1日2.5時間未満の人と比べたリスクを検討
エコノミークラス症候群は、肺塞栓症(Pulmonary Embolism:PE)と深部静脈血栓症(Deep Vein Thrombosis:DVT)を合わせた概念です。簡単に言えば、長時間座ったままの姿勢を続けている間に、脚の血流が悪くなって静脈の中に血栓(血の塊)が形成され(=深部静脈血栓症)、立ち上がって歩き出したことをきっかけに血栓が血流に乗って運ばれ、肺動脈を塞ぐ(=肺塞栓症)病気です。
肺塞栓症を起こすと、患者は突然倒れ、最悪の場合には死亡します。災害後の避難所生活で気をつけるべき疾患として、新聞やテレビでも報道されています。
今回、大阪大学大学院医学系研究科社会医学講座(公衆衛生学)の白川透氏らは、テレビの前に長時間座っていると、肺塞栓症によって死亡するリスクが高まることを世界で初めて明らかにしました[注1]。
白川氏らが分析対象にしたのは、Japanese Collaborative Cohort Study(JACC)という研究に参加した日本国内の45地域に住む人々です。JACCは、日本人の生活習慣ががんとどのように関連しているかを調べる目的で、1988年から1990年までの間に40~79歳の男女11万585人を登録し、追跡してきました。
今回は、それらの登録者の中から、登録時に1日当たりのテレビ視聴時間の平均を尋ねる質問に回答しており、がん、脳卒中、心筋梗塞、肺塞栓症を経験したことのない8万6024人(男性3万6006人、女性5万18人)を選んで分析しました。
1日のテレビ視聴時間の平均に基づいて、それらの人々を以下の3グループに分類しました。
・2.5時間未満:67万8199人
・2.5~4.9時間:56万2449人
・5.0時間以上:15万7922人
これらの人々が肺塞栓症で死亡したかどうかを、2009年末まで、19.2年(中央値)追跡したところ、59人が肺塞栓症を発症して死亡していました。内訳は、テレビ視聴時間が2.5時間未満のグループが19人(10万人当たり2.8人)、2.5~4.9時間が27人(10万人当たり4.8人)、5.0時間以上が13人(10万人当たり8.2人)でした。
参加者の年齢や性別、生活習慣や健康状態を考慮して分析しても、テレビ視聴時間が長いことは、肺塞栓症による死亡リスクの上昇に関係していました。視聴時間が1日2.5時間未満の人々に比べ、2.5~4.9時間の人々の肺塞栓症による死亡のリスクは1.7倍で、5時間以上の人々では2.5倍になりました。また、テレビ視聴時間が2時間延長するごとに肺塞栓症による死亡リスクは1.4倍になっていました。
長時間の視聴であっても、CMや番組宣伝の時間に立ち上がって体を動かせば、肺塞栓症は発生しにくくなります。
また、今回の結果は、仕事や趣味のためにパソコンの前に座り続けている人にも同様のリスク上昇が起こる可能性を示唆しています。適度な休憩を挟んで作業を続けることが大切です。
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
[日経Gooday 2016年10月26日付記事を再構成]