ワインも温かい!ドイツの冬のマーケットは極上気分
ドイツ語圏の冬の楽しみといえば「クリスマスマーケット」。教会や市役所、宮殿が集まる一帯にはずらりと屋台が並び、辺りは一気に華やぐ。気温0度前後まで冷え込む屋外で暖かい飲み物を片手に、友人や家族と語り合う瞬間は格別だ。お薦めの会場を紹介する。
「早く来ないかと落ち着かなくなるんだよね」。夏時間も終わり夜が長くなる毎年冬になると、ドイツ人とこんな会話をかわすようになる。クリスマスマーケットはドイツ語で「ヴァイナハツマルクト(Weihnachtsmarkt)」。キリストの降臨節からクリスマスまでのおよそ4週間程度が目安で、あちこちで開かれる。
冬のドイツは日照時間が短く夕方4時をすぎると辺りは暗くなり始める。ライトアップされた屋台や周りの教会を見て、ご当地グルメを食べ、暖めたワイン「グリューワイン」を白い息をはきながら飲むと、あっという間に時は過ぎていく。常に人気上位に来るのが南部ニュルンベルクと、世界最古と言われる東部ドレスデン。ともにうっとりするような美しさだ。
ニュルンベルクは「おもちゃの街」
世界に名を知られるニュルンベルクは、天使の格好をした若い女性「クリストキント」のマルクトがテーマ。毎年の11月下旬、クリストキントが開幕を告げる映像がニュースで流れると、筆者はいよいよ楽しみな季節が始まったとそわそわし始める。
メーン会場は中央広場。巨大なフラウエン教会の前には特設ステージが設けられ、市民合唱団によるクリスマスソングが続く。近くの屋台でシナモン入りのやや甘いグリューワインを買って、ゆったり聴くと気分は和む。グリューワインは容器込みで6ユーロ(約730円)前後が相場だ。
この街で欠かせないのはその名も「ニュルンベルガー」。中指くらいの短いソーセージで、3本そろって丸いパンに挟んで提供され、香草の香りが食欲をそそる。この街は昔から人の出入りが盛んで、職人が多く住み着いていた多かった歴史から「おもちゃの街」の顔も持つ。屋台でかわいい木組みの玩具を買うのも楽しい。筆者は陶製のビール醸造所の照明器具を購入した。
家族連れには、徒歩で行ける別会場の「キンダー(子ども)ヴァイハナト」をぜひ訪れて欲しい。機関車やメリーゴーラウンドが集まり、子供たちが心から楽しむ姿が見られる。お酒が飲めなくても大丈夫。グリューワインと同じ容器で暖かい紅茶やリンゴジュースなどに蜂蜜を溶かした「プンシュ(パンチ)」も必ず売っている。
ドレスデンもザクセン王国の栄華や、旧東独時代からの復興を感じられてお薦めだ。ここで欠かせないのが伝統的な菓子パン「シュトレン」。切った姿は雪山とトンネルのようで、見た目も楽しい。
ミュンヘン 特設スケート場も
さて大都市には複数会場があり、はしごをするのも楽しい。徒歩圏内に個性派が集まるのがバイエルン州の州都ミュンヘンだ。中心街のマリエン広場の市役所前には毎年、巨大なツリーが置かれる。ここだけでも十分雰囲気を味わえるが、ここから西方向のメーンストリートを歩くと屋台がずらり。途中にビアホールもあり、本場のビールを堪能してから次の会場に移ってもいい。
10分でカールス広場に到着。ここには特設アイススケート場があり、滑りを楽しむ家族やカップルを眺めているだけでこちらも気が和む。もちろんここでもグリューワインが頼めるが、容器代込みで10ユーロと少しお高いのでご注意を。来た道を戻り、今度はマリエン広場から北に8分ほど歩くと、かつてバイエルン公国を治めたヴィッテスルバッハ家の本拠、レジデンツ(宮殿)が現れる。ここの中庭も会場だ。夜には薄紫色などでライトアップされ厳かな雰囲気に包まれる。「ひとときの貴族気分を味わえる」と会場にいたイェンスさんはにっこり笑っていた。
大人の味の独自のワイン
さらに北西に3分歩いた、ヴィッテルスバッハ広場は中世のマルクトがテーマ。屋台の店員は皆、革の衣装など当時の格好で統一している。ここは他会場と異なるアルコールのにおいがする。屋台で売るのは「フォイアーツァンゲンボウレ」。グリューワインの一種で、ラム酒なども入った大人の味。注文して手渡すときに角砂糖に火(フォイアー)をつけてくれる。あちこちでたいまつを持った人たち談笑して見える、幻想的な風景だ。
ちなみに広場の正面の白い建物は今年改装が終わった独シーメンスの本社。グローバル企業の中枢拠点の真ん前でこんなイベントを堂々と開けるのもドイツならではか。
この街には同性愛者のマルクトというのもある。ピンク色に包まれ独特のムードだ。ここの細かい紹介は行ってのお楽しみということにしておこう。
ドルトムント 世界最大級のツリー
