外貨投資

為替にチャレンジ

10割打者を目指すな 外貨との上手な付き合い方 SMBC信託銀行 執行役員 プロダクト統括部長兼ポートフォリオ・ソリューション室長 小田川正知

2016/12/22

 半年にわたって連載してきたこの「為替にチャレンジ」ですが、今回で最終回となります。そこで今回は2016年の出来事と連載内容を振り返りながら全体をまとめ、最後に「為替に強くなるにはどうすればいいか」を考えてみたいと思います。連載ではこれまで様々な角度から為替に関するトピックについて触れてきましたが、大きく分けると「増やす」と「使う」というテーマに大別されています。

■マイナス金利の影響と外貨運用

 「増やす」ことから説明すれば、2016年はマイナス金利という大きな話題が出てきました。これは商品設計の企画をしている立場からすると、非常に頭の痛い問題です。本来、安定運用の要である自国通貨の国債がリターンの源泉にならないわけですから、ポートフォリオの運用でこれまでと同じリターンを生み出そうとすると、別のリスクを取り、足りないリターンを補う必要が出てきます。

 日本国債を投資対象から外した場合、その代替商品としてよく挙げられるのは日本株、J-REIT(不動産投資信託)などですが、全ての資産をリスクの高い商品に振り向けるわけにもいきません。国内社債も、格付けの高い優良銘柄はリターンが低い状況です。

 そうなると、ベース金利の高い海外の債券市場に目が移りがちです。また、日本よりも大きな成長が見込める海外の株式をポートフォリオの一部に組み込むことも検討対象になってきます。日本にいながらなるべく安定的な運用を実現し、リターンを少しでも高めたい場合には、為替リスクをマネージしながら、海外の資産を取り込むことが不可欠になっています。この辺の詳細は第11回「米大統領選後のポートフォリオ作り 外国資産が重要に」をご参照ください。

■外貨保有から見えてくる新しい世界

 とはいえ「海外の資産を取り込むと、リスクが高くなるのでは」との印象をお持ちの方も多いかと思います。ここで重要なポイントは、よりリスクの低い安定的な運用を目指す場合は、国内外の複数の資産に分散投資することです。投資信託で運用する場合もやはりマルチアセット戦略が重要で、過去の市場混乱時にも下落率が低かった商品を選んで使うのも一つの手です。これには第5回「円高にとらわれない投資戦略 外貨建て投信」が参考になります。

 また、リターンをそのまま享受できることから、「資産の一部をドルのまま保有し続ける」という新しい発想も一つの選択肢になります(第3回「円だけで暮らす私に、今なぜ外貨運用が必要なの?」をご参照ください)。当行は外貨建ての運用商品のラインアップが充実していると自負していますが、そのため、お客様の方も資産の預け先を分散されるのが上手であるように思います。例えば、運用資金の7割は国内の他社で、残りの3割はすべて外貨(主に米ドル)で当行に預けられている、といった方々も多くいらっしゃいます。当行に限らずそれぞれの金融機関の強みを踏まえて、預け先も上手に分散されているようです。

 次に、一旦外貨に替えた資産はどう扱えばいいでしょうか。円に戻さずそのまま運用し続ける方もいらっしゃいますが、最近は「海外旅行で使う」「外貨建て保険の購入に充てる」など、普段の生活の中で使っていこうという方が非常に多くなっています。この辺は第4回「預金から保険、ローンまで 外貨の商品は幅広い」第13回「銀行員が教える 海外旅行の『外貨』活用法」などに多くのヒントがあると思います。

 このように外貨と上手に付き合うには、「増やす」と「使う」をうまく使い分けることが達人への近道になるといえそうです。

■為替に強くなるコツは?

 私は仕事柄、「為替に強くなりたいのですが、どうしたらいいですか」という質問をよく受けます。私はこれまで米系の証券、銀行での勤務を通じて、国内外の数多くの運用担当者、お客様、ヘッジファンド、商品設計担当者などとビジネスをした経験がありますが、それら多くの経験を通して一つ言えることがあります。

 それは、総じて為替運用の上手な方は、打率10割を目指していないということです。すべての通貨の動きを詳細に、正確に捉え続けるのは至難の業で、プロのアナリストでも為替の先読みを的中させるのは簡単ではありません。「当てること」より重要なのは、長期的・俯瞰(ふかん)的に為替を捉える目と、為替が短期的に「何をテーマに動いているか」を整理する力の方です。この2つが備わってくると、為替市場を見るスキルが高くなります(第12回「最先端ヘッジファンド 『人間離れ』にまっしぐら」にも関連記事があります)。

 ですから個人投資家の方には、肩の力を抜いて、目先の相場動向に左右されず、「少額で」「ゆっくり」「長期間にわたり」外貨を購入して、積み立てていくことをお勧めします。皆さんは、例えば1990年以降のドル/円レートの平均値はどのくらいか、見当はつきますか。答えは110円66銭*です。2000年以降の平均値は108円29銭*です(*の数字はどちらも当行プロダクト部門調べ。下のチャートを参照)。

チャートのデータ期間:1990/1/1~2016/11/30(日次ベース) 平均値:上記期間の単純平均値 出所:Bloombergに基づきSMBC信託銀行作成

 意外にも足元のレートとさほど開きはなく、長期的に見ると「100円以下はドル買い、120円以上はドル売り」といった見方もできます。2016年は、まさにそのレンジを中心にドル/円相場が動いてきました。為替のチャートには5分足、1分足どころか「瞬間」を表すTickチャートまでありますが、それらとは全く逆に、このようにリラックスして長い目で為替相場を見るのも面白いものです。そしてゆったり構えるコツは、手持ち資産の全部をいきなり市場につぎ込まないこと。長期的視点で、為替や運用に向き合うことが重要なのです。いきなり大きなリスクを取ってしまうと、冷静に市場を見る目を失いがちになります。これはプロであっても同じことです。

 主に投資目的で売買される株や債券と違い、為替市場は投資以外にも輸出入取引や海外旅行のための両替など様々な需要があり、世界中の売買が交錯するマーケットです。従って長期的に見ると、円高・円安のどちらか一方向に動き続けるものではないと考えられます。その中で、例えば毎月一定額の外貨を長期的に購入していけば、その期間中の為替レートの平均値に近いところで購入することができます(これを「ドルコスト平均法」といいます)。この連載で外貨運用に興味を持ち、これから外貨取引を始めようという方には、短期的な相場変動で一喜一憂することなく、長い目で為替と向き合うことをお勧めします。

 それでは最後のまとめです。外貨とうまく付き合うコツ、それは「資産は分散投資し、その中に外貨を上手に組み込む」「長期的な付き合いを意識する」、そして「外貨のまま保有することも重要」「外貨で使うことを含めた視点を持つ」、の4点ではないかと思います。この4点をよく理解して、皆さんも幸せな外貨ライフをお送りください。

小田川 正知(おだがわ・まさとも) SMBC信託銀行 執行役員 プロダクト統括部長兼ポートフォリオ・ソリューション室長。米系証券を経て、2012年6月、シティバンク銀行株式会社入行。事業戦略企画部門 事業戦略部マネージング・ディレクター。13年9月より同個人金融部門個人商品本部長を兼任。15年11月、SMBC信託銀行へのシティバンク銀行リテールバンク事業統合に伴い、プレスティア事業部門 プレスティア商品本部長。16年4月より同執行役員。16年7月より現職。

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