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「レンタル移籍」で人材育成 大手からVBへ仲介 ローンディール社長 原田未来氏

2016/12/28

 サッカー界には、期限付きで選手を移籍させる「レンタル移籍」制度がある。これをビジネスにも応用できないかと考え、起業した人物がいる。人材サービス関連ベンチャー、ローンディール(東京・世田谷)の原田未来氏だ。先ごろ、人事関連サイト「日本の人事部」が主催する「HRアワード2016」で「人材開発・育成部門」優秀賞も受賞したばかり。改めて起業の理由などを聞いた。

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 待ち合わせたのは、東京都渋谷区にある雑居ビルの一室だ。といっても、原田氏がここにいるのは月のうち3分の1ほどしかない。多くは、打ち合わせや商談のために動き回っている。

 「じつは、ここも知り合いのオフィスを間借りさせてもらっているんです」。共働きの妻と交代で、週のうち3日は6歳の娘を保育園に迎えに行く。商談がない限り、夜は子供を寝かしつけながら午後10時には寝てしまい、翌朝4時に起きて仕事をする。

 オフィスの家賃や光熱費は最小限で、雇い入れたスタッフもゼロ。すべてをたった1人でこなしている。そんな弱小ベンチャーに今、大企業の人事部が熱い視線を送っているという。なぜだろうか――。

■イノベーション人材の育成にも魅力

ローンディール社長 原田未来氏

 原田氏がローンディールを起業した目的は、大きく2つある。1つは大企業の人材を設立間もないベンチャー企業にレンタル移籍することで、ベンチャー企業の人材不足を補うというもの。もう1つは、ベンチャー企業での勤務経験を提供することで、イノベーション人材を育成する。大企業が注目するのはもちろん、後者の方だ。

 原田氏がこの仕組みを思いついたのは2013年、まだ電子商取引(EC)サイトを運営するラクーンに勤務していた時だった。

 「もともとサイト用に使用する写真撮影のアルバイトとして入ったのですが、ベンチャー企業ですから、人の出入りも激しく、すぐに人手が足りない状態に。01年に営業職として採用され、06年にラクーンが東証マザーズに上場した時点では営業部長を務めていました」

 上場企業の営業部長ともなれば、それなりにチヤホヤもされる。一方で、不安も募っていったという。

 「ある程度の仕事はこなせるようになりましたが、小さい会社ですから、お手本がいない。何から何まで我流でこなすしかない状況の中で、中途採用の人が入ってきたりすると、うまくマネジメントできなかったり、キャリアパスに関しても自分が経験した範囲内でしか話をすることができず、限界を感じることも多かったんです」

 閉塞した状況を打開しようと、原田氏は思い切って従業員規模が約10倍のカカクコムへ転職した。そこで、まったく違う規模感と社風、マネジメントの手法などに触れ、改めてこう感じたという。

 「1社目で限界を感じたのは、会社のせいではなく、自分の視野が狭かっただけなのではないか。この経験を持ってもう一度、ラクーンという会社に戻れたら、もっと違うことができるんじゃないか」

「レンタル移籍なら、人間関係を保ったまま、外へ出て成長の機会を得られる」

 転職すれば、信頼関係を一から構築しなおさなくてはならないが、レンタル移籍ならば人間関係を保持したまま、外へ出て成長の機会を得ることができる。

 1年半で痛感したこれらの思いが、原田氏に起業を決断させた。15年、38歳だった。「勝負をかけるなら、リカバリー可能な40歳までにしたい」という気持ちもあった。

■6カ月でもドラマは体験できる

 大企業からベンチャー企業へのレンタル移籍は、週3回の勤務から選べる。期間は3~12カ月間。契約企業の要望に基づき、約100社の加盟企業から受け入れ可能なベンチャー企業をリストアップ。原田氏が仲介役となり、事前に競合を避けるなどのすり合わせをしていく。

 人材を貸し出す大企業側には、まず対象となる人物を社内公募で選んでもらい、原田氏も入って面談などした上で、個別にプロジェクトを設計する。移籍中の扱いに関しては、出向や研修派遣など複数のバリエーションを用意している。

 移籍中の給与・賞与・社会保険(労災保険は除く)は、あくまで大企業側の負担となる。コーディネートしたローンディールは、双方の企業から1人あたり毎月10万円を受け取り、レンタル移籍中も送り出した人材が希望する体験ができているかなどを定期的に調査し、フォローする。

 「重要なのは、これはあくまで元の組織に戻ることを前提とした制度だという点です。現在の仕事に不満があり、辞めたいと思っている人は移籍の対象になりません」

 移籍する期間については、大企業の担当者から「短いのでは?」と聞かれることもあるそうだ。しかし、大企業で過ごす時間とベンチャー企業で過ごす時間では、スピード感も濃密度合いも、まったく違う。「6カ月もあれば、必ずドラマのある場面に遭遇します」と原田氏は言う。

「スタートアップ企業での経験は、かなりの刺激になっている」

 原田氏にインタビューする前、あるイベントで、ローンディールの仕組みを使い、社員数わずか3人のスタートアップ企業に派遣された人物が、その体験を話すのを聞いた。聴衆の多くは大企業の人事・企業の社会的責任(CSR)担当者。ヒト・モノ・カネも豊富で分業化が前提の環境に慣れたビジネスパーソンにとって、とにかく、なんでもやらなくてはならないスタートアップ企業での勤務経験は、かなりの刺激になっているようだった。

 規模は小さくても、希望すれば経営会議にも参加でき、重要な意思決定に触れることができるのは、ベンチャー企業ならではの醍醐味と言える。

 15年7月に会社を設立し、9月にサービスを始めたローンディールの仲介実績はまだ2件。市場規模は未知数だが、追い風は吹いている。

 「イノベーションを起こせる人材を社内でも育成したいと考える企業は多く、問い合わせはひっきりなしにあります。今は私から営業の電話をかけることはなく、企業さんから来た問い合わせに応える形で商談が進んでいくことがほとんどです」。17年度には複数の大手企業で導入が決定しているという。

 大企業にとっては、せっかく育てた人材を放出することなく、彼らに成長の機会を与えることもできる上、人的交流を通じ、これまでつながりのなかったベンチャー企業とのパイプもつくれる。いわば一石二鳥の制度。たった1人の思いだけで立ち上げたサービスは、今後、どこまで伸びるのか。

原田未来氏(はらだ・みらい)
1977年千葉県市川市生まれ。2001年立教大学文学部卒、ラクーン入社。同社営業部長として2006年東証マザーズ上場に貢献。2014年カカクコムに転職、2015年ローンディール設立。

(ライター 曲沼美恵)

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