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プラチナ投資の誘引力 価格下落で金より割安感

2016/12/25

 地金やコイン、上場投資信託(ETF)を通じたプラチナ投資が国内で急増している。昨年から金の価格を下回る「逆転現象」が続き、現在のプラチナ価格を割安とみる投資家が多いためだ。値動きの荒さからプラチナ投資にはリスクが伴う。その値動きに売買益を得るチャンスを見いだす投資家もいるようだ。

 プラチナ投資が国内で急増したのは昨年から。貴金属販売最大手の田中貴金属工業ではプラチナ地金の販売量が16.7トンに達し、それまで最高だった2008年の13.6トンを2割強も上回った(グラフA)。

 プラチナの産出量は年間200トン弱と金の15分の1未満で、流通量も少ない。ところが、同社の昨年の販売量は金(32トン)の5割強に及ぶ。勢いは今年も衰えない。1~9月の販売実績は11.3トンと前年同期に比べ14%増加した。金の販売量が20.5トンと同9%減ったのとは対照的だ。

■コイン販売急伸

 コインの販売も伸びている。これまでプラチナコインは発行・流通量が少なく、投資人気が盛り上がっても店頭では品切れが常だった。プラチナコインには米国の「イーグル」やカナダの「メープルリーフ」があるものの、ともに供給は安定せず、既存コインの流通が頼りだからだ。

 だが、今年4月に金貨の販売で歴史のあるオーストリア造幣局の「プラチナウィーンコインハーモニー」(大きさは1トロイオンス=約31グラムのみ)が登場し、店頭で買いやすくなった。「プラチナコインの売れ行きも4月以降は金貨の半分ほどに膨らんでいる」(田中貴金属工業の加藤英一郎貴金属リテール部長)

 プラチナ人気の背景にあるのが、価格が金を下回る逆転現象だ。貴金属市場では金より希少で、生産コストも高いプラチナが金価格を上回ることが正常とされる。「リサイクルして地金に再生するコストも金に比べて高い」(加藤部長)。金地金や金貨の純度が「99.99%以上」が標準であるのに対し、プラチナは「99.95%以上」である理由も精錬コストの抑制にある。

 ところが、昨年からプラチナ価格は一貫して金価格を下回り、国際市場では一時、差が1トロイオンス300ドルを超え、過去最大に達した。

 プラチナ需要は自動車の排ガスを浄化する触媒をはじめ工業用途が6割を占める。工業需要の後退を招く世界の経済不安はプラチナ相場に下げ圧力となる。一方、金の工業用途は1割にすぎない。経済不安や地政学リスクは金市場にマネーが向かう材料になる。

 10年以降の欧州危機など世界経済の先行きに不安が強まると、まれに価格は逆転する。ただ、これほど長期間、大幅に逆転したケースはこれまでない。多くの投資家はそこに「買い時」を感じたとみられる。

 三菱UFJ信託銀行のETF「プラチナの果実」も金との価格逆転が顕著になった15年から投資残高が急増した(グラフB)。直近は約120億円と15年1月の4.5倍。東京証券取引所に上場するETF、上場投資証券(ETN)200銘柄のうち残高が10月時点で100億円を超すのは全体の4分の1で「プラチナの果実」はそこに食い込んだ。10月の売買代金も47億円と「金の果実」(56億円)に次ぐ28番目だ。

 「受益権口数でみて個人投資の比率が8割弱と金の5割より多いのが特徴。それでも地銀などの投資も入るようになった」(三菱UFJ信託銀行の星治フロンティア戦略企画部長)

 宝飾品のプラチナ需要は世界の8割近くを中国が占める。しかし投資需要の盛り上がりは日本特有の現象だ。「プラチナカード」「プラチナチケット」といった言葉に象徴されるように、日本人はとりわけプラチナに特別な価値を置く。

■値動き荒く

 貴金属投資は欧州やアジアで金、米国では銀の人気が高く、プラチナはあまり浸透していない。こうした構図は、プラチナの荒い値動きにつながる。金は日本に限らず、中国、インドなどアジアの投資家が急落場面で値ごろ感から買いに動く。プラチナは流動性が低く、急落場面で買いに入る投資家が金に比べ少ない。

 08年のリーマン・ショックをはさんだ価格変動も、プラチナは08年3月につけた1トロイオンス2251ドル台(ニューヨーク先物の期近)から10月には761ドル台と3分の1に急落。金は同じ3月の1014ドル台から10月の681ドル台まで、下落率が3割強にとどまる。

 三菱UFJ信託銀の調べでは、世界のETF残高もプラチナは2500億円程度にすぎず、金の9兆円や銀の1兆3千億円に比べるとまだ小さい。

 値動きの激しさに売買益のチャンスを見いだす投資家はいる。だが、プラチナは世界が経済危機に直面する局面で値下がり圧力が高まる傾向がある。資産として長期保有する場合も、金と異なる特色を持つことに注意は必要だ(表C)。

 金との価格逆転がいつ解消するかも見極めは難しい。米国が昨年から2回目の政策金利引き上げに動き、ドル高傾向が顕著になっても貴金属市場では金とプラチナの価格逆転は200ドルほどに及ぶ。

 「中国の宝飾品の売れ行きがさえず、世界のプラチナ鉱山生産の7割を占める南アフリカの採算がランド急落で好転していることなどが上値を抑えている」(ICBCスタンダードバンクの池水雄一東京支店長)。価格逆転を長引かせるこうした要因は、世界経済の先行き不安そのものだ。(編集委員 志田富雄)

[日本経済新聞朝刊2016年12月21日付]

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