文字通り世界ナンバーワンをかけた戦いでもあり、わくわくしています。
羽生善治王座 望外の3連勝、通算24期 反省点を踏まえ上向きへ
あけましておめでとうございます。
昨年は振り返ると大変な一年で反省点も多い年でした。王将戦は挑戦者になったものの獲得はならず、名人戦ではタイトルを奪われました。自己最多の公式戦6連敗も記録。負けを引きずらないよう気持ちを切り替えて対局に臨んでいたつもりですが、厳しい状態が続きました。棋聖戦、王位戦はカド番をしのぎ、フルセットの末の防衛。カド番慣れしているのが幸いしたかもしれません。
王座戦は若手の糸谷哲郎八段が挑戦者でした。早見え早指しの上、独特の感覚の持ち主で、いまだにどういう読みをしているのか謎です。読みにない手を指されることが他の棋士と比べて圧倒的に多いように思います。
ここで紹介するのは、開幕局の第1局。後手の糸谷八段は得意の一手損角換わり戦法を選びました。私は棒銀で対抗。後手の24手目△6五歩が方針を決めた一手で、大胆で力強い手でした。
上の図は、糸谷八段が△3五歩と打った局面。▲2七銀と引くと△4六歩▲同歩△同飛▲4八歩△6六飛▲同金△同角で▲8一飛に△6一歩と歩で合駒されて、こちらがはっきり悪いです。▲2四歩も△同歩▲1六角△2三金▲3四角△同金▲2三銀△6六角▲同金△3三金で後手良し。
本譜はやむを得ず▲2六角と打ちました。銀損になるので、苦しいことにはかわりありません。ただ、△3六歩▲5三角成で馬ができ、思ったほど先手が悪くなかったようです。
下の図は終盤、▲3三歩に△同桂と取った局面。ここでは▲3四歩もあります。△7八銀成▲同飛で、以下▲3三歩成から勝てそうですが、詰む変化や詰まない変化があってハッキリしません。
実戦は▲4三銀としました。遊んでいる9一の竜を活用させるのが狙いです。△同銀なら▲同歩成△同金▲6二角成△5八歩に▲2一金△同玉▲6一竜から詰みます。本譜は▲4三銀に△同金▲同歩成△同銀▲3四歩△同銀▲6七金△同成香と進み、▲3二金からの詰みで先勝できました。
第2、3局も厳しい局面はありましたが、何とか連勝でき、結果としては驚くほどうまくいきました。これで王座通算24期、五番勝負の出場も連続25年で気がついたらもう四半世紀になります。
タイトル通算獲得数も97期となり、大台の100期に近づいていますが、基本的な力を上げていかないと実現するのは大変でしょう。最新の将棋にもちゃんと対応していかないといけません。
昨年の反省を踏まえ、今年は上向きにもっていけるよう、新たな気持ちで臨みたいと思います。
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