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世界でもトップクラスの教授陣を誇るビジネススクールの米スタンフォード大学経営大学院。この連載では、その教授たちが今何を考え、どんな教育を実践しているのか、インタビューシリーズでお届けする。今回は心理学からマーケティングを考えるジェニファー・アーカー教授の3回目だ。

講演やセミナーに参加したのに、終わってみれば何も記憶に残らなかった、という経験はないだろうか。その理由は、プレゼンがデータや数字ばかりで、そこにストーリーがなかったからだ。調査によれば、ストーリーは、データの羅列にくらべて、何倍も強く記憶されるのだという。ストーリーとデータの生かし方をジェニファー・アーカー教授に聞いた。(聞き手は作家・コンサルタントの佐藤智恵氏)

ジェニファー・アーカーJennifer Aaker
スタンフォード大学経営大学院教授。専門はマーケティングおよび心理学。主な研究テーマは、選択の心理学、消費者にとっての幸福の意味と選択との関係性、個人の小さな行動がいかに大きな変化をもたらすかなど。同校とスタンフォード大学デザインスクールで選択科目「VR/ARの世界をデザインする」「真剣なビジネスにおけるユーモアの力」「ビジネスの目的を再考する」、エグゼクティブ向けオンライン講座で「イノベーションを加速させるストーリーの力」「イノベーション・プレイブック:インパクトを与えるストーリーをデザインする」を教えている。著書に「ドラゴンフライ エフェクト ソーシャルメディアで世界を変える」(翔泳社)。

ストーリーはそもそも覚えやすい構成になっている

佐藤:ストーリーは、データの羅列や箇条書きよりも何倍も強く、私たちの記憶に残ると言われています。数字は忘れても、ストーリーは覚えている。その理由は何でしょうか。

アーカー:理由は3つあります。1つめは、ストーリーは人々の好奇心を刺激し、人々の心に直接訴えかけることができること。同じ内容をストーリーで伝えた場合とデータで伝えた場合、どちらが聴衆を行動するのにつながるか、といえば、もちろんストーリーのほうです。特に驚いたり、感動したりすると、どんどん話に引き込まれていきますから、さらに記憶に残ります。

2つめは、ストーリーは複雑な情報を整理して伝えてくれること。物語というのは、そもそも覚えやすい構成になっているのです。3つめは、ストーリーは、聴衆の予備知識とリンクすることができること。より強く脳内で記憶されるようにできているのです。

大量のデータからストーリーを導き出す演習

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

佐藤:とはいうものの、統計データや数字が不要というわけではないですよね。アーカー教授の講演ビデオをいくつか拝見しましたが、ストーリーの中にデータや数字をうまく取り入れているのがとても印象的でした。スタンフォードの授業では、どのようにストーリーとデータの組み合わせ方を学ぶのでしょうか。

アーカー:授業では、まず大量のデータをもとにストーリーをつくる、という演習を行います。学生は、「データサイエンティスト」(ビッグデータなどを分析する高度な専門職)と同じように、データからどのようなストーリーが経験的に導き出せるかを分析します。これはストーリーとデータは密接に関連していて、お互い補完しあう関係にあることを理解してもらうための演習です。

さらに、事前にデータとストーリーを集め、そこから10分間のプレゼンテーションをつくり、擬似取締役会で発表する、という演習も行います。ストーリーは消費者向けでも社員向けでも構いません。イントロで象徴的なデータを紹介してからストーリーを語る学生もいれば、面白いストーリーで注意を引いてから、データで裏付けしていく、という学生もいます。プレゼン後、提案を採用するかどうか、役員役の人たちが投票します。この演習は、ストーリーとデータを戦略的に構成することが重要なのだ、というのを学ぶのに役にたちます。

佐藤:どのプレゼンテーションにも通用するような最適な構成はあるのでしょうか。

アーカー:それはありません。誰に何を伝えるかで、プレゼンテーションの構成は違ってきます。ストーリーを伝えるということは、語り手と聞き手(読み手)の共同作業です。語る側は、ターゲットの属性によって内容もスタイルも変えなくてはなりません。

たとえば私が日本企業のストーリー性について事前に調査し、JR東日本テクノハートTESSEIの話をしたのは、日本の読者により興味を持って、私のインタビュー記事を読んでもらいたかったからです。

タニタやユニクロのストーリー戦略にも関心

佐藤:TESSEIのほかに、ストーリー戦略という観点から注目すべき日本企業はありますか。

アーカー:もちろんあります。1つめは、タニタです。タニタは、主に体重計など、家庭用・業務用計量器を製造、販売している会社ですが、タニタ食堂を運営し、「タニタの社員食堂」というレシピ本も出版しています。世界の人々の健康づくりに貢献する、というストーリーをテコにして、様々な事業を展開しているのは有名ですね。

2つめは、ユニクロ(ファーストリテイリング)です。ユニクロが優れた製品を世の中に送り出すことができるのは、素晴らしいビジョンがあるからだと思います。「ライフウェア:シンプルなものを、さらに良いものへ。」(LifeWear. Simple made better.)というブランドメッセージが象徴するように、「多くの人々の生活を良くしたいからこそ、シンプルで安価な製品を提供する」。ここに1つのストーリーがあります。

3つめは、千葉県松戸市の「パラダイスエア」という芸術家支援プログラム(HPはhttp://paradiseair.info)です。地元企業の協力のもと、国内外の芸術家を松戸に招待し、松戸でしかできない作品の制作をしてもらうプログラムです。ロングステイとショートステイ、2つの滞在プログラムがあり、スタンフォードの卒業生も参加しています。このプログラムが成功しているのは、誰もが共感できるミッションがあるからだと思います。参加したアーティストは、このプロジェクトの一員として大きなストーリーをつくりあげることができるのが魅力となっています。

佐藤:日本企業がアーカー教授の授業に登場する予定はありますか。

アーカー:今後も日本企業には注目していきたいと思っています。

「イノベーションを加速させるストーリーの力」(http://stanford.io/2gH6joF)と「イノベーション・プレイブック:インパクトを与えるストーリーをデザインする」(http://stanford.io/2hCRGnN)という2つのエグゼクティブ講座を通じて、日本人リーダーのために、さらに多くのストーリーや事例を紹介していきたいと思っています。

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