さて、サッカーファンならばミュンヘン拠点の強豪クラブ、バイエルン・ミュンヘンのライバルの名前はすぐおわかりだろう。そう、日本代表の香川真司が所属するボルシア・ドルトムントだ。実はマルクトでもドルトムントも負けていない。
独西部のルール工業地帯に位置するこの街の目玉は、ハンザ広場に登場するクリスマスツリー。高さ45メートルと世界最大級だ。近くでよく見ると、通常のツリーを幾層にも積み上げるかたちで置かれている。大小様々な形をした約4万8千個の照明が使われ、サンタクロースなどが浮かび上がる姿は圧巻だ。ここでは「ブラートヴルスト(焼きソーセージ)」を片手に、ツリーを眺めているだけで時間が過ぎていく。
北に向かってみよう。首都ベルリンの観光スポット、ゲンダメンマルクトの会場は入場料(1ユーロ)をとる珍しい会場だ。料金をとるだけの理由はある。通常の屋台に加え、市内にあるドイツ、イタリアなどの有名レストランが出店しており、ちゃんと着席して食事ができる。高いレベルのコンサートも随時開かれていた。ベルリンは市内に50会場もあると言われ、地元住民であっても期間内に回るのは至難の業だ。
北ドイツの港町はまた南部のミュンヘンなどとは趣が異なる。運河で囲まれた世界遺産の街リューベック、中世のハンザ同盟の中核都市だったハンブルクとも昔のバルト海交流の歴史をしのぶことができる雰囲気があり、お薦めだ。
ウィーンにはパプスブルク家の威光を使ったマルクト
先述したようにマルクトはドイツ語圏の大イベント。ドイツやスイス、フランス・アルザス地方でも楽しめる。中でもオーストリアの首都ウィーンは外せない。ハプスブルク家の夏の離宮だったシェーンブルン宮殿前のマルクトは本当に麗しい。ゆったりした会場で、昼は竹馬で子どもが遊べるコーナーがあったり、宮殿を背景に大きな額縁に納まって写真を撮れたり、と家族連れでも満喫できる。
夕方になると、「マリア・テレジア・イエロー」と呼ばれる黄褐色の宮殿が照明で幽玄な雰囲気に包まれ、広場の雰囲気も一気に変わる。中世の欧州を支配したハプスブルク家の威光を使ったマルクト。ドイツに住む者として「これほどのキラーコンテンツはなかなかない」と降参してしまった。
マグカップ収集も一興
ところで、マルクト巡りをするならグリューワインのマグカップ集めを試してみるのも一興だ。コミカルなサンタクロースが描いてあったり、街の誇りの教会や旧市街がプリントしてあったりと、色もデザインも様々だ。街の名前が刻まれ旅先の思い出になり、毎年デザインが変更されるのも楽しい。
例えば、2016年のニュルンベルクは街にゆかりの神聖ローマ皇帝カール4世の生誕700年を記念したデザイン。15年のフランクフルトではドイツ再統一25年を祝うカップが提供された。グリューワインを頼めば4.5~7ユーロが相場。返却すれば2.5~4ユーロが帰ってくるが、そのまま袋に入れ帰ればいい。その街、その年だけのお土産と思えば、こんな貴重なものはない。
ドイツ滞在期間が限られ、効率的に収集したいなら、アウクスブルクという手もある。ミュンヘンから高速列車なら30分で着く、中世に活躍した富豪フッガー家の拠点だ。筆者は市役所前のマルクト会場で、赤、青、白、半透明で形状も様々な少なくとも7種類のマグカップを見かけた。一会場でここまで多様なカップを置いている会場は初めてみた。通常は一会場で1つのデザインのはず。世界で最初の福祉住宅を築いたフッガー家の伝統なのか、気前はよい。
もちろん「グリューワインをそんなに大量に飲めない」という人もいるだろう。そんな人に薦めたいのが東部のライプチヒだ。世界的に有名なゲヴァントハウス管弦楽団が拠点を置くオペラ座近くの会場には、マグカップ専門店があった。店員によると、60種類は置いてあるという。雪だるまのカップ、ハクション大魔王が出てきそうな形状カップ、グリッシーニを指しておきたいくらい長細い透明のカップまで何でもでもござれ。ここでお土産としてのマグカップまとめ買いもありだ。もちろん、この街にはバッハ博物館など見るべきものも多い。
ちなみにドイツ駐在4年目になる筆者が集めたカップが50個を超えた。1杯あたりの標準である200ミリリットルで換算すると、グリューワインを10リットル以上飲んだことになる。
2年前の日本への一時帰国の際に15個を持ち帰り、親族や友人に配ることになった。荷物が入らないと家族のひんしゅくは買うが、そのリスクを冒す価値はあった。それくらい本場のマルクトは楽しく、お裾分けしたい気分になるものだ。さて次の帰国の際には何を配ろうか。
(フランクフルト=加藤貴行)
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